第廿五話 ~河の民~その拾参
「ど〜けどけどけどけぇぇぇぇぇッ!」
元の体に戻った河の童が全力で疾走する。
一年修練を経て精神的に逞しく(だが高いところは苦手)なった童は小さな体を自在に操りながら走る。
目の前に後衛の鬼たちが迫る。
自分より遥かに図体の大きな鬼たちが束になって童に迫ってくる。
だが童は鬼たちや攻撃をひらりとかわし宝珠を奪っていく。
「ほらほらお尻を出しなって!アンタ達の尻子玉は全部この童様が頂いちゃうからさ〜!」
攻撃をかわしながら鬼たちの背後をとる。童が手を伸ばすと鬼達の体から光の球体が飛び出してくる。
宝玉を奪われた鬼たちは力を失い次々に倒れていく。
「遅い、遅い遅い遅いよアンタ達!アタイは一年間アンタ達よりクソ素早くてクソ強い相手と修練してきたんだからねっ!こんなにノロいと壱年修練の甲斐が無いってんだよ!」
ちなみに「クソ素早くてクソ強い相手」というのは薬師の事である。
鬼達を粗方片付けた童は物見櫓に登り辺りを見回した。
大通りの先に薬師と茨木童子が見える。
この様子だと強い鬼たちは縛を受けて行動の自由を奪われているようだ。
そろそろ薬師と合流しておかなければ彼のいう通りであればそろそろ・・・
と移動をかけようかと思っていた時であった。
ドーン!という音と地響き、急に体が浮き上がり櫓から落ちそうになる。
手すりにしがみつき音のしていた方に目を向ける。
「なにあれ?デカっ!」
童が櫓から見上げるほどの高さ、斬られた首を手に持っている。
体中に刀疵、倒れている鬼たちをゆっくりと踏み潰しながら歩いて行く。
地面が赤く染まり鬼たちの肉片が飛び散っていく。
「き、気持ち悪ぃ〜」
童はこの惨状を目に入れないように遠回りで薬師の元へ行こうと櫓を下りて走っていく。
だが小石に躓き倒れそうになる。
「うわっ!」
つい口に出た叫び声に巨体が気づき童の方に歩いてくる。
全速力で逃げる童だが背後から徐々に距離を狭められていく。
「もう!こっちに来んなっての!」
童は手印を構え水の障壁を巨体にぶつけた。
衝撃によろめき倒れる巨体。
童は全力で逃げる。障害物を避けて屋根に登り一直線に薬師の元へ駆けていく。
ところが巨体は地面を蹴り高く飛び上がった。
「嘘でしょ?!」
童の頭上を高く超え、行く手を阻むように着地する。
童は振り下ろしてくる腕をなんとか避けながら足元をくぐり逃げ続け、薬師たちの元へ辿り着こうとしていた。
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「師匠〜ッ!ヤバいのが来たヤバいのヤバいのがッ!」
「童!四体の鬼に障壁を張ってくれ!!」
「難しいこと言わないでってのに!」
手印を構え横たわる四天王たちを水の障壁で覆う。
酒呑童子が障壁に殴りかかるが、力を削がれ反動で押し返される。
「ほう、短い間にあれの対処ができた様だな!」
「師匠、もっと褒めていいよ!」
「おい、薬屋、あれは酒呑なんだよな?」
「・・・だったものだ」
「なんで・・・あんな姿になっちまったんだ?」
「頼光四天王達による鬼討伐の結果、お前以外の鬼は全て囚われ皆処された。酒呑童子の亡骸とお前たちが四天王と呼ぶ熊、星熊、虎熊、金童子は私とハルアキラが大枝の山に封印した。」
「生き残りは我だけ・・・だったのか」
「何百年という間お前は帝都を彷徨っていた。四堺には鬼を寄せ付けない封印が施されていたのでお前には近寄ることが出来なかった。おそらく酒呑童子を今操っている者が大枝山の封印を弱めた。腕の霊力に引き寄せられたお前は稲荷狐を喰らい、完全に呪縛が解けた。記憶は都合よく書き換えられていたようだがな。そして…」
巨大化した酒呑童子の体が徐々に崩れていく。
手が掴んでいる首が薬師の方を向き言葉を発している。
「き・・・さまだけは、許さぬ!」
「酒呑・・・酒呑っ!」
茨木童子の叫ぶ声が虚しく響く中、酒呑童子であった鬼の姿はボロボロと崩れ去って行く。
たった一体残された茨木童子は膝から崩れ落ち、友の、愛する者が目の前で消えて行く様を受け入れることができず泣き続けた。
「私たちの想定を遥かに凌駕する酒呑童子の怨嗟が
さっきまで酒呑童子が立っていた場所に斬られた大きな首が転がっていたが、その首は眼を大きく開き憤怒の形相を薬師に送っていた。
"憎しや帝殺し・・・我が手で貴様を葬り去りたかったがもはやそれも叶わぬ。我が恨み、其方に委ねた・・・我が首を喰らえ、
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第廿五話 了
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