金髪女子は意外とみんな普通らしい。上

翌日。今日は特になし。で、終わらせられるほど簡単な日ではなく、金髪の女子に話

を聞きに行かないといけない。後悔しても仕方がないが、後悔してしまう。遠足とか、どこか行くって時に、少し前は楽しいのに、その日が近づくにつれて嫌になるあの感じと似ている。


 その時はいける気がしたんだよ。今はめんどいが勝つけど。


 昼休みになって少し経ってから、数少ない一年生の金髪の子に話しかけるため、他の教室のドア前に行き、空いているドアから教室の中を覗いてみる。


 お目当ての金髪女子は、他のギャルっぽい子二人と三人で昼食を食べている。


 他のクラスにいきなり入るのはまずいので、近くに座っていた少し地味目な女の子に話しかける。


 前にも言ったが、俺は複数人で話すのは苦手だが、一対一の会話なら得意。むしろコミュ強なので、相手を気遣って優しく声をかける。


「ちょっといい?」


 女の子は俺に話しかけられると、ビクッと体を震わせ、俺の髪を見て明らかに、うわー変な人に話しかけられた。て感じの表情で俺に用件を聞いてくる。


「そこの席の金髪の子。呼んできてもらえたりできる?」


「いいですけど」


 女の子は誰が見てもわかるくらいめんどくさそうな表情で金髪女子を呼びに行き、呼ばれた金髪女子は俺に向かって、こっちに来いって感じで手を振ってくる。


 俺が呼んでくるように頼んだ女の子が戻って来た。


「聞きに来い。だそうです」


 あの中に入るということは複数人で会話をしなければいけない。嫌……だけど……サクッと聞いて帰ってくればいい。そう思わないとやっていけない。仕方なく女子数人が座っている恐怖の席に近づくと、金髪女子が会って早々軽い口調で。


「入学式でギター持ってきてた人でしょ。ウケる」

 と、なにがウケたのかわからないが、それに同調するように他の女子も。


「そうそう変な赤い人ー」


「マジウケるよねー」

 と、俺の話題で勝手に笑っている。


「ねえ、今日はギター持ってないわけ?」


 俺はギャルにビビって下を向いてしまう。下を向くとギャルの着崩した制服の間から、ピンク色の布が見えるが、ちょっと今はそれどころではない。


「今はないです」

 と答えると、急に話題が変わったのか、「なんで赤髪なの?」


「それ思ったーいきなり赤はチャレンジャー過ぎでしょ」


「でも似合ってるから良くない?」


「分かるーでもセットが普通だよねー」

 と、俺の存在を気にしないかのように、俺の髪色が似合っているかどうかを話し始め、結局セットしてみればわかるということで、ギャルに髪をセットされる。


「ちょまって!」


「いいから、いいから、うちらに任して」


「え、あの、話」


 言われた通りに前を向いていると、ヘアアイロンで髪の形を変えながら、よくわからないスプレーとかをかけられていく。


「首動かすとあぶないから、真っ直ぐ向いてて」


「あ、はい」


 言われた通り、真っ直ぐ前を向いてセットされていると、ちょくちょくギャルの胸が顔に当たったり、首にあったりして、色々とまずいことになってくる。


「ちょ、急にうごくなし」


「す、すみません」


 ヘアアイロンに注意が向いて、今はなんとかなっているが、慣れてきて胸が押し当てられるたら、俺はもう。早く終わってくれ!


 色々なんとか色々、マジで色々耐えながら、結局お昼休みの半分が終わる頃にようやく髪のセットが終わった。


「おーイケメンじゃん」


「私のテクがすごいからだし」


「テクとかなんかやだー」


「過剰過ぎっしょ。でも私のテクのおかげでしょ」


「確かにカッコ良くなった感じするわー」


「そういえばなんでうちら髪セットしてたんだっけ?」


 俺は待ってましたとばかりに、決して声を荒げず、だからといって小さくもない声を張り上げる。


「あの! その金髪の人に聞きたいことがあって。この、あれ、あった」


 俺はポケットから昨日店長にもらったピックを取り出し、髪のセットで使った道具を片付けている女子たちに見せる。

 

 このピックに似たピックを付けたネックレスを、スタジオに忘れませんでしたか?」

 女子数名は即座に「なにそれ」「知らない」などと言って、ピックその物を知らないような反応を見せ、金髪の子も同様の反応を見せる。


「じゃあ大丈夫です」

 確認も済んだので帰ろうかと立ち上がると、肩を上から押され、再び椅子に着席させられた。


「え、あの」


「てかなんで敬語なん? タメなんだからタメ語でよくね?」


「それな。てかピックトック撮ろ」


「いいじゃん! 髪赤だし、マジ目立つよ。えーっと、なんて名前だっけ?」


 ギャルのフレンドリーな対応に、若干、かなり、嬉しい気持ちが湧き上がってくる。


 これが噂に聞く、陰キャが普段嫌っている陽キャに話しかけられると、嫌っているのに嬉しくなっちゃう現象というやつか。俺はそもそも話しかけられないから、初めての体験だ。オタクに優しいギャルっていうジャンルが流行るのがわかる。現実ではあり得ないらしいが。俺は信じる。


「虎に夜って書いてこよりって読みます」


「敬語〜」


「虎夜……だぜ」


「だぜってマジウケる! 早く撮ろ、こよはこっちね」


「え、あ、はい」


 ギャルたちに流され、四人でピックトック。インスタよりも陽キャで顔面偏差値が高い人のみが使用を許されるらしい陽キャリア充専用アプリ。専用といったが、その陽キャを見るために入れる人もいるというアプリで撮影することになった。


「ほら、こうやって裏でピース」


 他の生徒の視線を感じながら、流行りのダンスを踊る。


「次はこれ、ちょっと足のクロスがむずいけどね。こよならいけっしょ」


「多分行けると思う」


「おーできんじゃん」


 終始軽いノリで楽しくピックトックを撮り続け、撮り終わる頃には昼休みが終わっていた。


「じゃあね、こよ、また撮ろ」


「う、お、うん!」


 ギャルたちに挨拶をして教室に戻る。


 ギャルは意外と優しくて、一緒に居て楽しかったし、ギャルっていいな。


 ピックの持ち主はあの金髪ギャルじゃないって分かったし、色々当たって凄かったし、なんか。うん。

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