第3話「友の依頼」

窒息死するまでに男は不敵に笑った。


「ちょっと弱くなったな?」

「何を…」


より一層力が籠る。


「あんな小娘に拘っている理由も分からない。へっ、へへっ…」


戯言のような遺言だ。死体を放置する。掃除屋が勝手に片付ける。

依頼人マミは深く感謝した。彼女だけでなく他にコノハから嫌がらせを

受けていた人々も解放されただろう。



小さな会社はライバル企業を襲撃する。


「な、なんだ!?お前たち、何者なんだ!?」


そう聞いても相手から返って来るのは日本語では無かった。発音的には中国語

だろうが、何を言っているのかさっぱり分からない。二人組。どちらも丸腰らしい。

赤毛の男は首を左右に曲げ、骨を鳴らしながら歩を進める。


「ふひっ、ひひっ!?待て!落ち着け!!」


ようやく相手は日本語を話した。


「リキョウ、俺がやって良いな?」


麗孝リキョウと呼ばれた男は頷いた。人畜無害そうな名の知らぬ男は

流暢な日本語で死を告げた。


「殺すのが俺たちの仕事でさ」

「ぐあっ…あぁ…」


企業の社長が死ぬまで。どれだけ足掻いても逃れられない。警備員もいない。

足は宙に浮いている状態で首を絞められている。とある一族に対抗するように

作られた殺し屋組織の人間だ。


「さっさと離れるぞ、ユウエン」


無口なリキョウがようやく口を開いた。憂炎は完全に窒息死した男から腕を

放す。力なく倒れ込んだ男を見向きもせずに彼らは証拠隠滅した。その会社は

原因不明の火災により消えた。中から遺体が発見されたらしく、現在身元調査を

しているというのだ。


「そう言えば、もう一つ依頼があったな。俺としてはそっちの方が楽しみだ」

「何故」

「調べたのさ。そしたら、ほれ」


小さな探偵事務所に雇い主が固執する理由は分からないし、知る必要もない。

だがそこにいる者に興味がある。だから引き受けた。憂炎は獲物を見つけた

獣のような表情を浮かべる。


「さぁて、最強とか言われてる奴を殺すとするかね」

「頼むから正面突破なんてやめてくれ。俺たちの任務はあくまで探偵の抹殺、だろ」

「でも達成を阻んで来たら話は別だぜ?」




カノアのもとにやってきていたのは如何にも富裕層な男女。どちらも中年と呼ぶに

相応しい容姿だ。二人はカノアの両親を名乗って事務所に来たらしい。だが

カノアは彼らとの対面を拒絶した。二人は度々ここに足を運んでは執拗に恩を返せ

だの家に帰って来いだの喚く。


「申し訳ありませんが、カノアさんは体調不良ですので。お引き取りを」

「家族の事に赤の他人が口を挟むんじゃない!忘れるんじゃないぞ!?お前たちも

が雇っているんだからな!?」


相手するレグルスを見下したような態度だ。彼は決して威圧的にならず、

揉めないように諦めさせる努力をする。


「揉めてる声が外まで聞こえてるぞ。アンタたちは依頼人じゃねえんだから

出て行ってくれ」

「シリウス、その言い方は…」

「これ以上居座るなら警察に通報するが、良いのか」


シリウスは二人を睨む。蛇に睨まれた蛙。二人組は不貞腐れながら事務所を

離れて行った。彼らを見て、事務所の中、それも自室に引きこもるカノアを呼ぶ。


「もう出て行った」

「ごめんね…はぁ、もうあの人たち嫌だよぅ…」


疲れた顔をする。


「一応、俺たちはの護衛だからな。親父もこのやり方、俺たちに

口出しはしねえだろ。俺としてはお前が心配だよ、カノア」

「私が?」

「縁を切るべきじゃねえのか」

「そうだけど、そう簡単に出来ないよ」


簡単に親子の縁を切ることは出来ない。シリウスとレグルスは特殊な家庭で

育った。そしてカノアは育児放棄をされて育った。とは言え、祖父母が愛情を

注いでくれたのだ。


「まぁ、俺たちには分からねえな」

「子も親を選べませんからね。ともかく、暫くはカノアさんの両親もここには

来ないでしょう」


レグルスとシリウスは戦闘者一族。こんな平和な場所で生を謳歌するような人間

ではない。物心ついた時から勉学だけでなく戦い方を叩きこまれている。今の名前は

識別名のようなもの。


「カノアちゃーん!!」


名前を呼びながら駆けて来た少女。名前は北条アミ。カノアの同級生、友人。

彼女は中小企業に勤めていたはずだが…。泣きついて来た彼女を落ち着かせて

話を聞いた。今、ニュースになっている火災の犯人を捜して欲しいとのこと。


「それなら警察が動いているんでしょう?」

「そうなんだけど、黒い噂が流れてるの。ライバル企業がきな臭いのよさ」


フリューゲル株式会社。それがライバル企業らしい。大企業が中小企業を

恨むのか。アミは警察の動きが鈍いと言っていた。警察官に知り合いがいる。

女性警察官、碓氷ミオ。


『そうなのよねぇ…ちょっと上層部が動かないのよ』

「やっぱりそうなの?」

『フリューゲルであるという証拠が挙がらないから怪しくても動けないの。

そういうところは難儀よねぇ…一応マークはしてるの。ほら、何かと

目の敵にしているでしょ?爆破、そう爆破で証拠も現場も消えちゃったから』


それで捜査が難航しているという事だ。警察を責め立てることは出来ない。

と、散々説明を受けてアミはカノアを頼りに来た。


「まぁ、分かった。頑張ってみるよ」

「ありがとう!私に出来る事は何でも言って!」


爆発四散したことで証拠となり得る物が全て吹き飛んだ事件。警察の捜査も

難航する中小企業の社長の死の真相。そのバックにはカノアたちが立ち向かうには

大き過ぎる敵がいた。


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カノアの秘密調査 花道優曇華 @snow1comer

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