現実世界で無能な私が異世界転生で世界を救う??

@tsuratsurakakisan

第1話 異世界転生 ~底辺OLが救世の勇者に~

「あれ?ここはどこ?」

東京の繁華街で働く底辺OL、藤原美月(ふじわら みづき)は、どきどきしながら緊張いっぱいでPCに向かっていた。

メールの見直しを3回した後に、送信ボタンを押した。その後、溜まっていた他の仕事をこなしていた。

「藤原さん???ちょっとさっきのメール、送信先多くない???」焦った声で先輩社員が声をかけてきた。「えっ?」何度も見直しをしたのに、そんなはずはないと送ったメールを見返す。確かに、見覚えのない宛先が3つ入っている。

「これ、お客さんの企業秘密の入ってるファイル添付してるよね…?」

目の前で課長が青ざめた顔をしている。

「えっどうしたらいいですか…?」うんざりした先輩の顔を見ながらも、頭が真っ白になってしまった私は次の行動を確認する以外できることがなかった。


「はぁ……。」

トイレの個室が会社で唯一落ち着ける場所になってしまった。仕事のできない底辺OLの憩いの場所。

二十八歳にもなるのに、なくならないミス。ミスをしても一人で対応をしきれない。(仕事向いてないのかなぁ)

「藤原さんマジでやばくない?さっきのミスとか笑えないよね?」

「もうあの子どっか飛ばしてくれないかな、ジョブローテーションとかなんかで。いるだけで仕事増えるわ、本当。」

先輩と後輩の会話が、扉の外から聞こえてくる。

やばい、このまま心抉られる話を続けられたらもうでるに出られなくなる。トイレを流して、さりげなく出なきゃ。

トイレのレバーを下げて、トイレを流して音をさせる。


ジャー……。


ぐるぐると渦を巻いている様子を見ていると、このまま私もろとも飲み込んでほしい衝動にかられる。

そう思うと急に渦の先が光出した気がする。心なしか意識も遠くなってきた。

(やばい、めまいかな?鬱になったら休職できるし、いっそこのまま倒れちゃおうか。)




「まさか、これって……異世界?」

美月はあたりを見回すが、そこにはトイレは一台もない。あたりに水なんか一滴もない洞窟に天井にちょうど穴が空いていてピンポイントに私だけを光が当たっている。

なのみ私は何故かびしょ濡れで、ここに座り込んでいる。

(私本当に、トイレに飛び込んじゃったのかな…汚っ)


そんなことを考えて戸惑いの中、突然私の前に現れたのは、異世界の住人たちだった。


「勇者!」

急に大きな声がした方を見てみると、小さい犬がにほん足で立っていた。

「いぬっ!?」思わず声を上げてしまった。

「犬って言わないでくれる?人間!」


仕返しのように人間呼ばわりされた私は、何も言い返せずにいた。

強い言葉を投げられると何も言い返せなくなってしまう。


「さあ早く行こう!みんなに知らせなきゃ!」

いぬさん(犬と呼ぶと怒られるからせめてさんをつけておこう。)に腕を引っ張られながら、洞窟の中を駆け出した。

「えっちょっと待って迷わない?大丈夫?」不安になりながら、いぬさんにそう話しかけるが、いぬさんは一切振り返らず「こんな洞窟で迷う人なんていないよ!そんなことより、早く村に向かわないと!」


 そう言いながら駆け抜けていくと、次第にあたりは明るくなり洞窟の出口が見えてきた。「ほら!あそこだよ。僕らの村!」

(すぐそこやんけ)


そこはテントがいくつも立っていて、その真ん中には人が集まっていた。

「みんなー、見て!勇者を捕まえてきたよー!」


あたかも犬に捕獲されたかのような言われように、少しやるせない気持ちになるがそれよりも目の前の人物たちを見て(あぁ、本当に私は異世界にきてしまったんだ。)という気持ちが勝っていた。


目の前には猫や犬だけでなく、狐や兎。鳥・ライオン・サル・ワニなど様々な動物たちの中にわたしを引っ張ったままその輪の中に入っていった。

(いや、なんか可愛いフォルムじゃなくてみんなリアルな動物なんだけど。ライオンの中に入っていって大丈夫!?)


「ルーク!本当か、成功したのか!」そんなことをいってライオンが近づいてきた。「うん!村長、僕成功したよ!やり遂げたんだ!」

村長と呼ばれるそのライオンは、長老くらいの貫禄を感じさせる声をしていた。

(声以外で、年齢の判別ができない…)


ルークと呼ばれているいぬさんの言葉に周りの動物たちが、集まり私を囲んできた。


「本当か!この人間がそうなのか!すごいじゃないか!」

「おい、あんた。どんな能力を持ってるんだ!炎タイプか?水タイプか?」

「タイプなんかなんでもいい!威力はどんなもんなんだ。今見せてくれ!!」

「ばかか。ここで勇者の魔力なんか披露したら村全部吹っ飛んじまうよ!!」


目の前の動物たちは思い思いに興奮していて、好き好きに話している。


「おい!!お前ら!そんな勇者様を囲んでんじゃねぇ!戸惑ってらっしゃるだろうがぁ!!」


私を囲んでいる動物たちの後ろからとても野太い声が聞こえた。

その声に私を囲っていたワニやクマなどの動物たちは、一気に背筋を伸ばしてサッと道を開けた。開けた視界の先には、鳥が立っていた。

(ワニやクマを手なづけるとり………。)


「勇者様にこの村を救ってもらわにゃいけないんだ。そんな態度でいいと思ってんのかお前らぁ!!今すぐおもてなしの準備をしやがれ。さぁ動いた動いた。」


「あいあいさーっ!!」


動物たちはピシッと手を頭につけ、敬礼のポーズをとった後サーっとどこかに散らばっていった。


「あんちゃん!おいらは、どうしたらいい?」

「ルーク。お前は、勇者様を召喚した成功者だ。宴の準備ができるまで、勇者様をお前の家でもてなしていてくれ。お前も今日から、この村の守護神なんだからな!」


ルークはその言葉に、とっても嬉しそうな顔をしてくるりとこちらに体を向け直した。


「さあ勇者。こっちにおいで、僕の家にご招待だ!」

私は、ルークにまた腕を引っ張られるままこの場所を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ねぇ、ルーク?」


ルークの家らしきテントに入り、ルークがルンルン気分でソファでくつろぎ出したところで私は大事なことを確認することにした。


「何?あっ名前聞いてなかったね。名前は?」

「私は、藤原美月。美月が名前だけど、、、」

「長いね!ミーって呼ぶことにするよ!ミーもその辺に座って寛いでてよ。今のうちに、これから大変なんだからさ!」


「これから大変って何があるの?私勇者呼ばわりされても困るんだけど、、、、」

「何いってるんだよ。そんなとぼけてくれるなよ〜。現に僕は召喚の儀をしていたら君が現れたんだから、君はこれから悪と対峙し世界の救世主となる運命なんだから!」


異世界転生し、目の前にこのワンちゃんがいた時点で嫌な予感はしていた。私のことを後光の如く照らしている日差しといいシチュエーションが良すぎた。


「その儀ってなんの儀式なの………?」


本当は聞きたくないけど、聞きたくない事実こそ早めに聞かないと悪くなる一方なのは会社員生活で痛感していた。

私の不安をよそに、ルークは得意げに話し始めた。


「この村には、言い伝えがあってね。世界に災いが訪れたとき、この村の守護神が召喚の儀を行うと、世界を救う勇者を召喚されるって!」


「1ヶ月ほど前から、ドラゴンが突如として現れて度々色んな村を襲ってるんだ。僕らの村も襲われた、だから今はこんなテント暮らしをしている。もう1ヶ月もこんな生活が続いているけど、またいつあいつらが現れて今の生活が奪われるかもわからない。蓄えていた食料だって、そこを尽きそうだ。そしたら、今度は僕らが別の村の住民と食料の奪い合いを始めなければいけない。」


ルークの話にすでにめまいが起きそうになる。


「だから僕は2週間前から、召喚の儀式を始めたんだ!勇者が召喚されて、ドラゴンを退治してくれれば、僕らはまた平和に暮らせる!いやぁ一か八かだったけど、無事勇者みーを召喚できてよかったよ!」


「いや、私そんなドラゴン対峙とか無理なんだけど………。」

「そんな謙遜しないでよ〜。ミーはなんの魔法が使えるの?あ、ここで見せないでね!勇者の中にはこの世界に来た途端に制御が効かなくなる人もいるらしいから!」

「いや、私魔法なんて使えない………。」

「あぁ、魔法なんて使えないのか〜まあそういうことも………えっなんて?」

「いや、だから私魔法なんて使えないから使い方を教えてもらえないと無理………。」

「いや、そんなわけないじゃない。今まで歴史上、召喚された勇者の中で魔法が使えない勇者なんていなかったし」

「いや、そんなこと言われても私のいた世界に魔法なんてなかったし………。いや、でもこの世界の私には使えるのかもしれないし。この体は魔力を秘めているのかもしれないから、教えてもらって練習すれば私にも……」


ふとルークの先にある鏡が目に入った。その鏡の中には、現実世界にいた時の私の姿そのままだった。


(えっ?転生って中身だけじゃなくて、もしかして体ごと転生したの?)

そうであれば、私に魔法なんて使えるわけがないし、この先も使えるようになるわけがない。



「ルーク、私………」

「この世界には、魔法なんて存在しないから教えられる人間なんていないよ?」

「………。」



「私は、勇者を降りて自分の世界に戻るので、他を当たってください。」

「待って!ミーそんな薄情なこと言わないで。今からまた儀式を始めても次勇者を召喚できるのなんていつになるかわからない!そんなことしてる間にドラゴンにこの世界の全て飲み込まれちゃうよ!」


「そんなこと言われたって、私にはドラゴンと戦える力は持ち合わせていないもの!無理よ。できないことは引き受けない!自分のできないことは引き受けないことは大事なの!」


「そんなこと言われたって。あっ待ってミー!どこ行くの!」


とりあえず、あの洞窟に戻って何かすれば戻れるかもしれない。会社にもどろう。こんな大役を引き受けるなんて私には無理!!

そう思いテントの入り口を出た瞬間にあの鳥と出会った。


「あ、勇者様!今ちょうどお迎えにあがったんですよ!」

「あ、いえ私は………」

「宴の準備ができたので、こちらに!おい、ルーク!お前もくるんだっ」


「いえ、あの私はもう………」

帰ります。そう続けようとした途端に、鳥が強い視線をこちらに向けてきた。


ドキンッ


怖い………この視線を向けられた私は底辺力を発揮し何も言えなくなった………。


「さぁ、こちらへどうぞ?」

「はっはい………。」


私、逃げられるのかしら………。


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