ふと目を覚まし、首に手を当てる。

自分で喉を切り裂いたが、傷は無い。


まぁ、それは当然ですね。

だってあれは。今から五年後の出来事なのですから。


ベットの淵に座り、部屋の中を眺める。

そしてベットサイドの棚を見て、小さく笑う。


「ふふっ。やはりここに戻って来るのですね」


棚の上にある物に手を伸ばす。

手の中には、第二王子ガルーダから婚約者に贈られた、彼の瞳の色に似た宝石が光るブレスレット。


昨日、これが手元に届いた時は嬉しかったのだろうか?


「きっと嬉しかったはずよね」


でも、それも昔のこと。

今は、このブレスレットに対して心が動くことは無い。


首に指を這わす。


「いつまで、こんなことが続くのかしら」


死んでは、過去に戻る。

それをわたしは、何度も何度も繰り返している。

しかも、死ぬ原因は冤罪による処刑。


第二王子ガルーダの恋人を殺そうとしたらしいけど、わたしは何もしていない。

そもそも、第二王子のことなど好いてはいない。

それなのに嫉妬?

ふふっ、馬鹿々々しい。


でも、わたしの声は誰にも届かない。

始めの頃は、「死」の恐怖から運命を変えようと奮闘した。

でも、いつも冤罪で処刑された。


最初は、斬首刑。

首を刃物等で、胴体から切断する刑。

刃が落ちて来る時の恐怖も、切られる痛みも一瞬。

初めて冤罪で殺さたから今でも鮮明に覚えているけど、一瞬で死ねる刑だ。


次は、毒殺

毒で絶命させる刑。

使われる毒によって苦しさが違う。

わたしに使われたのは、長く苦しむ毒だった。

でも、他の刑に比べたらいくらかマシだったかもしれない。


次は、磔刑。

板や柱などに縛りつけて、槍などを用いて殺す刑。

すぐに殺さないように加減して刺されるから、これは数日苦しんだわ。

じわじわくる苦しみに、もの凄く悲しい気持ちになったわ。

それに、無駄に時間があると余計なことまで考えてしまって。

心が苦しくなる刑だったわ。


次は、火刑。

火で炙ることにより絶命させる刑。

この刑は……どの刑よりも苦しくつらく地獄だった。

本当に、二度と経験したくない刑よ。


次は、国外追放。

国外に放り出される刑。

この刑を言い渡された時は、今度こそ死ななくてもいいのかもしれないと密かに喜んだわ。


でも、違った。

わたしは、国外に向かう馬車の中で騎士たちに何度も穢された。


そういえば、あの時はいつ死んだのかしら?

おかしいわ、覚えていないみたい。


あぁそうか、わたしはあの時におかしくなったのね。

だから、目を覚ました瞬間に首にナイフを刺して自害したんだわ。


死への恐怖と刺した時の痛みより、穢された自分を見たくなかったから。

それなのに、また目を覚ましてしまった。

あの時は、今まで以上に、死に戻りに恐怖を感じたものよ。


こんなことが、いつまで続くのかと。


泣きながら、何度も自害したことを覚えているわ。

でも、何度死んでも戻ってしまう。

あの絶望。

そして、十回目。

わたしは、すべてを諦めた。


「そういえば、あの日からね」


ナイフで刺しても痛みを感じなくなったのは。

それと同時に、恐怖を覚えることも無くなった。


「ふふっ。痛みも恐怖も、もうわたしを苦しめることは無い」


窓辺に行き、カーテンを開ける。

窓の外はまだ薄暗く、不気味さを感じる。


窓に映る自分の顔が、ひどく歪んでいることに気付く。

意識して、にこりと微笑む。


「笑いなさい。わたしのために」


笑って周りを安心させるのよ。


「今までどおり、周りの者たちが望む『わたし』でいてあげる。その時が来るまでわ」


前々回の死に戻りで、わたしを死に追い込む者たちがわかった。

そして、どうしてあんな残酷な刑になったのかも。


「まさか、彼女たちが望んだ方法だったなんてね」


この国はこれまで、磔刑も火刑も行われたことが無い。

それなのにどうしてわたしは、磔刑で刺し殺され、火刑で焼き殺されたのか。

ずっと気になっていた。


それが、たった二人の女性が望んだからだなて、笑えるわ。


窓に映る、微笑む自分に視線を向ける。


「今度はこちらの番よ。あなたたちは、どんな表情を見せてくれるかしら?」


窓に映る自分の頬に手を伸ばす。

冷たいガラスの感触。


「それが終われば、わたしは死ねるかしら」


それとも、また?


「ふふっ。考えても無駄なことですわね」


そう、先のことなんて誰にもわからないもの。


ゆっくりと夜が明けていくのを、静かに見つめる。

暗かった場所に陽の光があたり、キラキラと輝きだす。


昔は、この光景を綺麗だと思った。

でも今は、わたしとは別の世界で起こっていることのように感じる。


狂ってしまったわたしは、どこへ行くのかしら?


「いつか……」


わたしにも安らぎが訪れるだろうか?


太陽が顔を出す。

世界が光りに包まれ始める。


それに目を細め見つめ、カーテンを閉めた。


「安らぎなどいらないわ。わたしが欲しいのは」


わたしを殺した者たちが苦しみ、そして死んでいく姿よ。

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