金髪ポニーはにゃんにゃん可愛いメイドらしい。中
羽実ちゃんはガードレールに腰掛けている、金髪の美少女を指差す。
金髪美少女に近づいていくと……少女はピンクのパーカーにホットパンツというシンプルな服装ながら、色っぽさい雰囲気の少女……と言うか彩花ちゃんが、こっちに向かって手を振っている。
なんで彩花ちゃんが? 羽実ちゃんの友達だったのか。
「初めまして。羽実ちゃんと仲良くさせてもらっています。彩花って言います」
彩花ちゃんはいつも公園で会っている俺だとは思っていない様子で、きちんとお辞儀をしながら、丁寧な口調と雰囲気で挨拶してくる。
「いつも羽実とは仲良くしていただいています。今日はよろしくお願いします」
「ほら、おにいも挨拶して」
彩花ちゃんの初めまして宣言に、軽く、いや、それなりのショックを受けたので、ちょっと皮肉っぽい言い方で。
「久しぶりです。羽実の兄の赤髪ロリコンです」
俺の言葉に彩花ちゃんは、口を半開きにして、唖然という表現がもっとも似合う表情を浮かべ、羽実ちゃんは怒りが混じった表情で俺の足の脛を蹴ってくる。
「がああ。いっつー」
俺は地面に膝をついて足を押させる。
「ご、ごめんねーおにい冗談が好きでさー気にしないでいいから」
彩花ちゃんは羽実ちゃんの言葉に反応を示さず、相変わらず唖然とした表情を浮かべている。
「あれ、どうしたの? 彩花ーおーい彩花ー大丈夫?」
羽実ちゃんが彩花ちゃんの顔の前で手を振り、ようやく彩花ちゃんは驚いた様子ながら状況を飲み込み始めたようだ。
「え、ああ、うん。大丈夫。それより……」
「おにいのことは気にしなくていいし、なんなら今すぐ帰させるから」
「その人……本当に羽実のお兄さんなの?」
「一応。でも全然気にしなくていいから。ほらおにい早く立って謝って土下座して帰って」
俺は足の脛を撫でながら、ゆっくり立ち上がる。
俺が立ち上がると、彩花ちゃんは俺の顔を凝視したあと、玄関の時の羽実ちゃんのように、足先から頭までゆっくり視線を移している。
「本当に公園のお兄さんですか?」
「本当に公園のお兄さんです」
今の俺らのやりとりを見て、羽実ちゃんに俺らが知り合いなのか尋ねられ、俺は彩花ちゃんと公園でよく会っていたことを話す。
「おにいと彩花が知り合いなんて、世の中って本当に狭いね」
「ということで、俺の脛を蹴ったことに対する謝罪をくれ」
「はぁ。普通あの場面なら蹴るでしょ。そもそもおにいが赤髪ロリコンとか言わなければよかったことだし、それに言われるってことは何かしたって……まさかおにい」
羽実ちゃんの含みのある言葉の意味を俺は速攻で理解し、全力で否定する。
「本当に? ロリコンじゃないの」
「本当に! ね、彩花ちゃん」
「そういえばお兄さんにジュースもらって口説かれたような……」
羽実ちゃんは怒りながら俺に詰め寄り、彩花ちゃんはイタズラな笑顔をこっちに向けてくる。
「お、に、い!」
「違う! ただジュース奢っただけ。それに俺否定したし!」
俺の慌てようを見て満足したのか、彩花ちゃんは笑いながら。
「口説かれたっていうのは冗談だよ。おにいさんには何もされてないし、なんならお世話になってるくらいだよ」
「本当に?」
「本当に。お兄さんは私にも妹にも優しくしてくれてるよ」
彩花ちゃんの言葉でようやく誤解が解け、羽実ちゃんは詰め寄るのをやめてくれる。
誤解が解けてよかった。誤解を生んだのは彩花ちゃんだけど。
「ふ〜ん。おにいもまだ、まともだったか」
「まともだよ。大まともだよ!」
「じゃあ、お兄さんがまともだってわかったところで、そろそろお店に行きましょう。お姉ちゃんもいると思いますし」
「そうだね。それで、おにいはどうする? 彩花がいうなら帰らせるけど」
「全然大丈夫。お兄さんが一緒なら、私も助かるし」
俺はどう助かるのか尋ねる。
「実は私メイド喫茶に行ったことなくて、お兄さんが一緒だと助かるんです。女の子だけで行くのも、少し変かもしれないですし。だから一緒にいきませんんか?」
彩花ちゃんに言われたら行かないわけがない。
「当然行く」
「じゃあ行きましょう。すぐそこですから」
彩花ちゃんの先導で、交差点を渡って二、三分歩くと、白い外観に店の名前が書かれた看板が目印のメイド喫茶に到着する。
「ここです」
羽実ちゃんは初めてのメイド喫茶にテンションが上がっているのか、浮かれ気味に店の外に置いてあるメニュー看板を見始める。
「お店の看板とか可愛い! メイド喫茶って、ビルの三階とかにあるイメージが強いよね」
「ちょっと怖いイメージな」
「話はお店の中でしましょう。お兄さんどうぞ」
「え、あ、うん、よし」
俺が緊張しながらドアを開けるのを一瞬躊躇うと、羽実ちゃんがさっさと店名が書かれた扉を開く。
「お帰りなさいませご主人様! お嬢様!」
店内に入ると、猫耳にフリフリのメイド服を着た可愛いメイドさんたちに笑顔で出迎られ、席まで案内してくれる。
「お店の中かわいい。おにいもそう思うでしょ」
「なんか女の子が好きそうな女の子の部屋って感じで、非日常感は感じる」
「おにいにとって女の子の部屋は異世界だもんね」
「……外国くらいの距離にしといてくれ」
店内はピンクや白など、淡い色を基調としたファンシーな内装に、カウンターとテーブルが数席並べられていて、少し男性客の方が多いかなと感じるが、意外にも男女比はあまり変わらず、なんならメイドさんがいる分、店内の男女比は圧倒的に女子が多い。
「あの人サイトで見たことある。現実でも可愛い〜」
「ああ、そうだな」
「あ、あっちの人も。制服も可愛くていいな〜」
羽実ちゃんが舐めるようにメイドさんを見ていると、メイドさんがお水とメニューを持って来てくれる。
「お帰りなさいませ、ご主人様。お嬢様。本日は初めてのご帰宅ですか?」
羽実ちゃんは嬉しそうに「はい」と答えると、メイドさんがチャージ料やワンオーダー制など、お店の基本的なルールについて教えてくれる。
「ご理解よろしくお願いします。それと私たち触られると元の姿に……」
その後メイドさんによるお店の設定を聞き、羽実ちゃんはそれに対していちいち質問すると、店員さんはそれを愛嬌のある返答で返し、数分かけてようやくお店の設定に関する話が終わる。
「というわけです」
「おーおにいちゃんと聞いてた?」
「聞いてたよ。お礼は大切ってことだろ」
「ご主人様を癒せればと思っています」
どんな言葉も設定を守った完璧な返答に、プロ意識を感じる。
メイドさんは注文が決まったら呼ぶように言ってから、他の席の客……ご主人様、お嬢様の元でお給仕を始める。
「じゃあ何食べる? 私オムライス。多分おにいもオムライスでしょ。デザートは私が食べたいのを二つ頼むから、おにいは半分ずつ食べてね。ドリンクはこれで、あとチェキでいいよね」
「俺は「彩花は何頼む?」」
「私も羽実と同じの。デザートも羽実が選んで」
羽実ちゃんは俺の許可を得る前にメイドさんを呼び、さっきのメイドさんとは違う衣装のメイドさんが注文を聞きにくると、羽実ちゃんはさっき言った物を注文する。
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
メイドさんがカウンターの奥に行くと、俺の顔を羽実ちゃんが心配そうに覗き込んでくる。
いや、別に俺もオムライスにする予定だったし、デザートもなんでもよかったのだが、少しくらいお兄ちゃんの意見も聞いて欲しかったな。いいけど……いいんだけど。
「おにい大丈夫? 気持ち悪いよ」
「最後がよ、じゃなくて、の? だったら嬉しかったけど、体調は大丈夫。ちょっと緊張してるだけ。俺こういうところ来たことなかったし」
彩花ちゃんは意外そうな表情を浮かべる。
「お兄さんはメイド喫茶常連だと思ってました」
「私もおにいは結構行ってるイメージがあった」
「秋葉に来てたのはドラム専門店があったから。アニメ関連のグッズを買って、ドラムの店行って、最後に神田明神に行って帰るってルートが基本で、他はあんまり」
「へーじゃあ初のメイド喫茶なんだ。おにい友達いないから、可愛い妹と可愛い妹の友達と一緒に来れてよかったね」
羽実ちゃんから誘ってきて上から目線なのがなんともアレだが、一人だと来る勇気なかったし、二人と来れたのが嬉しいのは事実。
「そうだな。一人よりマシだな」
「じゃあ今日はおにいが奢って」
「そもそもコスプレ衣装買って羽実ちゃんお金ないでしょ」
「バレちゃった。まあそういうわけで金ないから、彩花の分も含めて奢って」
「私の分はいいですよ。自分で払いますし」
妹と妹の友達にせこいなんで思われたくないし、友達がいないから使わない交際費が大量に残っているからな。
俺は余裕の表情を浮かべながら、彩花ちゃんを見つめる。
「心配「大丈夫、大丈夫。おにいはこれくらいしかお金使わないし」」
羽実ちゃん、今回は言わせてよ。カッコつけたかったよ! 一度遮られてもう一度言うなんて女々しく狡い真似はしない。
俺は余裕の表情を崩さずように、タイミングを見計らって口を開く。
「可愛い妹とその友達と来れただけで十分だから、今回は俺が奢るよ」
よし! 言えた!
「でも……いいんですか」
「前回相談に乗ってもらったから、相談料ってことで奢らせて」
「そういうことなら……ありがとうございます」
羽実ちゃんはニマニマ、変な笑顔を俺に向けながら。
「おにいのそう言うところだけは好き」
「だけは余計だ」
その後も二人と会話しながら待っていると、メイドさんがオムライスとドリンク三つをテーブルに置いて、メニューの説明をしてくれる。
「強い魔法がかかってしまうかもしれないでお気をつけください。オムライスに何か書いて欲しいことはありますかにゃ?」
メイドさんに聞かれ、俺は自分の名前を書いてもらおうと「じゃあ……」と言ったところで、またしても、またしても! 羽実ちゃんが横から俺のオムライスを指差し。
「おにいの奢り。でお願いします」
メイドさんは「はい!」と元気に俺のオムライスにケチャップで、おにいの奢り。と書き、皿の周りにはハートや星などを描いてくれる。
「できましたにゃ!」
俺の心はケチャップでこんな綺麗に奢と言う字を書けるんだ、という感動と、最初のオムライスがこれでいいのかという感情に苛まれる。
「あ、ありがとうございます。すごく、綺麗です」
「自分でも今回はすごく上手く書けたと思いますにゃ!」
俺のオムライスが終わると、羽実ちゃんのオムライスに何を書くか聞いている。
「私のは羽実って名前と、あ、うみは絶対にひらがなでお願いします。あとはお任せ
していいですか?」
「はい! かしこまりました」
羽実ちゃんのオムライスには可愛い猫。お皿の周りには、うみお嬢様初ご帰宅! の文字と、俺のオムライスと同じようにハートや星が書かれる。
「できましたにゃ!」
「可愛い〜おにい見て」
羽実が可愛く書かれたオムライスを見せてくる。
「私も猫ちゃんで、名前は彩花でお願いします」
彩花ちゃんのオムライスにも可愛い猫が描かれ、彩花お嬢様初ご帰宅! の文字と、羽実ちゃんと同じようなハートと星が描かれる。
「それではこのオムライスに魔法をかけていきます。ご主人様方も猫のポーズをお願いしますにゃ」
正直恥ずかしい、が! ここで恥ずかしがっていたらメイド喫茶を楽しめないし、俺は他のオタクとは違うし、俺のはこういうのやらないし、的なのはもっと恥ずかしい。
恥を捨て、両手をグーにして顔の横に置き、猫のポーズをとる。羽実ちゃんと彩花ちゃんも同じように、俺の何倍も可愛いポーズをとる。
「復唱してください。いきますよーにゃあ、にゃあ」
羽実ちゃんと彩花ちゃんは楽しそうにメイドさんの言葉を復唱し、俺も少し小声になりながら復唱する。
「おいしくなーれ、萌え、萌え、にゃあーはい! これでこのオムライスはもっと美味しくなりましたーどうぞ! お召し上がりくださいにゃー」
メイドさんが見ている中、オムライスを一口、口に運ぶ。
魔法がかかる前を食べていないので比較はできないが、オムライスは普通に美味しく、値段が高いだけってこともないらしい。
「美味しいですかにゃ?」
「あ、はい。美味しいです。魔法を感じる味です」
「そうですかー良かったです! では、御用があればお呼びくださいにゃ」
たまに、にゃ、を忘れるメイドさんは笑顔で奥の方に帰って行った。
おにいの奢り。の部分を早々に消し去り、お腹が空いていたこともあってか、かなりのハイペースで半分を食べ切る。
「そういえば彩花ちゃんのお姉さんは今ホールにいるの?」
「今はいないです。来ることは伝えてなかったので、ちょうど休憩中なのかもしれません」
「まあ俺は会ってもしょうがないけど、挨拶くらいはしておきたいな」
「その人おにいと同じ高校らしいよ。学年も同じ」
「マジかよ」
「マジですよ。言ったじゃないですか」
「言ってな……言ってたなそう言えば。忘れてた」
不味い。オムライスは美味いが、状況がまずい。メイド喫茶に来ているというだけでやばいのに、妹と妹の友達とメイド喫茶。しかもなんかめちゃ気合い入れた服装で来ているし、陰キャ笑笑とか思われそう。
俺はただでさえハイペースで食べているオムライスを、さらにスピードアップして食べ進める。
「どうしたの急に? そんなにお腹空いてた?」
「いや……まあ……気まずいじゃん」
笑笑だけではない。赤髪変態土下座事件があったあとで、妹だけならまだしも、妹の友達と一緒にいるところを見られたら、赤髪変態が、赤髪変態ロリコン野郎にレベルアップしてしまう。
そして、そのことは羽実ちゃんに言えないので、なんとしてでもその人に会わずに帰らなければならない。
「あんまり長居すると回転とかあれだから、なるべく早く帰ろうな」
「まだ来て二十分も経ってないよ。別にそこまで気をつかなくていいんじゃない?」
的確に突っ込まれ、完全論破。なにか、論破できそうな話題は!
「まあ……えーっと、そう! チャージ料もかかってくるし」
俺の適当な誤魔化しに、今度は彩花ちゃんが。
「チャージは一時間なので、少し前に出てもあと三十分はいられますよ。私たちもお客さんなんですから、ゆっくり食べればいいと思いますけど」
「そう……ですね……」
羽実ちゃんと彩花ちゃんに完全論破され、俺は諦め、黙って残りのオムライスを食べ進める。
「こちら猫にゃんパフェに、にゃまクリームたっぷりホットケーキと、オリジナルケーキにゃりなります」
オムライスを食べ終わり、届いたデザートのパフェとケーキ二つを分けて食べている最中、ライブが始まり、諦めてライブを見ているうちに、彩花ちゃんのお姉さんの事なんて忘れ、デザートを食べながらライブを楽しむ。
「さあご主人様もお嬢様も一緒に! にゃーにゃー」
メイドさんの煽りに、俺ら含めた他のご主人様は猫のポーズでにゃーにゃーと繰り返す。
ライブが終わる頃には俺の羞恥心はなくなり、デザートも食べ終えたところでチェキを撮ってからお会計を済ませる。なんだかんだ一万円を軽く超えて使ってしまった。
「こちらお釣りです。またのお帰りをお待ちしてますにゃ!」
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