ロマンティック・ラブ・イデオロギー

源五郎さんは、凄いという表現がピタッと合ってる。

私、恥ずかしくって両手を広げて、顔を隠したの。

えっ、みんな同じでしょ。

そういう時、指の隙間開けてるよね!

何かうまか棒、初めて見た時みたいだったわ。

あれは小学校の時、お祖父ちゃんに連れて行ってもらった地方の駄菓子屋さんだったっけ。

源五郎さんは何処までも私のおじいちゃんに似てる。

そう思ったら私、恥ずかしさが消えちゃって。

源五郎さんなら裸を見られても平気になって、彼の正面に体を向けたの。

そしたら源五郎さん、顔を真っ赤にして、うまか棒を両手で隠して、湯船に飛び込んじゃって。

その後も一度も私の方を見ないで、全然動かないで話してたわ。

なんか、学生君みたいで、すごく可愛かった。

それに私が身体を洗ったり、お風呂から出て休憩したりしている間、源五郎さんはずっと同じ姿勢で湯船に使ってるから「大丈夫?」って声かけたんだけど「大丈夫です。」って男らしく言い切ってて逞しいなって思って。


そろそろ飽きてきた私は、上がろうよって言ったんだけど・・・


「メイさん、先に上がってください、体が温まったので洗ってから家族湯にいきましょう。」


って気を使ってくれて。

私、着替えの勝負下着つけて待ってたんだけど。

それが、大変な事になっちゃって・・・。


客室露天風呂を出て、次の家族湯に源五郎さんと手を繋いで行こうと待ってたんだけど中々露天風呂から出てこないの。

念入りに洗ってるのかな?色んな所を。

って想像してたら待ってる間が短く感じて、気が付いたら30分経ってて。

あんまり出てこないから客室露天風呂を覗いてみたら源五郎さん、湯船の中でグッタリしてたの。

慌てて旅館の人に連絡したら駆け込んできた仲居さんが「これはいけない」ってなって。

女将さんが救急車呼ぶ騒ぎになってしまって。


結局私は、温泉に浸かっただけで帰ってきちゃった。


これは神様が、メイにいけないことしちゃ駄目って言ってるんだわって思って。

うぅん、きっとお爺ちゃんが、私可愛さに焼いてるんだわ。

きっと・・・



メイのおばあちゃんのお話をするね。

といっても源五郎さんに似てるおじいちゃんの奥さんじゃなくて、莓瑠のおばあちゃん、つまり私のお母さんのお話。


おばあちゃんはね、とっても頭が良くて、日本で一番頭のいい人が行く高校、大学を卒業して、おじいちゃん、つまり…ややこしくなるからちゃんとするね。

メイのお父さんの専業主婦として私を育ててくれたの。

お母さんはいろんなことを私に教えてくれたわ。

でもね、メイがお母さんの話を理解できたのは、仁樹と結婚してからよ。

だってお母さん、専業主婦の目線でいつも話してたから子供の私はちんぷんかんぷん。

昔は封建的な家族関係だったとか、昔の男は妾を持つことを周囲に臨まれていたとか。

メイがそれを聞いていたのは莓瑠と同じ歳の頃だったんだもの。

その話の中にね、婚外の性愛関係っていうお話があって、つまり浮気よね。

一夫一妻の制度が出来上がった頃の日本人の考え方は、妻以外、夫以外という婚外関係を批判的に考える人が全てだったって。

でもそれはね、制度を重要視する規範的論理が使用されていたんだって。

なんていってたかなぁ?

うぅーん・・・

あっ、そうそう、ロマンティック・ラブ・イデオロギーって呼ばれてて、愛と性と結婚の結合が日本の夫婦を作ってるって決めてたんだって。

小学生のメイも、真剣に同級生の男の子に浮気しちゃだめよ、法律に触れるんだからって言ってたもん。

お母さんは若くして、白血病で亡くなっちゃったんだけど、遺品を整理してたら一冊の本をメイが見つけて、そのタイトルが『性愛関係の勧め』だったの。

今もたまに読むんだけど、その内容に、結婚していても恋愛がありうるって書いてあったわ。

人間の意識では愛と結婚は分離されていて、婚外で性愛を持とうとすることは人間本来の姿だって書いてあった。

今の私は、そのバイブルに動かされているの。

だって、おかあさんの形見だし、お母さんの子供だから。

皆も形見、大事だと思うよね。

メイの初体験は、中学3年の時だったんだけど、未婚者同士の結婚前提じゃないセックスと浮気は同じ現象らしいわよ。

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