第拾参話 〜河の民〜その壱
第弍帖 河の民
古より呪詛を生業とする者あり、
穢れを払う事もあれば
人を呪い、陥れ、
或いは命を奪うことも躊躇わず行う者
学者衆の中でも呪禁や孤独の扱いに長けているごく限られた者に与えられる称号が『呪詛師』である。
帝都と呼ばれるこの国の都にひとりの呪詛師がいた。
顔は竜骨の面を頭から目深に被りその表情は見ることができない。
ただ、仮面の下からかろうじて見える口元は妖艶
で女達はその少し上がった口角に魅了されるという
帝すら呪い奉った、との噂もあるこの男を
人は「帝都の呪詛師」と呼ぶ
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童、薬師と逢ひしこと
〜河の民の村近く〜
商が盛んなこの街にはさまざまな商いを見ることができるが
目的の品はあらかた買い揃えることができたので薬師は街から離れた静かな高台で優雅に煙草の煙を燻らせていた。
実のところは、薬を仕入れ昼飯にと強飯を買ったところで懐具合が少々寂しくなったので、陽が落ちて
この薬師に気に入られた
妓楼の
一晩格子と枕を共にして、さらに報酬まで頂けるのだ。
街が少し離れただけで周りは何もない荒れた道と田畑が広がっていた。
丘の向こうに小さな川が流れており陽の光を浴びてキラキラと水面が眩しく光っている。
薬師は妓楼に行く前に体の汚れを洗い落とそうと服を脱ぎ裸になって川に飛び込んだ。
川の水は冷たく体が引き締まる思いがした。
透明で汚れがなく田畑に豊かな実りを与えてくれる恵みに感謝しつつ、薬師は1日の疲れと汚れを洗い落とした。
そろそろら川から上がろうかとした時だった。
ふと誰かの気配を感じたので薬師は周りに注意を払った。
(こども・・・いや、人ではないか)
脱いだ着物から少し離れた草むらの向こう、
じっとこちらを見ている。
殺気は感じられない。
服を着ながら様子を伺うが特に変化は見られない。
だがこちらに興味は持っているようだ。
だがこちらには近づいてくる気配もない。
(ふむ・・・)
薬師は懐から飴玉を取り出し、紙にくるんで道端に置き、何事もなかったかのようにその場から立ち去った。
薬師の姿が見えなくなった頃、
草むらに隠れていたそれは、薬師が飴を置いて行った辺りまで走ってきた。
禿のように前を切り揃え耳元まで伸びた黒い髪、
五つか六つに見えるこの子はその飴を手に取りまじまじと眺めていた。
陽に透かすとキラキラと光るのでずっと眺めていたが、遠くから呼ぶ声が聞こえたので飴を紙にくるんで懐に仕舞い込み声がした方向へ走って行った。
「そうか、河の民の郷があるのか・・・」
薬師は丘の上から走っていくその子の姿を見ていた。
第拾参話 了
扉絵はこちら
https://kakuyomu.jp/users/eeyorejp/news/16818093073768173855
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