ーー

わたしは、不思議だった。

アーニャは大胆な性格ではない。

どちらかと言えば、慎重だと思う。

そんな彼女が、わたしを陥れたのはどうしてなのか。

もしかしたら、誰かにそそのかされたのではないかと考えた。


だからわたしは、前回の死に戻りでアーニャと彼女の周辺を調べた。

アーニャに、いったい何が起こっていたのか。

もしくは、誰が彼女に影響を与えたのか。


最初に目を付けたのか、アーニャがほれ込んでいた舞台俳優トラス・カーシュ。

幾度となく繰り返す死に戻りで、アーニャがおかしくなっていくのは決まってトラス・カーシュと出会ったあと。


だからわたしは、アーニャと一緒にトラス・カーシュが出ている舞台を見に行った。

そして、アーニャが一目惚れする瞬間を目撃する。


恋をした日から、アーニャは少しずつ、少しずつ変わっていった。

恋をすると人は変わると聞いたことがある。

でも、その変わりようは少し異常だった。


トラス・カーシュはアーニャに何をしているのか。

それを知るために、アーニャと共にトラス・カーシュに会いに行った。


わたしから見たトラス・カーシュは、話術にたけ視線や仕草で人を惹きつける魅力的な男性だった。

でもわたしは、彼がアーニャに向ける視線や態度に微かな違和感を覚える。


一見、彼はアーニャに恋をしているように見えた。

でも、どこかそんな男性を演じているように感じたのだ。


アーニャがトラス・カーシュに恋をして約一月後。

ミッドエイト国とわたしの住むオルティース国の間で、小さな問題が起こる。

それは、死に戻るたびに起こった問題の一つで、原因は「薬物」だ。


「薬物」の名前は「スノー」。

中毒性が強く、一度手を出すと止めることが出来ないと言われている危険な物だった。


その「スノー」が、オルティース国で大量に作られているとミッドエイト国から知らされた。

オルティース国は「調査をしたがそんな事実は無い」とミッドエイト国に報告。

ミッドエイト国はその調査に異議を唱え、二国間の間に微妙な空気が生まれた。


そんな中、ある伯爵家の嫡男が「スノー」によって死亡する。

そしてその死亡した嫡男が「スノー」を大量に所持していたことが発覚。

そこから伯爵家が調べられ、それをきっかけに二国間をまたにかけた巨大な組織の存在が判明した。


そして両国が協力して、その組織を壊滅。

そこで活躍したのがバラスティア公爵家とチャス伯爵家。

わたしを死に追いやった者達の家になる。


前回の死に戻りで、わたしはアーニャだけでなくわたしを死に追いやった者達について調べた。

その結果、いろいろなことが見えてきた。

たとえば、「スノー」を作っていたのは、バラスティア公爵家の分家だとか。

チャス伯爵家はそれを知っていたとか。

本当に、いろいろと。


そして、「スノー」問題でオルティース国に不穏な空気が流れている時。

わたしは、トラス・カーシュがある人物と会っている現場に遭遇した。

そしてわたしは、彼の正体を知った。

なぜなら会っていた人物が、一月後にスパイ容疑で捕まる者だったからだ。


その頃のアーニャは、わたしの物を盗み出すまでに変わっていた。

トラス・カーシュに貢ぐために。

それが彼の指示だったのか、それともお金に困っていると言って騙されているのかは分からなかった。


まぁ、どちらでもいい。

だって、それが脅す材料になることは無いから。


わたしは前回の死に戻りでアーニャに脅しをかけた。

「主の持ち物を盗むことは死罪になる」と。


それからの彼女は、わたしのためによく働いてくれた。

裏社会との繋がりも、情報屋との連絡も。

でも、少し追い詰めすぎてしまったみたい。


ある日、アーニャはわたしを襲った。

護衛にすぐ殺されたが、これで予定が大きく変わってしまう。

なぜなら彼女が死んだことで、非常に動きにくくなってしまったからだ。

今回はもっと上手に、彼女を動かさなければ。


アーニャが死んだ数日後。

わたしは、トラス・カーシュに会いに行った。

アーニャの死を報せると、とても悲しんでくれた。


それを見て、わたしは笑ってしまう。

だって、あまりにも彼が大げさに悲劇を演じるから。


笑ったわたしを不思議そうに見るトラス・カーシュ。

そんな彼を、少し揺さぶりたくなった。

ただの衝動。

いや、わたしからアーニャを奪った怨みもあったのかもしれない。


彼はわたしの「お金を貢いでいた者が死んで残念ね」という一言に、とても憤慨した。

「なんてひどいことを言うのだ」と「俺は彼女を心から愛していた」とも。

だから、聞いた。

「ミッドエイト国のスパイが本気で恋愛したの?」と。


一瞬だけ、彼は素の表情になったように見えた。

ただすぐに、いつものトラス・カーシュの表情に戻ってしまったが。


聞いた後に少し後悔した。

もしかしたら、わたしは消されるかもしれないと。

殺されることはどうでもいい。

ただ、まだ調べられていないことが多く、もう少し時間が欲しいと思った。


わたしは時間を稼ぐために、トラス・カーシュを利用することにした。

スパイでは無いと否定する彼の話を無視し、「仲間のスパイが捕まる」と教えてあげる。


そして数日後、トラス・カーシュから手紙が届いた。

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