第6話 鬼滅の刃 part1

 いつものダイヤモンドシティー。

 いつもの4Fのベンチ。

 今日もカネコさんがやって来て、ぼくの隣に座った。


「鬼滅の刃の総集編見た?」

 とぼくは尋ねた。

 土曜日の9時に鬼滅の刃の総集編がやっていたのだ。総集編をやるって事は、そろそろ新シリーズが始まるんだと思う。

「キメツノヤイバ?」

 とカネコさんが言う。

「なんで片言やねん」とぼくが言う。「もしかして知らんの?」

「知ってるわ。青山剛昌のやつやろう?」

「たぶん違うヤツやわ」とぼくが言う。

「剣に玉入れるヤツやろう」

 と彼女が言う。

「絶対に違うわ」

 とぼくは確信して言った。

「私はあの時代の玉を集める系しか見いひんから」

「玉を集める系ってなんやねん」

「あの時代は、絶対に玉を集めて願い事を叶えるねん」

 とカネコさんが言う。

「時代に対する偏見やな」とぼくが言う。


「鬼滅の刃知らんって、カネコさんホンマに日本に住んでるん?」

 とぼくは尋ねた。

「私のこと見て」と彼女が言う。

 ぼくは首を曲げて、彼女を見た。

 金髪、真っ白い肌、制服、ギャルがそこにいた。

「どっからどう見ても、ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちやろう」

 とカネコさんが言う。

「堺っ子のギャルにしか見えへんけど」

 とぼくが言う。

 堺っ子というのは大阪の堺に住んでいる学生のことである。

「ニューヨークも堺もそない変われへんで」

 とカネコさんが言う。

「ニューヨークには堺っ子体操はないやろう」とぼくが言う。

 堺っ子体操というのは、小学生の時にさせられた謎ダンスである。他の地域にも強制謎ダンスがあるのかは、ぼくは知らない。

「ニューヨークにもあったよ」

 とカネコさんが言う。

「すっかりニューヨーク育ち目線で喋ってるやん。その目線で喋るんやったら英語で喋れよ。ちなみにニューヨークはどんな体操やったん?」

 とぼくは尋ねた。

「ニュッ子体操」

 と彼女が言う。

「どこもやる事は変わらんな」

 とぼくが言う。

「でも途中でラップ挟む」

 とカネコさんが言う。

「えらいポップやん」

 とぼくが言う。


 堺っ子体操には歌詞がある。

『堺っ子は元気な子、ぼくも私も♪』という謎歌詞である。

 その謎歌詞に合わせて体操をするのだ。


「ちなみに、ニュッ子体操はどんな歌詞なん?」

 とぼくは尋ねた。

「ニュッ子は元気な子、ぼくも私も♪」

 と彼女が歌う。

「どこも変わらへんな。歌詞もほぼほぼ一緒やん」

 とぼくが言う。

「でもココからがラップやねん」

 とカネコさん。

「どんなラップ?」

「ちょっとエミネムっぽいんやけど」

 と彼女が前置きした。

「yo!yo!ですyo!ですよ。の最近は謝る事がいっぱ〜い♪」

 とカネコさんが歌う。

「『ですよ』やん」

 ですよ、とは昔の一発芸人である。

「ニューヨークやからな」

 とカネコさんが言う。

 ニューヨークに『ですよ』は何の関係があるん? と思ったけど口に出しては言わなかった。

「続きは?」

 とぼくは尋ねた。

「この前、死体を見つけて警察に通報しようとしたんですyo」

 とカネコさん。

「おどろおどろしいやん」

 とぼくが言う。

「そしたら……SO! 鏡だったんだyo〜♪ あーい、とぅいまてーん」

 と彼女が歌う。

「鏡と死体を間違えるって、ゾンビの所業やん」とぼくが言う。

「私達ニュッ子は、この歌詞を通じて、人への思いやりを学んで行くねん」

 と彼女が言った。

「そんなクソみたいな歌詞で人への思いやりを学ぶなよ」とぼくが言う。


「ほんでキメツノヤイバってなんなん?」

 と彼女が尋ねた。

「マジで言ってる?」とぼくは尋ねた。

「マジで言ってる」と彼女が言う。

「逆に日本に住んでて、鬼滅の刃の情報が入らんように生きる方がムズない?」

 とぼくは尋ねた。

「普段は顔面に黒い布を被って生活してるからな」

 とカネコさんが言う。

「ヤバい奴やん」

 とぼくが言う。

「基本的にニューヨーク生まれニューヨーク育ちの人って、だいたいそんな感じやで」

 とカネコさんが言う。

「ぼくのイメージするニューヨークと全然違うわ。ニューヨークの人達って重罪を犯した囚人みたいな生活してるねんな」

「そんな事ないで」と彼女が言う。「でも人を呼ぶ時は番号で呼ぶわな」

「囚人やん」とぼくが言う。

「でも、みんな規則正しい生活してるで」とカネコさん。

「囚人やん」

「普段はみんなオレンジ一色の服着てるわ」

 と彼女が言う。

 映画で見る海外の囚人はオレンジ一色の服を着ているイメージがある。

「囚人やん」とぼくが言う。

「ニューヨークって実は孤島で、脱出でけへんようになってんねん」

 と彼女が言う。

「もうえええ。もう囚人あるあるお腹いっぱいや」

 とぼくが言う。

「よかった。私も絞り出そうと思ったけど、もう出てこうへんかってん」


「だから社畜の刃を私は知らん」

 と彼女が言った。

「ぼくも社畜の刃は知らんわ」とぼくは言った。「100連勤目で会社を憎んで経営者を殺そうとする話なんかな?」

「それは殺される経営者も悪いわ」と彼女が言う。「この世の中にブラック企業が多いから私達学生は就職したくないねん」

「ガバナンスが注目される世の中になってるから、ぼく達が就職する時はちょっとはマシやと思うけどな?」

「ガバナンス?」

「社畜の刃の武器の1つ」とぼくが言う。

 ぼく自身ガバナンスの意味を知らない。

「そのガバナンスには玉を入れる穴は開いてるん?」

 と彼女が尋ねた。

 武器に穴が開いていると、それはマテリアを入れる穴である。あるいは水晶を入れる穴である。

「開いてるよ。ガバガバや」とぼくが言う。

 カネコさんがスマホで何かをググっている。

「ガバナンスとは統治・支配・管理のことである」

 と彼女が言う。

「まぁ、統治・支配・管理って言う人もおるわな」

 とぼくが適当な事を言う。

「っで、どうやってそれで主人公は経営者と戦っていくん?」

 と彼女が物語の続きを促す。

「いや、社畜の刃の話はせいへんで。鬼滅の刃の話やったらするけど」とぼくは言った。

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