第八話 〜蛇蠱〜その七
薬師、真実に迫ること
「ウズメ姉さぁぁぁぁぁぁぁん!」
「どうしたの童ちゃん?」
助けに来てくれたことに気づいて童は大泣きしながらウズメに抱きついた。
「ぎいでよ!しじょうがだがいどごろがだばだゔぃをぼうりだげだんだじょぉぉぉぉぉ!」
(聞いてよ!師匠が高い所からアタイをほおりなげたんだょぉぉぉぉぉ!)
「まぁ可哀想に、怖かったでしょ、よしよし・・・」
大泣きしてようやく落ち着いたのか、童は事の次第をウズメに説明した。
その最中も薬師は大蛇と激しい戦いを続けていた。
大蛇は薬師を喰らおうとして大きな口を広げて迫ってくるが、薬師はうまくかわして童たちから遠ざかろうとしている。
それでも大きな揺れが結界に襲ってくるものだから童たちはそのたびに水鞠の中で転がってしまう。
「こいつらに重湯か粥を作ってやりたいんだけどなぁ」
「たしかに、全部こぼれちゃうわねぇ」
「師匠〜!もっと離れて戦ってぇ〜!」
−−−−−
「・・・そうは言ってもなぁ」
薬師は大蛇の大きな口を避けながら次の手を考えていた。
(それに・・・なぜオロチに加勢しない?)
少年らしき存在から洞窟に入る前の殺気は全く感じられず、
むしろ様子をうかがっているようにも見えたので、
(ひとつ試してみるか)
と、薬師は少年が浮かんでいるあたりに一気に移動した。
少年は攻撃はしてくるが先程のような激しさはない、むしろ近づくように促しているようだ。
薬師は少年の懐に素早く移動する。
少年は周りに結界を張っていたが、薬師は少年に近づくと印を結びその結界を解いた。
「少年!聞かせてもらうぞ!」
衝突するかと思われたが薬師の体は少年の中に取り込まれるように消えていった。
-暗い闇の中にひとりうずくまっている少年、
膝を抱え泣き続けている少年のそばに薬師は近づいた。
(何があった?)
(・・・)
(怖がることはない)
(みんなは?)
(無事だ、堤屋の倅もな)
(・・・そうか・・・良かった)
(あの大蛇に唆されたのか?)
(うん・・・)
少年は堤屋に奉公している少年であった。
頭が良く仕事にも精を出していたのだが、
それが却って堤屋の倅達に目をつけられるようになりいじめられることになったらしい。
その日も神社の祠近くに呼び出されていじめられていた。
蛇を懐に入れられて怯えるさまを見てあいつらは笑っていた。
仕方なく祠に逃げ込むとあいつらは祟られると言って追いかけて来なかった。
誰にも見つからないように洞窟の隅に隠れようとしたら、何かに足を引っ張られて洞窟の底まで落ちていった。
-待て、私が聞いた話と違う。
君は洞窟の側でいじめられていたのではないのか?
違う
では、堤屋の倅が言っていたことは?
多分、みんなアイツに騙されてる。
僕も、そうだと思い込まされて・・・利用された。
なんの為に?
子供を喰らって・・・力を取り戻すために・・・
ドスン!という衝撃を感じて薬師は少年の意識から弾き飛ばされた。
大蛇が少年を攻撃しているのだ。
無数の刃が少年に襲ってくる。
薬師は少年の前に立ち、攻撃を受け止める。
−−−−−
「そういえば・・・」
ウズメは気になることがあるようで童に聞いてみた。
「ひとり死んでるって言ってたけど、どの子?」
「え?一番向こうの子だけど?」
童は今のうちに粥を作っておこうと火をおこしているところだった。
「どれどれ」
ウズメは童が指を指した子-の近くに寄ってじーっと眺めている。
「うーん、おかしいなぁ」
「え?死んでるでしょ?」
「うん、確かに魂はこの子の中から抜けてるんだけどね、まだ死んでないって言うのが正しいのかな」
「て事は、もしかして・・・」
「うん、多分魂はあの子・・・」
ウズメが指を指す先には薬師と彼に守られている少年の姿があった。
第八話 〜蛇蠱〜その七 了
その八へ続く
扉絵はこちら
https://kakuyomu.jp/users/eeyorejp/news/16818023214123077923
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