(T_T)
腕(kai_な)
AI絵師
「これAIイラストじゃないですか?あ、構図がこれとまんまだ!これ読み込ませたんでしょ。信じてたのに。このイベントってAIイラスト禁止ですよ?あなたのアナログなイラストが大好きでした。残念です。」
私はAI絵に対してネチネチ言い過ぎたので牢獄に閉じ込められた。
この世はすでにAI絵師に支配されていたのだ。もっと早く、全ての広告がAIによって作られていることに気づけば良かった。
私はなんとか脱獄できないかと牢の中で右往左往するのだがいかんせん暗すぎるので何も手がかりが掴めない。明かりは牢の外にぽつんと灯る蝋燭と、小さな窓から差し込む月光のみで、足のつま先すら不明瞭な暗さだ。
助けを求めて叫んでみたりもするのだが声は届かず、こだまして、再度耳から私の中に戻ってくるだけだった。
私が何もかもを諦めて牢中の冷たい鉄床の上でごろりと寝そべっていると不意に物音がした。重たい扉が開いたというような、引きずった音だった。
跳ね起きて見ると何者かが二人の看守に抱えられ運ばれている。
看守共は私の牢の前で止まって扉を開き、抱えていたものを中へ放り投げた。
「おい、なんだこいつは」
と私が叫んでも、
「お前に伝える理由はない」
と言って去ってしまった。
「おいふざけるな!!AI絵ばかりで欲求を満たして人情を忘れた屑どもめ!!」
また重たい扉の引きずる音がした。きっと閉じたのだろう。
私は奴らが放り投げた何かを見た。おそらく人間だ…しかし断言はできず、「おそらく」としか言いようがなかった。
目がおかしいのだ。異常に大きく、そして「髪と目が重なっているのに目が浮き出て見える」。普通は髪と重なれば目は見えなくなるはずだ。しかしこいつは違った。
平たく言えば、イラストでよく見るやつだ。
イラスト。
私はこいつの手を観察した。五本ちゃんと揃っている。奇妙な点もない。
AIイラストじゃない。人力のイラストだ。
私はこいつを叩き起こした。
「はっ…な、なんですか、どこですかここは」
「まず言え、お前、何者だ」
「僕ですか。僕はイラストです。昭和の表現がふんだんに使われた昔ながらのやつです」
確かに言われてみれば昭和チックな、それこそ藤子F不二雄先生が書きそうな、そういうイラストだった。
蝋燭と月の光に照らされてその大きな目は深海魚の体皮のようにぬめぬめと光っている。
「AIイラストの時代にお前みたいな存在は異物だ、と言われて、捕まりました」
時代の被害者だった。
「昭和の表現というと、あれできるの?滝みたいに泣くやつ」
「一応心身さえ整えればやれますよ」
「そんなに大げさなものなんだ…」
「ええ。最悪死んでしまうことさえあります」
私はびっくりして彼を制止した。
「じゃあやらなくてもいいよ!」
「いえ良いんです別に。そんなに自分の命に興味はないもので」
そう言うと彼はいきなり絶叫した。
彼の大きな目が潤み、深海魚の体皮はそよぎ始める。
途端に、彼の目は大量の涙を、決壊したダムのように放出した。
大きな放物線を描いて涙は舞う。蝋燭もその涙を浴び、炎はかき消されてしまった。微かな月光のみが涙を照らすその様子は、いつか見たキラシャンドラの川に月光の踊る様子そのものだった。
私はただ慌てふためくのみだった。涙の量にも慌てたが、彼の絶叫にも慌てた。少しもかすれないその絶叫は獣のそれだった。
ぷつん。
そんな音がした。
涙は一瞬で止まり彼は前傾姿勢に倒れた。
「ああ!!」
私は彼に駆け寄り、仰向けにした。目の深海魚は死んでいる。
まさか、と思って彼の胸に手を当てた。
なんの振動もなかった。
死んだのか。
医者ではないので正確な死亡確認はできなかったが、その体から漂う空気が死を暗に示していた。
私は驚愕しながらあることに気がついた。頭がぱっくり割れているのだ。
なぜか流血はしていないが、これが致命傷になったことは明らかだった。われは頭を半分に分けてしまうほど大きかった。
そこから中身が見える。
当然、見たくなかった。しかしわれは私の視線を鷲掴みにし、離さない。
私は強制的にそこを覗き見させられた。
歪な構図がそこにあった。
巨大な涙嚢が脳を隅に押し潰している。月明かりに照らされてらてらと光る悪夢のようなその様相は、どことなくバルーンアートじみていた。顔面を真っ白い粉で厚く固めたピエロが、白昼夢のような天気の下で、厚ぼったい唇で膨らました風船で作ったバルーンアートだった。
この昭和イラストの頭の中では風船で作られた犬が眠っているのだ。
(T_T) 腕(kai_な) @kimenjou0420
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