金髪女子は意外とみんな普通らしい。下
次の日、俺は彩花ちゃんの言葉を思い出しながら通学し、学校に着いたら荷物を置いて、昨日買った手土産を持って隣の教室に向かう。
隣の教室を覗くと、麗花はイヤホンで何か聴きながら、眠そうな表情で座っていたので、俺は麗花の机の近くまで移動する。
麗花は俺に気づいたのか、イヤホンを外して俺を睨みつける。
「あんた……なんの用?」
手土産を横に置いてから、土下座の体制で床におでこを擦り付け、教室中に響く大声で謝罪する。
「昨日は大変申し訳ありませんでしたー!」
クラスにいる生徒は響めき、麗花は驚いたのか勢いよく立ち上がり、その拍子で椅子がガタっと後ろに倒れる。
「え、あ、あんたなにが」
表情は分からないが、麗花は驚いている様子なのは分かるし、クラスの人間が驚いているのも分かる。
「俺は昨日本当に手は出していない! 触ってもいない! 本当に見ていただけなんだ!」
「え、ちょっと待って!」
分かっている。俺がこんなことをしても、君の不安は変わらないし、俺の罪が消えるわけではない。
「寝ている君が魅力的で見てしまったけど! 俺は絶対に触ってない! だから安心して欲しい!」
「だからちょっと!」
これは俺の自己満足の保身で、君に大したメリットはなくて、それでも俺は君に伝えたい。
「俺にそんな勇気はないし! 弁えているし、同意が大事なのも知っている! 証明はできないから心配だろうけど! 少なくとも俺は!」
俺は、俺は!
「童貞だー!」
俺は全力の謝罪をし、魂の童貞発言をしたあともずっと床におでこを擦り付ける。
数秒の無言のあと、土下座の態勢なので誰が言ったかはわからないが、誰かの声が聞こえてくる。
「童貞だって」
「あれって隣のクラスのアレでしょ、入学ギターの」
「あの赤くて怖い人か」
「触ってないし寝ていたって、麗花さんが誘ったってこと?」
「えーまあ見た目からしてギャルっぽいしー」
周りにいた生徒の声が聞こえる中、俺はそれでも土下座を続ける。
「あ、あ、あんたちょっと来て!」
麗花は土下座している俺の腕を引っ張って、昨日寝ていた倉庫に連れていく。
部屋に着くなり、麗花はドアに鍵をかけ、俺に向かって壁ドンしてくる。
「あんたどう言うつもり!」
「色々謝罪をしたくて」
「なんでクラスでするの! もっと放課後とかにしてよ! 馬鹿なの!」
「相談に乗ってくれた人がなるべく早くって言うから。朝なら絶対教室にいると思って」
「あんたが何もしてないなんて分かってるの! 服も普通だったし、血も……とにかく! 普通に呼んで謝れば良いじゃん。なんで教室なの。しかもど、どう……あんたの下半身事情なんて知るか!」
「それも相談乗ってくれた人が言ってたから、触られたかもしれないのは不安だって、だから安心してもらおうかと思って……」
麗花は二、三秒俺のことを見つめたあと、小さくため息を吐いてから俺から離れ、壁ドンをやめてくれる。
「あーもういい! 分かったらから、あんたが何もしてないこと」
「本当?」
「そもそも昨日の段階で分かってたし」
「分かってたって、俺が何もしてないことか? じゃあなんで俺はあそこまでの蹴りを」
「それは……あの時あたし半分起きてて、その内出ていくだろうと思ってたんだけど、あんたが急にしゃがんで……足の……」
麗花は急に恥ずかしそうに俺から目を逸らし、若干耳を赤くする。
「足の匂いを嗅ごうとしたらか」
麗花の言葉に俺は理解できず、もう一度言ってくれるようにお願いをする。
「だから! あんたが、あたしの、足の匂いを嗅ごうとしたから……」
俺は再度聞き直した言葉が、さっき聞いた言葉と同じだと認識するまで数秒かかった。
「だから勢い余って蹴ったって感じ」
俺が足を? 俺にそんなフェチも趣味もない。
「待ってくれ! 俺は嗅ごうとなんてしてない!」
「足の近くに顔を近づけて、鼻息荒くしてた」
「あれはパンツとか足とかで興ふ、何言ってんだ俺。とにかく! 俺に足嗅ぎ性癖はない!」
「じゃあ私の勘違い……でも息が荒かったのはパンツと足のせいなんだ」
「ん、まあ、そう言うことになる。すいませんでした」
「まあそれは良いかな。パンツで興奮っていうのはまあ、一般的なのかなとか思うし」
「じゃあ今回の件は水に流してもらえますか?」
麗花は一歩下がり。
「うん」
その言葉を聞いて俺は安堵し、麗花に感謝のお辞儀、マジで本当に切実なる感謝のお礼を込めて深々とお辞儀を捧げる。
「ありがとうございます。置いて来ちゃったけど手土産もよければどうぞ」
麗花は「どうも」と言って軽く会釈する。
その会話の切れ目を境に数秒間お互いに喋らなくなり、俺は会話を探すように辺りを見渡すと、壁にかけられている時計の時刻がもうすぐ朝のホームルームが始まる時間だと気づき、麗花に伝える。
「本当だ、じゃあ、あたしはこれで」
「はい。本当にすみませんでした」
「こっちこそ蹴ってごめん。お大事に」
麗花は部屋を出て教室に向かい、俺も麗花が出た少しあとに部屋を出て自分の教室に戻る。
教室に戻ると、別のクラスなのにすでに色々広がっているのか、辺りから俺の陰口が聞こえるが、今の俺の心は安堵と安心に包まれていて、周りの声など全くといっていいほど入ってこず、いつもより晴れやかな気分で授業を終えた。
授業が終わるとすぐに教室を出て、誰もいない廊下をスキップしながら軽やかに軽音部の部室に向かう。
部室のドアを開けると、いつもながら水華がギターを持って座っている。
「今日も練習頑張ろう」
水華がギターから俺に目線を移すと、水華は俺のことをものすごく冷たい目で睨んでくる。
「今日も練習……」
俺の言葉に水華が割り込む。
「朝のことを説明して」
教室の温度まで氷点下まで持っていきそうな水華の声に、俺はなぜか椅子ではなく、その場に正座で座り込む。
「私が納得いく説明をしなさい」
水華のプレッシャーに負け、俺は正直に昨日からの一連の出来事を話す。
「て感じで、とりあえず和解はできた感じです。ネックレスの件はまだです」
俺の説明を聞き終わると、水華は俺に冷たい目線を送り続ける。
「まあゴミがゴミだってことは分かったわ」
さりげなく俺をゴミ呼ばわりしているが、水華の声色に、部屋の体感気温もなんとなく元にもどったことを感じ、俺は床から椅子に座り直す。
実際、水華にもひどい態度を取ってしまい、練習もおろそかにしてしまったので、ゴミと言われても反論はできない。
「昨日は本当にごめん。手当てしてくれようとしたのに帰ったり、結局練習もできなくて」
「それは埋め合わせをしてもらうとして、傷の方はどうなの?」
「鼻血が出ただけでその他は特に。痛みも全くないし、いつも通り問題ない」
「なら良かったけど、あなたもこれから大変ね」
「大変?」
「ただでさえ色々あるのに、赤髪変態土下座事件。なんて、不名誉極まりない称号までつけられて」
な、あ、あか、赤髪変態土下座事件……なんだその変な事件。
「あまり誤解を増やされると、私でもどうにもできなくなるから」
「ちょっと待ってくれ! なんだそれ! 俺知らないぞ」
「昼休み頃には回っていたけど? それを聞いたからいつも以上に机に突っ伏していたんじゃないの?」
「聞いてない! 知らない!」
なんなんだよ赤髪変態土下座事件って。意味はわかるけど。
「自業自得なんだから、今回は潔く諦めることね。今の時代、人の噂は一、二週間程
度よ。実害があるわけではないし、あまり対応変わらないと思うわよ。それより早く練習を始めましょう」
考えてみればそうか、いつもの陰口の内容が変わるだけで、別になにも変わらないな。いつも通り机に突っ伏しておけば問題ない……のか?
考えても仕方がない。昨日の分まで取り返すくらい頑張ろう。
「あ、音は小さめにな」
音を小さくしても今日の練習はいつも以上に捗り、部活終了の時間になるまでほぼ休憩なしで練習した。
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