金髪女子は意外とみんな普通らしい。中

 午後の授業中、ギャルっていいなーと思いながら過ごし、授業が終わると部室に向かう。


 部室に着くと、既に水華が練習を始めているので、俺も用意をして水華の前の席にギターを持って座る。


「よし、じゃあ続きから……」


 俺がそこまで呟くと、水華はギターから俺に視線を移し、睨むようなジト目を向ける。


「随分楽しそうだったじゃない」


 俺はなんのことわからず、いつのことか質問すると、まるで俺が他の女の子と遊び

に行った時の彼女感を醸し出しながら。


「お昼休み」

 とだけ呟き、俺にジト目を向け続ける。


「お昼は昨日のネックレスの件を聞いてただけだ」


「ネックレスの件を聞くために、一緒に動画を撮らないといけないわけ」


「あれはノリっていうかなんとなくと言うか。別にいいだろ」


「ただネックレスの件を聞きに行ったのに、遊んでいたのが気に食わないだけよ。こよなんて呼ばれていい気になって」


「男子は女子に愛称で呼ばれると嬉しくなっちゃう生き物なんだよ」


「ふ〜ん」


「とにかく! あの金髪の子じゃなかった。これが分かったからもういいだろ」


 水華はまた「ふ〜ん」と言ってめんどくさい彼女ムーブをかましたあと「まあ良いわ」と言ってネックレスの件に話を戻す。


「なら残りの金髪は?」


「金髪は自体は残り三人。そのうち二人は入学式の時は黒髪だったから、実質残りは一人、麗花だけだ」


「なら早く聞いて来て。戻って来たら練習を始めましょう」


「え、俺が聞きに行くのか!」


「IQって二十違うと会話にならないそうよ。私はIQが高いから、ギャルと話すと、この前みたいなことになると思うけど、それでもいいなら私が行くけど」


 この前みたいなこと、つまり暴言の言い合いの末に暴力まで持ち出すかもしれないってこと。それはまずいが……正直ギャルは怖い。


「ついて来てもらえたりって……しませんよね」


 水華は冷たい目で、行くわけない。と俺に言っている。目で伝えてきている。


 確かに俺が行ったほうが争いは生まれなさそうだし、昼休みにギャルっぽい子と話

して免疫を得た。今の俺なら行ける! 気がする。


「俺が行ってくる。俺に何かあったら俺の妹に、お兄さんはとても勇敢でかっこよかった。と伝えといてくれ」


「一体なにと戦いに行くつもり? 何かあってもあなたが一、二発食うだけのことでしょ」


「その一、二発が怖い! 死ね」


「分かったから早く行って来なさい」


 俺は意気揚々と軽音部を出て、隣の部屋のドアの前に向かう。


 ドア前に到着すると、深呼吸をしてからドアを三回ノックする。


「すみません、誰か居ますかー」


 一分ほどドアの前で待ってみたが、返答がなく、俺はドアを少し開いて隙間から中を覗き込む。


 中は物が散乱し、ラックとラックの間に、学校指定の制服のブレザーがハンガーにかけられ、のれんのように吊るされている。


 誰もいない? 


 俺は小さく「失礼します」と言ってからゆっくりドアを開けて中に入り、部屋の中

を見回したあと、のれん代わりのブレザーを避けて奥に入る。


「え」


 奥に入ると、床にマットのようなものを敷いて、靴と靴下を脱いで、足をこっちに向けて綺麗な体勢で寝ている、麗花の姿がある。


 俺は心に住むもう一人の俺に唆されながらも、紳士な心を忘れず、手を後ろに組み、決して触れないと心に誓ってから、麗花がこっちを向いているのを良いことに、顔を地面に近づけ、麗花の足裏から腰までのラインと、その最終地点のスカートの中を舐めるように凝視する。


 スタイルの良さからわかる綺麗な足に、細いながらも筋肉を感じる太もも、そしてギャルという見た目からは決して想像できないほど色気がなく、しかも少し汚れている白いパンツ! 俺は視線に気づかずそれに見入ってしまった。


「変態は死ね」


 その言葉と共に、綺麗な足が俺の顔面目掛けて飛んでくる。


「へ?」


 飛んできた足は俺の顔面にクリーンヒットし、俺は後ろにノックバックしながら鼻血を垂らす。


「いっつ! うわわわ」


 俺が四つん這いで顔の衝撃を感じていると、麗花は起き上がり、警戒した様子で後ろに下がる。


「その赤髪……噂と見た目と違って意外とまともな人なのかと思ってたのに、失望した」


 俺は麗花に弁解しようとしたが、正直顔を蹴られたことでそれどころではなく、血などがある程度治る頃には、麗花は靴やブレザーを持って部屋から出て行ったあとだった。


「嘘だろ。終わった、俺の青春、てか人生」


 数分放心状態だったが、その場にとどまり続けることもできず、絶望を感じながら、軽音部の部室に戻る。


 部室に戻ると、水華が驚いた顔をして俺の方に駆け寄ってくる。


「大丈夫! 冗談だったのに、まさか本当に殴られたの! すぐに手当を」


 なんだかんだ水華は優しいなと思いながら、手当してもらう資格がない俺は荷物を持たずに部室を飛び出してしまう。


 俺は家に帰る気にはなれず、いつも行っている公園に向かった。


 公園に着くと、いつも通り自転車を止め、筋トレはせずにテーブル付きのベンチに横たわり、ボーッと空を見続ける。


「あー人生って脆いな〜」


「何か壊れたんですか?」


 声が聞こえる方に視線を向けると、テーブルを挟んだ向かいのベンチに座っている彩花ちゃんが、ジーッとこっちを見ている。


「居たのか。青花ちゃんも一緒?」


「青花はそこで遊んでで、私は今来ました。服とかなら私が直しますよ。裁縫得意なので」


「服じゃなくて人生がちょっとね。どうすればいいのか分かんなくて」


「人生ですか。何かあったなら聞きますよ」


 話を聞いてもらっても解決しないんだよな。どうしようかと悩んでいると、彩花ちゃんは席を立って、俺が座っている方に向かってくる。


「いつものお兄さんらしくないですね。今日はどうし……て……お兄さんの服にいっぱい血が! どうしよう! 一、一何番だっけ!」


「これは鼻血! 大丈夫だから!」


 慌てた様子でスマホを取り出し、救急にかけようとする彩花ちゃんを全力で止め、仕方なくギャルに蹴られた経緯を彩花ちゃんに話す。


「はぁ。お兄さん気持ち悪いですね」

 さっきまでの心配した様子はどこに行ったのか、彩花ちゃんは汚物を見るかのような視線を向けてくる。


「でも紳士な心は忘れず、絶対に触れないと誓ったし」


「そうじゃないんです。普通に起きたら人がいるのが怖いんです。しかもお兄さんみたいな人だと尚更。お兄さんだって起きたらギャルが居たら怖いでしょ」


 起きたらギャルが居る。お昼休みのギャルが三人とも俺の下半身を凝視している。


「アリだな」


 俺の言葉に彩花ちゃんは、汚物を超えた何かを見るかのような視線を向け、俺から距離を取る。


「マジですか変態。流石に引きました」


「ちょっと待ってくれ。男はそういうものなんだよ。俺は割と普通だから」


「まあ多少は仕方ないと思いますけど、直接見るのはちょっと」


「それは俺も思ったけど、もう一人の俺に唆されて」


 彩花ちゃんは鼻で「フ」っと笑う。


「もう一人の俺って、変態って中二病が抜けてない感じの人ですか」


「抜けてるわ! てか呼び名がお兄さんから変態に変わってるんだけど」


「それで変態は」


「無視ですか。まあ良いけど」


 彩花ちゃんは「はぁー」とため息を吐いて、俺の近くに座り直す。


「お兄さんはどうするつもりですか?」


「どうするっていっても、どうしようもないっていうか。もう終わりっていうか」


「相手もその時は動揺していても、冷静に考えればなにもされていないって分かると思いますよ。そしたら流石に先生に言うくらいで、人生は終わらないと思いますけど」


「本当!」


 俺が彩花ちゃんに顔を近づけると、彩花ちゃんは驚いた表情をして、彩花ちゃんの顔がどんどん赤く染まっていく。


「あの、そろそろ」


「おお、ごめん」


 素早く、彩花ちゃんから顔を遠ざける。


 気まずい空気を感じながら、俺はなんとか会話を続けないといけないと思い、さっ

きの話は本当なのかと質問する。


「本当です。もちろん人によるとは思いますし、先生にすら言わない人もいると思います」


「じゃあ次あったらどうすればいいの?」


「全力で謝って正しい状況を伝えましょう。相手はなにもないって思っても、どこか触られたのかなって思ってしまうので、なにも触ってないってことをしっかり伝えて、全力で謝罪しましょう」


「全力で謝罪。分かった。他に手土産とかは……」


 青花ちゃんが戻って来るまで、彩花先生に謝罪の方法を伝授してもらい、帰り道に彩花ちゃんおすすめの謝罪の品を買って帰った。

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