金髪ポニーで巨乳少女はおこらしい。
放課後、水華にギターを教えて数日が経った。
「指がすごく疲れるわね。ピックをもっと楽に持つ方法はないの?」
「持ち方はそれが基本だから、ピック自体を変えてみればいいんじゃないか。一個百円くらいで買えるし」
「じゃあお店であなたが選んで。知識がある人が選んだ物の方がいいと思うから」
「分かった。でも今はそのピックで練習再開。テンポ十上げていく。三、二、一」
スマホのアプリでメトロノームを再生し、それに合わせて水華が演奏する。
数日とはいえ、下校時刻寸前まで練習している成果なのか、水華は圧倒的なスピードでギターの腕を上げている。
もちろん人によって違うが、ギターは本来一ヶ月でゆっくりコードを弾ける。二ヶ月で簡単な曲が歪に弾ける。三ヶ月で簡単な曲がある程度弾けるくらいのスピードなのだが、水華は最初からアンプに繋がない練習で簡単な曲を歪に弾き、数日で簡単な曲をある程度弾いている。才能というものに嫉妬し始めそうだ。
演奏が終わるとメトロノームの再生を止め、水華が今回の評価を聞いてくる。
「まあまあだな。やっぱり焦るとダメになるのが良くない」
「それは自分でも分かっているけど、どうしても上手くいかない」
「完璧を目指しすぎているんだよ。もう少し流れで演奏した方がいい」
「流れ……私にはまだ掴めそうにないわ」
「そんなに経ってないから当然だ。簡単に掴められたら俺の努力はなんだったんだってなる」
「まだギターを初めて一ヶ月も経ってないものね。なるべく早く習得できるように頑張らないと」
「頑張ってくれ。じゃあもう一回行くぞ」
俺はメトロノームを再生させ、水華はそれを聞いて演奏を始める。
こんな感じで練習をして、少し経ったら休憩と座学。廃部になった軽音部を使っているが、先生たちは特に何も言って来ないし、水華の習得スピードも上場。いい意味でも悪い意味でも特に何事もなく、当然水華とも何事もなく、平和で安定の青春を送っている。
クラスであれでも、放課後に女子と二人は中々青春っぽく、後輩ができるまでの一年間は、この状態でも悪くないかもしれない。
なんて思ってしまったからか、青春の神様が気を使ってくれたのか、青春っぽいイベントが発生した。できればあまり起きてほしくないイベントが。
曲が中盤に差し掛かった頃、突然軽音部のドアがドン! と大きな音を立てながら開き、水華と俺はドアの方に視線を向ける。
「うるさい! 下手な演奏聞かせてきて! 少しは静かにしろ!」
怒鳴りながら、女子にしては背が高く百六十センチくらいギャルが、ドアの前で仁王立ちしている。
身長と高圧的な登場も相待って、空気が一気に変わるのを感じる。
「聞いてんの!」
ギャルの迫力に俺は物凄くビビりながら「は、はい聞いてます」と情けない声で返事を返す。
返事をしながらギャルの方を見ると、ギャルは金髪を後ろで束ねたポニーテールが可愛さを醸し出しながら、ギャルっぽく制服を着崩し、着崩したシャツの上の方には、並の男子なら一番に目が向くであろう、たわわな巨乳がエロさを引き出し、胸に見合わないスタイルの良さに整った容姿。街であったら女子でも振り返りそうな、モデル顔負けの美少女が、眠いのか体調がすぐれないのか、低血糖な表情で軽音部の部室に入ってくる。
「やっといい場所見つけたと思ったら、隣の部屋からジャカジャカ、うるさいんだけど」
やべーギャル怖い。怒っている感じだし絶対オタクに優しくないギャルじゃん。怖いじゃん。なるべく穏便に済ませるべく、すぐさまお辞儀を繰り出そうと立ち上がるが、俺が立ち上がる前に、水華が喧嘩をふっかけるような高圧的な言い方で。
「あなたが移動すればいいじゃない。軽音部って文字が読めなかったのかしら? 読めないなら小学生からやり直したら」
その言葉を受けて、ギャルは鋭い眼光で水華を睨む。
「そっちこそ軽音部は廃部ってこと知らないの。部室は許可を取らないと使えない。あんたたちは無断で部室を使って部活をしてるわけ」
「隣の部屋って言っていたけれど、確か隣は倉庫だったはずよ。あなたこそ無断使用しているんじゃない」
「あたしは部活をしていない。生徒が倉庫に入るのに許可が必要なんて校則はないけど、あんたたちは部活をする許可をもらってない。どっちの方が問題あるか、考えなくてもわかるよね」
「二人とも一旦おち」
「うるさい!」
「黙ってなさい!」
「はい………………」
ギャルの言葉に水華はまた反論し、その言葉にギャルがさらに反論。俺は焦りと恐怖でもう喧嘩終われーと思いながら、二人の剣幕に負け、終わるまで黙って待つ。
「大体隣の部屋を何に使っているの? まあ、あなたの見た目と言葉遣いで大体予想はつくけれど」
「何言ってんの? 言っとくけど私一途だし、そういうこともまだだから。あんたの方こそ赤髪の男と密室で二人。さっきのはどっちに向けたセリフ?」
「あなたは知り合いの男と密室にいたらどういう関係になるのかしら? 私たちは理性的に教養を深めるために楽器を弾いていただけ。そこ言葉遣いと育ちの悪さを治してからもう一度文句言いにきなさい」
ギャルは水華の言葉を聞くと、ぎゅっと拳を握り、イライラしている? というよりは怒っているような表情を見せると、「育ち……あんたみたいな……」と小声で呟く。
「なに? 聞こえないわよ」
「あんたみたいな金持ちに分かってたまるか!」
ギャルはそう言って水華の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。
「ちょ、それは!」
俺は咄嗟に立って水華の前に出ると、水華の代わりにギャルに胸ぐらを掴まれる。
「ごめんなさい悪気はないんです俺は静かにします暴力はまずいですお願いしますマジで本当にマジでごめんなさい本当にマジでマジで!」
自分でもこんなに早口で正確に言えるなんて思っていないほど、情けない言葉がスラスラ出てきた。
ギャルは俺の胸ぐらからすぐに手を離し、落ち着かない様子で一歩後ろに下がる。
「困ったら暴力で解決なんて、やっぱり馬鹿の世界は楽でいいわね」
これで落ち着いたと思ったのも束の間、水華の挑発にギャルが再び水華を睨む。
俺は終わった。と思いながら希望を捨てずに祈っていると、祈りが通じたのか、ギャルは頭を手で押さえながら、ふらふらした様子で部屋を出ていく。
「次うるさくしたら、マジで部室のこと言うから」
ギャルが部室から出て行くと、俺はその場に倒れるように座り込む。
「怖かったーマジなんで挑発するんだよ」
水華は何事もなかったかのような表情で椅子に座り直す。
「気に食わなかっただけよ」
「そもそも今のギャル誰だったんだ? クラスで見たことないけど」
「隣のクラスの人。名前は……麗花「れいか」っていったかしら。隣のクラスの知り合いが言うには、どんなに聞いても下の名前しか話さないし、名前とか両親の話になると急に態度が変わる。あの髪色と雰囲気でクラスで浮いている、あなたのお仲間」
「仲間じゃねえ。てかどうする? もう軽音部使えないぞ、部員も足りないから部活にも出来ないし」
「なんで私たちが譲歩しなきゃいけないの」
「だって俺らが無断使用してるいのは事実だし、俺の評価がさらに下がるのは嫌だ。当分は昼休みか、毎回は無理だけどスタジオ借りて練習だな」
「なんで毎回は無理なの?」
「個人練習っていう、その時空いている部屋にランダムで入れるのが一人五百円から七百円くらい。予約とって三人以上で使うなら一部屋一時間で二千円くらいなんだよ」
「一人五百円ならいいじゃない」
「一時間五百円でも、放課後一週間で二千五百円。今までと同じ時間練習したら一日千円。だから無理」
「そのくらいなら私があなたの分も含めて払うわよ」
俺の分も払うってことは、一週間で一万とか消えるんだぞ! それをそのくらいって。やっぱり金持ちって噂は本当なのか。
だけど行きつけのスタジオで毎回女子に払って貰っていると、さらに良くない噂が流れそうだな。払って欲しいけど情けない気持ちもあるし。
「返事がないけど、明日はスタジオに行くってことでいいかしら」
初めてのスタジオは怖いし、水華に場所教えとけば一人で行って練習もできる。お金も事は……今は保留でいいか。
「分かった。明日スタジオに行ってみるか。靴箱待ち合わせでいいよな」
「場所は当日あなたについて行けばいいのよね。スタジオは初めてだから、基本あなたに任せるから」
「任せとけ。一本電車に乗るけどすぐに着くし、スタジオとは思えないほど綺麗なスタジオだから安心していいぞ。持ってくるものは……」
その後水華に持ってくるものを伝え、ギターとアンプをもとに戻して、今日は早めに部室を後にした。
「じゃあまた明日、教室で」
「また明日」
俺は部室前で水華は別れ、校内の駐輪場に停めてあるロードバイクに乗って帰るため、ヘルメットなどをしっかり被る。交通ルールは守る系の善良な自転車乗り。
因みに学校と家では結構距離があるが、ギターなどを買うために電車の定期に使うお金を全てもらい、代わりに自転車通学にするという約束のもと、自転車で通っている。正直疲れるし汗の処理とか大変だが、筋トレにもなってモテに繋がるかもしれないので仕方ない。
俺はいつも通り駅を通り過ぎ、筋トレをしている公園に立ち寄る。
公園は駅の裏を少し行った辺りにあるため、学校の連中が遊んでいる割合が高く、あわよくば人数が足りないとかで誘ってくれないかという希望を持って毎日通っていた。
まあ、入学してから一回も誘われたことがないから、筋トレして俺を怖がらない小学生とかに髪を触られて、親御さんにすごい目で見られて帰る事しかしていないが。
「よし! 始めるか」
遊具や自重などでいつも通りの筋トレメニューをこなし、近くのベンチに座って休んでいると、水華にギターを教える前までよくここで会っていた、マジかわ天使幼女に数日ぶりに再会する。
「お兄ちゃんひさしぶりー」
幼女は元気よく挨拶しながら、俺に近づいてくる。
幼女の名前は青花「セイカ」ちゃん。小学校二、三年生くらいで、金髪の髪をピンクのヘアゴムで束ねたポニーテール。顔は日本人っぽいが、話を聞くにクオーターとかの幼女。
「お兄ちゃんさいきんなにしてたの?」
「最近ちょっと放課後忙しくなってな。知り合いにギターを教えてた」
「そうなんだ! 青花もギターひいてみたい」
「ごめんな、学校に置いてきちゃったよ」
青花は俺に抱きついて体を揺らして「なんで〜」と言ってくる。
「しょうがないだろ〜周りの視線が怖いから離れてくれー」
と言いつつ満更ではない俺。
YesロリータNoタッチな俺だが、あっちからタッチしてくる分にはわざわざ俺から離す道理はない。青花ちゃんが離れるまでは楽しもう。
青花ちゃんは俺の腕を組みながら、ちょこんとベンチの隣に座ると、ぶらぶら足を揺らしながら「ねえねえ」と俺の腕を軽く引っ張る。
「彩ねえはスーパーいってるよ。だからきょうはいつもよりまってるの」
「へ〜そうなのか」
「だからきょうもあそぼ!」
もちろん健全で、俺からは触らないを貫きながら、青花ちゃんと遊んだり宿題を見てあげたりする。
数十分が経過すると、テーブル付きのベンチに座って宿題をしている俺らの後ろから、少女が話しかけてくる。
「うわ、赤髪ロリコン」
その声に俺と青花ちゃんは振り、青花ちゃんは少女を見た途端に少女に抱きつく。
「青花、待っててえらいねーこれ食べていいよ」
少女は青花ちゃんにお菓子を渡し、受け取った青花ちゃんはきちんと席に座ってお菓子を食べ始める。
「最近居ないと思ったのに。青花に変なことしないでくださいよ、ロリコンさん」
この少女は青花ちゃんのお姉ちゃんで彩花「サイカ」ちゃん。
背丈や体型は普通の中学生女子。髪型は青花ちゃんとお揃いのポニーテールと普通の感じだが、中学生ながらに髪の色が金髪。
もちろん俺は妹の青花ちゃんがクオーターなことを知っているので、彩花ちゃんも当然クオーターということを知っているが、彩花ちゃんは美人系だがかなり日本人顔なので、少し誤解されてしまいそうな雰囲気がある。根は優しいだろうが、妹の青花ちゃんと違ってちょっと失礼で生意気な、俺の事を下に見てる系、小悪魔系美少女女子中学生。
「最近は忙しかったから来なかったんだよ。これからも忙しいだろうから、多分当分は来れない」
「ロリコンが忙しいなんて……まさかやっちゃったんですか」
「やっとらんわ! 同級生にギターを教えてるんだよ!」
やっちゃったって言った時嬉しそうな顔しやがって。ちょっと可愛いからって調子に乗ってるメスガキが! だけど揶揄われる事に悪い気はしない自分がいるのが悔しい。
「へーギター弾けるっていいですね。ただの暇なロリコンじゃないってことですね」
「舐めんなよー俺はギターもベースもドラムもそれなりに弾ける。しかも勉強もそれなりだし、体もぎりぎり大きい枠で考えて、遠目から見れば細マッチョと言えなくもない」
「それはもう中肉中背では。まあロリコンだし仕方ないですね」
毎回ちょっと棘を残す言葉を選んで来るけど、やっぱりなぜか悪い気はしない。妹に似ているからか、俺がドMなのか。どっちだろうと変態だけど。
「なんで今日は早いんですか? 嫌われた?」
「今日早いのはギャルにうるさいって叱られたから」
「怖! でもお兄さんみたいな赤髪ロリコンがいるんだからギャルくらいいますよね。ちょっと心配です」
俺を心配してくれているのか。やっぱり根はいい子なんだな。と感心しながら彩花ちゃんに笑顔を向けていると、彩花ちゃんは無表情で。
「あ、お兄さんの心配はしてませんよ。姉さんが通っているので」
と言って俺の心ブレイクしてくる。
俺は気合いで平常心を保ちながら、何組なのかとか、お姉さんに関する質問する。
「何組はわかりません。でも私と同じ金髪ですよ。あと私に似て美人です」
金髪で美人……今日叱られたのも金髪だったけど、怖くて顔はあんまり。
「他になんかないか? 俺の学校髪色自由だから、少ないけど一年に数人いるんだよ」
「優しいのに誤解されやすくて、少女漫画みたいな展開に憧れてる、可愛いところもある人です」
「性格言われてもわからない」
優しくて少女漫画に憧れてそうな人ってことは、今日のギャルは違うってことか。
他に候補は……分からんな。
「もういいや。もし俺のことを話す機会が会ったら適当に話しといてくれ」
「わかりました。青花を狙ってるロリコンがいるって言っておきますね」
「絶対やめろ!」
「冗談ですよ。ロリコンなんて流石に言わないと思いますよ、多分おそらくなんとなくですけど」
「なぜ他人の感想っぽいのか疑問だが、まあそのことは置いておいて。今日は時間が余ってるし、前みたいに宿題見てやろうか?」
彩花ちゃんは「う〜ん」と悩んでいるような表情を見せ。青花ちゃんを見る。
「今日は予定があるからいいです」
少し気になって、彩花ちゃんに今日の予定について尋ねる。
「今日は姉さんが遅い日だから、私が色々しないといけないので」
確か両親がいないって青花ちゃんが言っていたな。一番上のお姉さんのバイトと貯金で暮らしているらしい。
「そうなのか。まあ、俺が何か言うことでもないからアレかもだけど、彩花ちゃんは偉いな」
彩花は驚いたような表情を浮かべる。
「ロリコンが私を狙ってきてる」
と言って、俺から少し距離を取る。
「狙ってない! ふと思っただけだ。そんなわけで紳士でイケメンで優しいお兄さんが自販機でもコンビニでも好きなものを買ってあげよう。青花ちゃんも好きな物いいよ」
「ほんと! お兄ちゃんだいすきー」
お菓子を食べ終わって黙って座っていた青花ちゃんに抱きつかれ、若干の邪念を抱きつつも、彩花ちゃんに見られている事をしっかりと頭に入れ、邪念を感じさせぬように振る舞う。
「彩花ちゃんも好き物どうぞ」
「まあお兄さんの奢りなら貰っておきます。自販機なら何か入れられることもないと思うし」
俺が手渡ししたら何か入っている事を疑うのかよ。まあ直前まで邪念を抱いた俺が言えた台詞ではないことは確かだが。
「手渡しでもなんも入れないから好き物をどうぞ」
二人にジュースを振る舞い、お姉さんの分と言ってもう一本渡す。
「ありがとうございます」
「可愛い子に何かあげたいのが男だから、気にしなくていい」
「やっぱり狙って」
「ない」
彩花ちゃんは俺のツッコミに軽く笑みをこぼし、その事を指摘すると、棘のある言葉で反論された。
「あ、もうこんな時間だ。今日はもう帰ります。忙しいらしいので、当分青花の心配はしなくて済みそうです」
「たとえ会っても心配しなくてもいいから」
「分かりました。次は護身用の道具を持ってくるので、また会ったらよろしくお願い
します」
「全くわかってないでしょ」
彩花ちゃんそう言って軽く俺にお辞儀をすると、隣の青花ちゃんもお辞儀したあと手を振ってくれる。
「じゃあな。青花ちゃんもじゃあねー」
俺は二人と別れたあと自転車に乗って家に帰り、妹に「お兄ちゃんいつも以上に気持ち悪い」と言われて少し凹んだ。
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