第弍話 〜蛇蠱(だこ)〜その壱

〜蛇となりて怨みを晴らすこと〜


子どもたちの声が響く。

「おい!生きてるのか?」

「何も聞こえんぞ・・・」

「お前ら、中を見てこいよ!」

「嫌だよ、気持ち悪い」

「なんだと?!俺のいう事が聞けないってのか?」


子供達が覗き込む古い洞窟は下に向かって暗い闇が続いていた。

ざわついていたのは自分たちがいじめていた1人の子が洞窟の底に向かって転がり落ちたからだ。


彼らにとっては日常茶飯事の悪戯のつもりだったかもしれない。

くさむらで見つけた蛇で少し驚かしてやろうと思っただけだった。

今回も少しからかったらお仕舞いにするつもりだった。


アイツが蛇に驚いて足を滑らしたから・・・

自分たちは悪くない。


彼らはどうにかして取り繕おうとした。


しかし、導き出した結論は最悪であった。


「帰ろうぜ、ここにいたら怪しまれる」

「そ、そうだな、俺たちはここにいなかった。いいなお前ら」


子供達のなかで1番偉そうな少年が皆に誰にも言わないように念を押して


「コイツのせいだ」


少年は蛇の頭を石で叩き潰してから洞窟の暗闇へ放り込んだ。


・・・


蛇は苦しみながら洞窟の奥底へ落ちていき、


やがて、息絶えた。


いじめられていた少年は蛇が落ちていったその先に倒れていた。


どのくらい時間が立ったのだろう


体中に激しい痛みを感じる。

脚が折れてありえない方を向いている。

体中が傷にまみれ、地面に血が流れている。


「もう助からない・・・」

幼い少年にもそれは受け入れざるを得ない現実であった。


貧しさから口減らしのために奉公に出され、その先で毎日いじめられていた少年は1日でも早く郷に帰りたいとその事だけを夢に見て働いていたのだ。


それも叶わぬ夢となった。


自分が死んだと知ったら父と母は悲しむだろうか、


せめてもう一度、顔を見たかった。


少しづつ意識が遠のいていく。

痛みも体の感覚もなくなっていく。


暗い洞窟の中で冷たくなっていく。


やがて呼吸が止まり、少年は動かなくなった。


そんな自分を上から見下ろしているなにか。

宙に浮いているようだが体は見えない。


見ているのは自分・・・

そうか、俺は死んだのか・・・


いじめから開放される安堵と

親に会うことができない寂しさと

複雑な思いが錯綜している。


亡骸となった少年のそばには動かない蛇


(あぁ、あれはあのときの蛇だ

俺をいじめていた奴らが後ろからあの蛇を・・・)


(お前も殺されたのか・・・お互い不運だな、

辛いよな、こんな惨めな最後なんて・・・)


(ソウダヨナ・・・)


暗闇の中から自分ではない何かの声が聞こえてくる


(コンナサイゴ、ウケイレラレナイヨナ・・・)


(このままあの世に行くなんて!)


(シカエシシヨウ!)


(そうだ、あいつ等を同じ目に合わせてやるんだ!)


(イッショニ殺ルカ?)


(手伝ってくれるのか?)


(イイトモサ、コレカラオレタチハフタツデヒトツダ・・・)


声の主は蛇の亡骸を宙に浮かせ、少年の魂と同化していく。


やがて怪しく黒光りする球体となって洞窟から地上に飛翔していった。


あとには魂の抜け殻となった少年と蛇が横たわっていた。

----------

 処は変わって・・・


 とある少年が部屋の中でうなされていた。

春だと言うのに溢れる程の汗をかき小さな声でブツブツと助けを求めている。


 急に目を覚まし、大声で叫ぶ。

「まただぁーッ!

アイツがまた夢の中に出てきやがった!

今度は穴から落ちて死によった!

もう夢を見るのは嫌だァァァァァッ!」


 叫び声を聞きつけ家人が少年の体を押さえつける。

 だが子供らしからぬ力で大人たちを払いのける。

ゼイゼイと荒い息を吐きながらその子は睨みつける様に外を睨んでいた。


「俺は・・・お前を殺してなんかいないィィィィッ!」


蛇蠱その壱、了

その弍に続く(性的な表現がございます。)

扉絵はこちら

https://kakuyomu.jp/users/eeyorejp/news/16818023213522865711



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