第2話 妹と遊びの関係!!
昼休みが終わり、午後の授業も終わると、
無理もない。
人見知りな彼女に奇異の眼差しがずっとつきまとっていたのだ。
まだ十八の少女にとって、それは恐怖の的でしかない。
加えて姉の失態を学校中が知っている。そして遺伝子レベルで同じな彼女の面影を持っている。その視姦的な注目に拒絶するのも無理はない。
「陽愛。少し遊ばないか?」
姉と一緒の高校だったから、俺は下の名前で呼ぶことに抵抗がない。
それを知らない周囲の人間はざわつく。
双子の姉がいることを知らないのだ。
「うん」
力なく頷く陽愛。
この子を守らなくちゃいけない。
俺は心にそう誓い浮かない顔をした陽愛を連れて歩く。
「どこに行こうか?」
俺が呼びかけると困ったように眉根を寄せる陽愛。
誘っておいてなんだが、俺だって遊び慣れているわけじゃない。
陽愛の好きなものをあまり知らないというのも大きい。
もっと知っておけば良かった。
後悔しても仕方ない。
俺が加藤と遊ぶときのことを思い出す。
「ゲーセン、行くか?」
不安そうな顔でコクコクと頷く陽愛。
女子にとってゲーセンはハードル高いか? いや心愛はよく行っていたな。
まあ、あいつを基準にするのが間違いか。
太平洋南艦隊技術大学から商店街を抜けて、その先にある駅前。そこにあるゲームセンターは大学に通う人でごった返している。
途中、商店街を歩くと、陽愛に声をかけてくるおばちゃんたち。
「陽愛ちゃん。コロッケが揚がったばかりだよ!」
肉屋のおばちゃんがにこやかな笑みを浮かべている。
「おや、彼氏さんかい?」
ふるふると力なく首を振る陽愛。
「じゃあ、未来の彼氏さんかい?」
「おばちゃん、からかわないでください。陽愛はおとなしいんです」
「はははは。そうだったね! はいよ。コロッケ二つ」
耐油紙に包まれた暖かなコロッケを二つくれるおばちゃん。
「お金持っていないです」
俺の言葉にうんうんと言いたげな陽愛。
「いいじゃないか。たまにはサビースさせて」
華やいだ笑みを浮かべるおばちゃん。
おばちゃんが二十年遅く産まれていたら、胸を撃ち抜かれていたかもしれない。
コロッケに齧り付くと、ジャガイモの風味と、肉の味がほどよく溶け合い、俺の胃は満たされていく。
それは陽愛も同じだったようで、昇天しそうな勢いで笑みを浮かべている。
エクトプラズマを口から吐き出す陽愛。
俺は慌てて口に押し込む。
「はふっ」
小さな声を漏らす陽愛。
小動物染みた彼女はネコがそうするように頬を手で撫でる。
嬉しいらしい。
「おいしいな」
俺がそう言うと力強く頷く陽愛。
この商店街まではAVの話は浮いてこないらしい。
ホッと安堵する。
商店街を抜けると、そこには駅前のビルが立ち並ぶ。
繁華街ともつながるこの駅は、アクセスが良いので人混みでごった返している。
おっかなびっくりで俺の後をついてくる陽愛。
迷子になりそうな陽愛の手を軽く握ると、俺は前を歩く。
小さくて、ひんやりとした柔らかい手だ。
すぐに壊れてしまうんじゃないか、と思う。
まるでガラス細工のような手。
この手をずっと守っていきたい。
すべすべでつるっと俺の手から逃げてしまいそうだ。
ちゃんと守ってあげなくちゃいけない。
こみ上げてくる
ダメだ。
彼女自身が強くならなくちゃいけない。
そうじゃないなら、すぐに折れてしまう。
儚く、弱々しい手だ。
彼女はこれからいろんな苦難が待っている。
それを乗り越えるには彼女自身が強くならなくちゃいけない。
分かっている。
でも今だけは味方でいたい。
そばで守ってやらなくちゃいけない。
ゲーセンにたどりつくと、俺はクレーンゲーム、格闘ゲーム、レースゲームなどの
隣にいる陽愛を見やると、好奇心で目を輝かせている。
「どれがいい?」
俺が訊ねると、真っ先にプリクラを指さす陽愛。
「え。ああ……」
男の俺としてはプリクラは盲点だった。
あまり男で撮ることはないからな。
加藤と来たときはこんなことないし。
「撮るか」
頷いて見せる陽愛。
極端に大人しい陽愛がこんなに嬉しそうにしている。
来た意味があるな。
そう思い、俺は陽愛を連れてプリクラの中に入っていく。
そっとカーテンをめくると、そこには賑やかな音楽とともに白とピンク色の世界に包まれていた。
目がチカチカしそうな色合いに、混乱する。
「どうすればいいだ?」
「ん。まずはここ」
小さくしゃべる陽愛。
コインを入れる。
ワクワクした様子が見て取れる。
これはアタリだな。
彼女が元気になってくれればいい。
そう思って誘ったのだから。
嬉しそうに陽愛がボタンを押していく。
パシャっとフラッシュが
あとは盛るらしい。
陽愛は何回かボタンを押す。
すると受け取り口に写真が落ちてくる。
俺の目が顔の二倍ある、怪奇現象が起きていた。
「ふふ。いい記念♪」
微かに笑う陽愛。
その顔に俺はほっこりと胸を暖かくなる。
じっくりと熱を噛みしめて、次の遊びを探す。
「あれ」
陽愛はクレーンゲームの筐体を指さす。
有名なキャラクターのフィギャアが入っている。
完璧で究極なアイドルで世間の
陽愛もまた、その
うっとりとした表情でそのフィギュアを見つめている。
「とってやるよ」
俺は穏やかな口調で、コインを入れる。
「ごめん……」
静かに謝る彼女。
「いいって」
笑みを浮かべてクレーンを動かす。
だが、一発でとれるほど甘くはない。
フィギュアは僅かに動いた。
「くっ」
もう一枚追加。
動くが、投入口にはこない。
「このっ!」
「もういい」
「まだまだ!」
陽愛の声を無視し、俺はコインを投入し続ける。
困ったように立ち尽くす陽愛。
二千円を超えたところで、ようやく手に入れることができた。
「「やった!」」
俺と陽愛は一緒になって大喜びをする。
それを見ていた店員が微笑みを向けて、拍手してくる。
俺たちは気恥ずかしくなり、そそくさとフィギュアをとり、その場を後にする。
「次はどれする?」
隣を歩く彼女に訊ねる。
「ん。次は彰くんが好きなの」
「だけど……」
「遠慮しているの、分かる」
陽愛の優しげな声音が耳朶を打つ。
陽愛は人を惑わす才能があると思う。
結論づけると、俺はワガママを言わせてもらう。
「じゃあ、一緒にシューティングゲームしよう」
「うん」
弾けるような笑みを零す大人しいクール女子。
そのギャップにやられる人も少なくない、と俺は思う。
でも、みんなに対して人見知りをするので、あんまり見られる光景ではないんだよな。
苦笑を漏らし、操縦席に収まる。
隣で陽愛もスペアリングを握る。
ゲームが始まり、スタートの合図に合わせて画面が切り替わる。
アクセルを踏む。
発進した車は後方に背景を流し、コースの真ん中を突っ切る。
陽愛の車は道路の真ん中を、俺の車は道路の端を行く。
俺はヘアピンカーブを乗り越え、コースのギリギリを攻める。
陽愛は、というと……。
「っ」
小さくうめき、速度を落としつつ道路の真ん中を走り続ける。
レースゲームにあってはならない安全運転だった。
拍子抜けしていると、俺はコンピュータの車に追い越される。
「わわわ……!」
陽愛の車の前に障害物が現れると、慌てふためいている。
スペアリングをくるくると回し、障害物を回避する。
それにホッとしていると、すぐに道路の真ん中に行く。
そんなに真ん中が好きなのだろうか。
と、俺の横をコンピュータの車が通り抜けていく。
最後には俺が六位。陽愛は最下位。
おかしい。レースに参加していたのは十人のはずだ。
この俺が負ける、だと……!!
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