ママがジェリーになった日
江古田煩人
ママがジェリーになった日
ママがジェリーになった日
朝起きると、ママがジェリーになっていた。
いつもなら朝の支度をしながら「おはよう、トミー。よく眠れたかしら?」なんてやさしく言ってくれるはずのママは、リビングの真ん中で着てるものをぜんぶ脱いだまま、真っ赤なジェリーになってうずくまっている。ママの体から染み出す赤いシロップでリビングは一面べたべた。まるで僕が寝ている間に、いたずら好きな妖精がママをお菓子にしちゃったみたい。僕はママの様子を見るふりをしながらこっそりシロップを舐めてみたけれど、なんだかしょっぱくて変な味がするだけだった。
パパはもうお仕事に行っちゃったみたいで、家の中には僕とママのジェリーだけ。シンクも壁もストロベリージャムを思いきり塗りつけたみたいで、きれい好きなママが家の中をこんなにべとべとにしてるのが、なんだかとっても面白かった。はだかんぼのママ、床の上で手と足をぎゅうっと縮めて、まるで赤ちゃんみたいなんだ。冷蔵庫のオレンジジュースを飲みながら、ぐるりと回ってママの顔を見てみると、ママの顔は溶けかけたアイスキャンデーみたいにぐずぐずに崩れていたけど、鼻から上だけはまだどうにかママの顔をしていた。
「おはよう、ママ。具合わるいの?」
僕が聞いてもママは返事をしなかった。まるで一週間前、僕が『ドクター・フランケンのねばねばスライム』をうっかりシンクに詰まらせた時みたいに、体中からゴボゴボときたない音を立てている。具合をよく見ようとママの顔をのぞき込んだら、急にママの顔が大きく膨らんで、ゴボゴボパチンと音を立てて僕の目の前ではじけてしまった。真っ赤なジェリーの中から出てきたのは真っ白なガイコツ、学校で理科の時間に見せてもらったのとそっくり同じだ。ジェリーの方は僕が見てる間にくたくたに崩れてしまって、僕とママガイコツの周りはあっという間に赤いシロップの海になっちゃった。
今日はなんだか変な日だ。ママはジャムみたいにとろけちゃうし、いつものように『ワブ・ワブ・ドゥーガのみんなであそぼう!』を観ようとしたら、テレビの向こうではこわい顔をしたスーツのおじさんがむずかしいことを話している。ネクタイはよれていて髪の毛もぼさぼさ、いつものニュースのおじさんじゃないみたい。おじさんは早口で、カンセンショウとか、カイゲンレイとか、ジュウトクなヘンイをもたらすサイキンとか、よくわからないことをずっと喋っていたけれど、そのうちおじさんは青色のスライムを吐きながら机に倒れちゃって、あとはチャンネルをいくら変えてもいろんな色のバーがテレビ画面に並んでいるだけ。もちろん『ワブ・ワブ・ドゥーガのみんなであそぼう!』もやっていない。そのうちにカラフルな画面もバチンと音を立てて消えちゃって、家の中はしんと静かになった。
いつもの番組が見られなくてつまらなかったけど、そろそろ出かける支度をしないと学校行きのバスが来る時間になっちゃう。僕は肩にカバンをひっかけると、ママガイコツにいってきますのキスをして家を出た。
いつもなら家の前に来るはずのスクールバスが、今日はいくら待っても来ない。目の前の道路には、何台もの車がランプをつけたまま停まってるし、キャアキャアいう叫び声や動物が吠えるみたいな声が、そこいらじゅうからひっきりなしに聞こえてくる。バスが来るのがあんまり遅いので、僕は学校まで歩いていくことに決めた。街の様子も今日はなんだかへんてこで、いつもなら二軒隣のバウアーさんの家では、ぶち模様の大きな犬が僕に吠えつこうとがんばっているはずなのに、今日はとっても静かだ。ぶち犬はぬいぐるみみたいに地面にへたばったままピクリとも動かない……と、急に犬の体がタオルケットみたいにむくむく持ち上がると、目や口や鼻、それに耳やお尻の穴……とにかく体中の穴から、小さな赤いミミズが、わらわら、わらわら、たくさん這い出してきた。まるでスパゲティで悪ふざけをやってるみたいだ、あふれ出してくるミミズたちを踏まないようにしながら伸び上がって庭の中を覗いてみると、玄関先では綿の抜けたぬいぐるみみたいになったバウアーさんが、けさの新聞を握りしめたまま倒れている。たぶん、バウアーさんの中身も、スパゲティミミズになって外に出て行ってしまったんだろう。僕がしばらく家の様子を眺めていると、後ろから誰かが声をかけてきた。
「きみ、きみ! 生存者かい? ああ、よかった、可哀想に……なるほど、幸いにも発症はまだのようだ。きみ、今朝の緊急放送で見ただろう、このエリアは未知のウイルスに汚染されていて非常に危険なんだ。大丈夫、私も一緒に行くから避難所へ向かおう」
振り返ってみると、頭からつま先まで黄色のスーツをすっぽり着込んだ人が、アンテナの付いたレーザー銃みたいなものを僕に向けながら立っていた。背中には黄色の大きなボンベを背負って、そこから伸びるホースは黄色いヘルメットに繋がってる。まるで黄色の星から来た宇宙飛行士みたいだ。あやしい宇宙飛行士は僕に手を差し出してきたけど、僕はその人に着いていくのがとってもいやだった。テレビの悪役みたいな宇宙飛行士が僕らの街にいるのはどう考えてもヘンだったし、それに、知らない人にうかうか着いていったらいけませんよ、って、ジェリーになる前のママはいつも言ってたんだ。僕は背中のバッグを見せながら、ニセモノの宇宙飛行士に言ってやった。
「僕、これから学校へ行くんだ。早くしないと一時間目に間に合わないよ、悪いけど一緒には行けないや」
「学校? 学校なんかやっているわけないだろう、国土全域に戒厳令が出ているんだぞ。このエリアでぐずぐずしているときみだけじゃなく私の身も危険なんだ、いいから来なさい!」
ニセモノの宇宙飛行士はそう言って僕の腕をむりやり掴もうとしてきた。誘拐される! 僕はそう思ってとっさに宇宙飛行士を突き飛ばしたけど、宇宙飛行士は背負ってるボンベが重たいのか、僕が軽く押しただけで、スパゲティミミズがうようよしてる地面にぺちゃりと尻もちをついちゃった。
「うわあっ! ぐ、うわっ、わあああ!」
ヘルメットの中でニセモノ宇宙飛行士の叫び声がする。怒ったミミズたちが群れになって、ボンベのホースに食いついて穴を開けたんだ。スパゲティミミズは破れたホースの穴からぞろぞろ入り込んで、黄色いヘルメットの中はたちまちミミズでいっぱいになる。みんなでニセモノ宇宙飛行士をこらしめようとしているんだ、僕は家からインスタント・カメラを持ってこなかったことを少し後悔した。
「ぐえ、げ、ごぶるぎゅご、ぎいいいっいいいいいいい!」
ニセモノ宇宙飛行士はミミズだらけの地面を転げ回りながら、スーツを引きむしろうともがいている。ほらみろ、やっぱりあいつはニセモノだったんだ。いまに正体をあらわすぞ……そう僕が思ったとたん、ニセモノ宇宙飛行士のおなかがテントみたいにぐんっと持ち上がった。
「いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
ベキベキブチンと音を立てて突き出してきたのは、ライム色をしたでっかいタコの足だった。数は、一本、二本、三本……数えきれないくらいたくさん。あっけに取られた僕が見ている間にも、ニセモノ宇宙飛行士の中からは大きなタコの足がどんどん生えてきて、なんだかマジックショーでも見てるみたい。
「いいいいっぢぎいいいいいいいいい、ぎぎぎぎぎぎいいいいいいいっっっっっ」
ニセモノ宇宙飛行士のお腹を押し広げるようにしてあふれ出してくるタコの足は、しまいにはオレンジの皮をむくように、ニセモノ宇宙飛行士の体をべろっと丸ごと裏返してしまった。熟れたブドウみたいな内臓を身体のあちこちからぶら下げて、オリみたいな骨を——理科の時間に習った、確か「ロッコツ」とかいう骨だ——ゾウ使いのゾウみたいに、ちょこんと体の上に乗せて、お腹からたくさんのタコの足を生やしたニセモノ宇宙飛行士はもう、宇宙飛行士というよりタコの足をした怪獣みたい。皮がめくれてガイコツになってしまった首は、キリンみたいにうんと長く伸びて、おまけに顔の上下がさかさまだからとってもマヌケだ。キリンの頭の先には、ニセモノ宇宙飛行士の皮が、空気の抜けた風船みたいになってへばりついていた。
「やあい、ざまあみろ、ニセモノめ! 僕のことをだまそうったってそうはいかないぞ!」
僕はニセモノ宇宙飛行士だったクビナガ怪獣にそう言ってみせたけど、怪獣は僕の言うことが分からないのか、長い首をふらふら左右に振るばかり。それを見てると僕は急にかわいそうになってきて、太いタコの足をそっと撫でてやった。
「お前、悪いことをしないって約束する? それなら、僕のペットにしてあげる。ちょうどいいや、お前、僕の馬になりなよ、学校まで僕を乗せて走るんだ」
ロッコツの
「ハイヤー! それ行け、『チョースゴイ・クビナガドラゴン号』!」
僕がそう叫ぶと、やつはタコの足をぶきっちょに動かして走り始めた。まるでひょうきんなダンスを踊ってるみたいだ、僕もそれに合わせて号令をかけながらずんずん道を進んでいった。
いつものメイン・ストリートはまるで動物園だった。あちこちからいろんな鳴き声や叫び声が聞こえるし、ちょっと見ただけでも、見たことのない生き物が通りをうようよしている。『チョースゴイ・クビナガドラゴン号』の上からぐるりと見回してみると、あちこちでいろんな種類のモンスターが歩き回ったり、追いかけっこをしたり、噛みつきあってケンカしたりしているみたいだ。『サニー・マート』のエプロンを着けたピンク色の巨大なイモムシは、体中から生やした小さな指でせわしなく道路を這いずってるし、パジャマ姿で朝刊を握りしめたまんまのおじさんの顔からは、でかいニキビをつぶしたみたいにあちこちから目玉がひり出しては、ガムボールみたいに道じゅうころころ転がってる。その目玉をうまそうに食べてるのは両耳からカニみたいな足を生やした女の人の生首だ、噛みつぶされた目玉から垂れる黄色や緑の血が道路いちめんに飛び散って、カラフルなペンキで遊んでるみたい。わいわい騒いでいるモンスターたちの真ん中を、僕は『チョースゴイ・クビナガドラゴン号』に乗って進んでいく。僕に気づいて慌てて道を空けるやつもいるけれど、たいていのやつはケンカや食事に夢中になって僕らのことにはまるで気づかない。僕らの下で、ブチン、ブチンと水風船を踏んだような音がして、振り返ると僕らの歩いたあとには色とりどりの血だまりが広がっていた。まるで歩きながら虹を作り出してるみたいだ、魔法使いになったような気分がして僕はとても嬉しくなった。
進めば進むほど、道はたくさんのモンスターでどんどん混雑してきた。空っぽの車やパトカー、救急車がいろんな所に停まってるし、その車に乗っかってクラクションを鳴らしたり、下に潜り込んでイタズラしてるやつもいる。どうやらこの街の人間はみんなヘンテコモンスターになって、自分が誰だかすっかり分からなくなってしまったらしい。あちこちの建物からはめらめら炎が出ているし、橋の上では大きなトラックがひっくり返って潰れている。そんなところでヘンテコモンスターが鬼ごっこでもしてるみたいに走り回ってるんだから、『チョースゴイ・クビナガドラゴン号』の背中から眺める街の光景は面白いったらない。鬼ごっこに負けたやつか、手足がもがれて動かなくなったやつは、すぐに他のモンスターが食べちゃうみたいだ。何匹かは
今日の僕はまるでモンスター映画の世界に入り込んだみたいだ。主人公はもちろん僕で、これから『チョースゴイ・クビナガドラゴン号』をあやつって悪の手先を倒しに行くところ。でも僕は良い子だから、冒険を始めるのは学校から帰ったあとにするって決めてるんだ。ブチン、ブチン、ヘンテコモンスターを踏みつぶしながら歩いていると、学校のすぐ手前で知ってる子を見かけた。ピクニック用の赤いリュックを背負って、花柄の小箱を大事そうに抱えたブロンドヘアーの女の子。隣の席のエイミーだ。彼女が着ているチェック柄のワンピースはシロップですっかり虹色になっている、どうやらメイン・ストリートを抜けてきたらしい。僕は『チョースゴイ・クビナガドラゴン号』の上で大きく手を振りながら、エイミーに声を掛けた。
「おはよう、エイミー! 今日はとっても不思議な日だね!」
エイミーは僕の声に気づくと、箱を抱え直してまぶしそうに僕を見上げた。
「トム、どうしたの? そのキリンのおばけはどうしたの? スクールカバンなんか持ってどこへ行くの?」
「こいつは僕の『チョースゴイ・クビナガドラゴン号』。どこに行くのかって、もちろん学校さ。君もそうだろ?」
それを聞くと、エイミーはお腹を抱えてげらげら笑い出した。
「ああおかしい、学校なんてやってないわよ。先生たち、みんなスライムになっちゃったんだから。門から覗いたら学校じゅうピンクのべたべたで一杯なの、あれじゃあチョークを持つどころか扉だって開けられやしないわ」
「ええっ、本当? 残念だな、せっかくこいつに乗ってみんなをびっくりさせてやろうと思ったのに。じゃあエイミー、君はこれからどこに行くの?」
「決めてないわ。テレビで『キケンクイキに住んでいる人はすぐにヒナンしてください』って言ってたから、ママと一緒にヒナンしてるのよ。ほら、これ、私のママ。トムにも見せてあげるわよ」
そう言うと、エイミーは手に持ってる箱を僕に向かって振ってみせた。お菓子でも入ってるみたいにカサコソ音がする。エイミーのママも、僕のママと同じようにヘンテコになっちゃったみたいだ。
「エイミー、ヒナンってどこに行くの?」
「知らない、どこか安全なところ。通りのへんてこな怪物たちを見たでしょう、きっとこの辺にはああいうのがたくさんいるから危ないのよ。おとなりに住んでるロディおばさんも、飼ってるネコとごちゃまぜになって、毛の生えた大きなクラゲみたいになっちゃったんだから」
ゴォォォーン……おしりから火を噴いたジャンボジェットが、大きく傾きながら僕らの頭の上を飛び越えていく。それを見たとたん、僕はいいことを考えた。
「そしたら僕と一緒に遊園地へ行こうよ。きっと大人がいないから遊び放題だ」
「ばかね、大人がいなかったら入れないわよ。チケットが買えないもの」
「大人がいないんなら、チケットなんてなくったって入れるさ。さあ、乗りなよ、詰めれば君一人くらい乗れるからさ」
僕は『チョースゴイ・クビナガドラゴン号』を地面に座らせると、エイミーの手を取ってどうにかくらの上へ引っぱり上げた。せっかく背中に乗せてあげたのに、エイミーは自分の手を嗅いで顔をしかめてる。
「なんだかベタベタするわ、それに変な匂いがする」
「そりゃそうさ、こいつ、さっきまで人間に化けてたんだから。ニセモノの皮を脱いだから血とかいろんなものでベタベタするのさ。ほら、そこいらじゅうに内臓がひっかかってるだろ、皮を脱いだときに中からこぼれてきたんだ」
「そうなの? あら、でもこれは少し違うみたいよ。キラキラしてるわ」
不意にエイミーが何かに気づいたように、『チョースゴイ・クビナガドラゴン号』の首へ手を伸ばした。骨と骨のすきまに、小さな革の財布と、銀色の名札のようなものが引っかかっている。ふらふら動きまわるあいつの首から財布と名札を取るのは難しかったけれど、エイミーが支えてくれたおかげでどうにか手を伸ばすことができた。財布の中身は大したことない、お金(コインだけ。お札は見つからなかった)と何枚かのカード、それに家族写真が一枚。そんなものしか入ってなかったけど、名札の方はとってもイカしてた。シロップでべたべたになってたけど、服の端でぬぐうとすっかりピカピカになって、まるで魔法のお守りみたいなんだ。名札の真ん中には『
「あら、この子って兵隊さんだったのね」
「ニセモノ兵隊の宇宙飛行士さ。僕がミミズと一緒にこらしめてやったんだよ、すっかりおとなしくなって今じゃ僕の
「しもべだなんて可哀想よ、レニーって呼んであげましょう。よしよし、レニー、いい子ね。これはお前に返すわ、私たちのこと遊園地まで運んでちょうだいね」
僕の『チョースゴイ・クビナガドラゴン号』のことを勝手にレニーなんて呼ばれたせいで、僕は少しいやな気分になったけれど、我慢することにした。エイミーは僕より半月ばかり年下だ、だから年上の僕の方が折れてやらなきゃ。エイミーが名札を元通り首に掛けてやると、『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』は再びのっそりのっそり歩き出した。うまく進ませようと手綱を握る僕の後ろで、エイミーはしゃがみ込んだまま、リュックの中身をごそごそやっている。
「ねえトム、お腹すいた?」
エイミーにそう言われたとたん、僕の腹の虫がぐうっと鳴き出した。普段ならそろそろお昼の時間だ、そういえば今朝はオレンジジュースしか飲んでいない。僕がうなずくと、エイミーはにやにやしながら僕の隣へやってきて、あの花柄の箱をぱっと開けてみせた。
「ジャーン! 私のママだけど、トムになら少しあげるわ。とっても甘くておいしいのよ、それに一粒でお腹いっぱいになるの」
箱の中にはマシュマロくらいの大きさの、なにか白くてフワフワしたものが一杯に詰め込まれている。普通のマシュマロと違うのは、薄ピンク色のぽっちりしたボタンがあちこちに付いているくらい。僕はおかしくなって、手綱を握ったままげらげら笑っちゃった。
「これが君のママ? おかしいや、おっぱいみたいなマシュマロがたくさん入ってるだけじゃないか」
するとエイミーは、しかめっ面をしてわいわい言い始めた。
「本当に私のママよ、ママの体からきのこみたいにたくさん生えてきたのを私が全部もいできたの。体の方はしなびて黒くなっちゃったけど、頭からはまだたくさん生えてくるから、リュックに入れて持ってきたのよ」
そう言うとエイミーは、今度は赤いリュックをこっちまで引きずってきた。手綱から手を離さないように注意しながらリュックの中を覗いてみると、エイミーの言うとおり、頭からいくつものマシュマロを生やしたエイミーのママが、ガラス玉のようなぽっかりした目で僕を見つめている。
「アエ、アエ、アオ、オウ、エエオ、イア、エ、アアアアアイイイイイイイ」
エイミーのママは赤ちゃんみたいによだれを垂らしながら、同じような言葉を繰り返している。その頭にいくつもくっついている、たんこぶみたいなマシュマロが、こうして僕が見ている間にも少しずつ大きく膨らんでいくのが分かった。薄ピンクのボタンまで、箱に入っているマシュマロとそっくり同じだ。
「本当だ、すごいや。僕のママはジェリーになっちゃったけど、しょっぱくて全然おいしくなかったのに」
「こうしてリュックに入れててあげないと、モンスターたちが寄ってきて、ママのこと食べようとしちゃうの。ちょっとかわいそうだけど、仕方ないわ」
エイミーはそう言ってリュックに手を突っ込むと、エイミーのママの頭から特別大きなマシュマロをもぎ取った。マシュマロの切り口からはピンクのシロップがにじみ出て、濃いミルクの匂いが辺りにふわっと立ち込める。
「エエエエイイイイイ、ミイイイイイイイイイイイイイイイイ」
エイミーのママは壊れたおもちゃみたいに目をぐるぐる動かしながら、よくわからないことを叫んでいる。なんだかうるさいな、と思っていたらエイミーの方も同じことを思ったみたいで、エイミーはママの頭をやさしく撫でてあげるとポケットから取り出したハンカチをすっぽり口に押し込んでしまった。エイミーのママはそんなことにはお構いなしにずっと叫び続けているけど、ハンカチのおかげでその声はうんと小さくなって、元通りリュックの蓋をしめるとほとんど気にならなくなった。
「ママったら、私がこうしてあげないと、いつまでもずっと叫んでるわ。きっとリュックの中だと暗くてさみしいのね、遊園地についたらママのために可愛いぬいぐるみを買ってあげるつもりよ」
エイミーはそう言いながら、僕に握りこぶしくらいある大きなマシュマロを渡してくれた。すっかりお腹がぺこぺこになった僕が思いきりかぶりつくと、マシュマロの中からは甘いミルクシロップがたくさんあふれ出してくる。おかげで僕の口周りはべたべたになっちゃったけど、エイミーの言うとおり、エイミーのママはとっても甘くておいしかった。
「いいなあ、僕のママもこれくらい甘くておいしかったらよかったんだ。そしたら僕もエイミーみたいに、ママを一緒に連れてきたのに」
マシュマロをかじりながら僕がそうつぶやくと、エイミーはもごついた声で返事をした。どうやら箱のマシュマロをもぐもぐやっているらしい。
「私のママ、お腹に赤ちゃんがいたの。だからきっと、こんなにおいしいミルクマシュマロになったのよ、もうミルクを飲む赤ちゃんはいなくなっちゃったけど」
「赤ちゃんはどうしたのさ、もしかしてマシュマロになっちゃったの?」
「知らないわ。きっとママのお腹から出てどこかに行っちゃったのよ、ママのお腹ったら破れたタイコみたいになってたんだから」
僕は通りで見かけた赤ちゃんの生首を思い出した。たぶん関係ないけど。
「その赤ちゃん、探してるの?」
僕がそう言うと、エイミーは口の中のものをごくんと飲み込んで言った。
「ぜんぜん。だって私、お姉ちゃんになんてなりたくなかったんだもの。赤ちゃんがどこに行っちゃったかなんて知らないけれど、できるならどこか遠くに行ったまま、ずっと帰ってこないでほしいわ」
お昼すぎくらいに遊園地へ着いたけど、やっぱりここにも大人の姿はまるでない。いつもならピエロがにこにこ顔でお出迎えしてくれるエントランスでは、街にあふれていたようなモンスターたちが互いに噛みつきあっていて、そいつらが食べ散らかした血や内臓が、パレードの紙吹雪みたいに地面いっぱい散らばっている。門には赤や緑や紫色のカラフルな腸が絡みついて、そこいらじゅうまるでカーニバルの飾りつけをしたみたいだ。僕らがチケット売り場の方に一歩足を踏み入れると、両目の穴からきれいな羽を生やしたおばさん達が、なにか大きい肉のようなもの——僕の見間違いじゃなけりゃ、ハゲでふとっちょのおじさん、もう半分くらいは食べられていたけれど——を抱えたまま、窓口から一目散に飛び立っていった。おじさんのお腹から垂れてるピンク色の腸が風にひらひらたなびいて、まるでリボンを結んだ風船みたい。それを見ていたエイミーが、急にびっくりしたような声を上げた。
「あら、あの鳥さんたち、チケット売りのおばさんよ。みんな飛んでっちゃったわ、これじゃチケットが買えないじゃないの」
「言ったろ、チケットなんて買わなくても黙って入っちゃえばいいのさ」
「そんなの泥棒とおんなじよ、おまわりさんに捕まっちゃうわ」
エイミーがそう言うか言わないかのうちに、『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』は、急に後足で立ち上がると大きく吠えた。すごい声、まるでスポーツカーのエンジンを一気にふかしたみたい。そのまま駆け出した『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』は僕らを背中に乗せたまま入場口を一足に飛び越えると、遊園地の中をめちゃくちゃに走り始めた。僕がいくら手綱を引っ張ってもなんにも言うことを聞きやしない、エイミーは振り落とされないように僕の腰に必死にしがみついている。
「止まれ、こら、止まれったら! ハイ、シー、どうどう!」
ロデオみたいに跳ね回る背中の上で、僕らは手綱にしがみつくのがやっとだ。『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』は園の中を右に左に走り回ったあげく、すごい音を立てながらポップコーンの自販機に突っ込んでようやく止まった。僕らがこわごわ目を開けてみると、たくさんのポップコーンに埋もれた『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』が前足をたたんでへたばってる。立派だった長い首は根本からぽっきり折れちゃって、そこから青緑色の血がちょろちょろ流れていた。手綱を何度か振ってみたけれど、『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』はすっかり静かになって地面にぐったりのびている。
「レニー、死んじゃったの? どうして急に走り出したの?」
エイミーは僕の体からこわごわ手を離してそう聞いたけど、そんなの僕にも分からない。分かるのは、こいつはもう動けなくなっちゃったってことだけ。
「とりあえず降りよう、近くになにかあるのかもしれない」
僕らは『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』の背中からそっと降りると、辺りをぐるりと見回してみた。動かないコーヒーカップ、虹色のシロップまみれのピエロの看板、メリーゴーラウンドの屋根の上からはピンクの腸が何本もぶらぶら垂れ下がってる。きっとあの鳥おばさん達の巣なんだな……そんなことを考えていると、メリーゴーラウンドの向こうから誰かがひょいと飛び出してきた。Tシャツとジーンズを着た若い女の人だ。着ているものがすっかり虹色なのは僕やエイミーと変わらないけど、髪の毛をぐしゃぐしゃに逆立てて、まんまるに見開いた目で僕らをぎょろぎょろ眺めているのが、パニック映画の脇役みたいでなんだかおかしい。女の人はちょっとの間、壊れたホイッスルみたいに喉をひゅうひゅう言わせてたけど、やっとのことで声をしぼり出した。
「あなたたちバケモノじゃないの? やめて! 来ないで、そこから動かないで!」
女の人はひどく怖がっている風だったけど、僕は自分がワルモノじゃないってことを示すために大きく手を振ってみせた。エイミーも僕と同じことを考えたのか、飛び跳ねながらはしゃいだ声を上げている。
「大丈夫よ、私たちトムと遊園地に遊びに来たの! うしろで寝てる子はレニーって言うのよ、走り回って疲れちゃったみたい。お姉さんも遊びに来たの?」
「馬鹿なこと言わないで! あなたたち、ここで何が起こってるか分かってないの? 狂ったバケモノが外でうようよしてるの見たでしょう、私のママも彼氏もあれの仲間になったのよ! どうやってここまで逃げてきたのか分からない、でももう終わりだわ、この世の終わりよ!」
女の人はそう叫びながら頭をかきむしり始めたので、僕はちょっとがっかりした。だって今日会った大人たちは、みんなぎゃあぎゃあ叫んでばっかりで、子供の僕より子供みたい。人前でわんわん泣くのはみっともないですよって、きっと小さい頃にママやパパから教わらなかったんだ。それでも、エイミーはどうにかして女の人を慰めようと思ったみたいで、自分のリュックを抱え直すと女の人の方へ駆けて行った。僕はあんまり気が進まなかったけど、泣いてる人をほったらかしにしたまま後ろで立ってるのはなんだかすごくみっともない気がしたから、『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』の首に掛かってたあのイカした名札を持っていってあげることにした。女の人の隣に腰を下ろしたエイミーは、一足先にリュックの中をごそごそやり始めている。
「お姉さん、ほら、これを食べて元気を出して。おいしいマシュマロよ、お姉さんにも特別にあげるわ」
エイミーが差し出した大きなマシュマロを女の人はぼんやり眺めていたけど、急にギャッと大声を出すとザリガニみたいに後ろへすっ飛んでしまった。そのわけはすぐ分かった、リュックから顔を覗かせたエイミーのママがそのままタコみたいにずるずる這い出していたんだ。ピンクのシロップでべったり濡れたエイミーのママが、ゆっくりと女の人の方を向く。半開きの口からシロップがあふれ出た。
「ば、化け物、ば、ば、あああああ」
地面の上で足をばたつかせながら、女の人は変な声を上げている。おまけにちょろちょろと音を立てておしっこを漏らし始めたから、僕もエイミーも思わず笑っちゃった。だって仕方ないだろう、びっくりしすぎておしっこを漏らす大人なんて今まで見たことも聞いたこともなかったんだから。おしっこまみれで泣いてる女の人は、とっても面白くて、ちょっぴりかわいそうだった。
「泣かないでよ、お姉さん、僕もいいもの見せてあげるから。ほらこれ、ピカピカしてかっこいいでしょ」
おしっこの水たまりを踏まないようにしながら、僕は女の人の手に名札を握らせてあげた。女の人はエイミーのママと同じガラス玉みたいな目をして、名札を眺めている。名札を左から右まで見て、また左から右まで見て、最後にもう一度。フウ、ウウ、アウウ、と女の人はくたびれた犬みたいな声を出して、急に立ち上がるとゾンビみたいに僕の肩を掴んできた。ジーンズからおしっこのしずくがポタポタ垂れて汚いけど、そんな事はぜんぜん気にしてないみたいだ。
「……あな、あな、あなたこ、これ、どこでこれ見つけたの、教えなさい、ねえ、どこでこれを、パパの名札をどこで拾ったの! ねえ、答えなさいよ! 早く!」
僕の体をがくがく揺さぶりながら、女の人は大声でわめいている。僕は手を伸ばして『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』の方を指すのが精いっぱいだった。
「拾ったんじゃないよ、あいつが首から下げてたんだ! 『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』だよ、僕らはあれに乗ってここまで……」
ギャアッと女の人は叫ぶなり、僕をおしっこの真ん中に放り出して『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』の方へ一目散にかけて行ったけど、首を変な方に曲げたままうずくまってるそいつを見るなり女の人は体を折り曲げてゲロを吐いた。びちゃびちゃいう音と一緒に、すっぱい臭いが広がってくる。
「おぐぉろろろろろろろ! ごえっ、おうぇ、ああ、嫌よ、嘘、パパ、パパ、パパ、おうぇ、うええ、げぉええええええ、おえっ、パパ、パパ、ああああああ」
あれきり動かなくなった『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』の体をめちゃくちゃに揺さぶっている女の人を、僕もエイミーも黙って眺めていた。エイミーはママの入ったリュックをぎゅっと抱きしめたまま、なんだか気持ち悪そうな顔をしている。僕だっておんなじ気持ちだ、おしっこまみれでゲロを吐いてる女の人が、泣きながら『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』(多分もう死んでるんだ、それくらい僕にだって分かる)のもげかけた首をくっつけようとしてるんだから。それでも僕らは女の人をほっとけなくて、そいつから離れたほうがいいよって何度も呼んであげた。動けなくなったモンスターがそのうちどうなるか、僕もエイミーもよく分かってたから。
「パパ、パパ、ああ、あは、ヒイ、ヒイッヒヒヒヒヒィいぎいぃいいいぃいぃ」
女の人は動物みたいに吠えながら、地面に向かって頭をごんごんやり始めた。僕らの声なんかまるで聞こえてないみたいだし、メリーゴーラウンドの屋根の上から長い体をずるりと下ろして這い寄ってくるおじさん——あのハゲでふとっちょのおじさんだ——のことにも、ぜんぜん気づいてないみたいだった。食いちぎられた体からびろびろに伸びていた腸をうまい具合に屋根へ巻きつけて、ジャングルの奥で獲物をねらうアナコンダみたいにゆっくり近づいてくるおじさんは、僕らの方には目もくれない。目玉はあの鳥おばさんに食べられちゃったのか、両方ともすっかり無くなってたけど、音とにおいで獲物のありかが分かるみたいだ。
「あら、見てよトム、見えてないのにすごいわねえ」
「本物の蛇もそうさ、ジャングルではああやって獲物を探すんだよ」
僕がエイミーにそう教えてあげてる間にも、蛇おじさんは大きく手を広げると、後ろからハグでもするみたいに女の人の体をぎゅうっと抱え込んだ。そのとたん、女の人はこれまでで一番大きい声でなにか叫んだけれど、次の瞬間にはバックリ開いたおじさんの口の中へ、頭と一緒に声も飲み込まれちゃった。頭をメロンみたいに膨らませた蛇おじさんは、女の人の頭をすっぽりくわえ込んだまま、伸ばしたメジャーを巻き戻すようにするするとメリーゴーラウンドの屋根の上まで戻っていく。僕らがまばたきする間の出来事だった。後に残ったのは、あのピカピカ光る名札だけ。
しばらく待ってみると屋根の上から、ポトンと音を立てて何かが落ちてきた。ピアスのついた小さな耳たぶ。僕らは少しの間それを眺めてたけど、エイミーが先にハンカチで耳たぶをくるんで拾い上げると、『レニー・チョースゴイ・クビナガドラゴン号』の死体のそばにそっと置いた。僕はその上に、女の人が落としていった名札を乗せてあげた。屋根の上からはなにかをクチャクチャ噛む音がしてたけれど、僕らはそれにかまわず離れることにした。
気づけば太陽は遊園地のはるか向こうに沈みかけていて、空はちょっぴりずつ薄暗くなってきた。ピエロの看板も、電気が消えた観覧車も、おじさんとおばさんの巣になったメリーゴーラウンドも、エイミーも、僕も、全部がオレンジ色に照らされていく。普段だったら、ピカピカ光るおもちゃをたくさん乗せたワゴンがあちこちに出てくる頃だけど、もちろん今日はなんにもない。きっと夜のパレードもないだろう。その代わりに僕らの周りでは、大きな鳥がバサバサ羽ばたく音、ねばっこいものがゴポゴポいう音、大きなけものや小さなけものが歩く音、それよりもっとたくさんの声が聞こえてきた。
「いぎいいいいいいぢりりりりぎいい、ぎぎいっいいいいいいいいい」
「おかあさん、おかあさん、おかあおかあささんおおおかかかささささあああ」
「ケケコココココケケケクキココココココカカカカカココココエエエエエエエ」
「あああああああああああっああああああ、あああああああああああああ」
僕とエイミーはジェットコースター前のベンチに腰かけながら、ミルクマシュマロをかじっていた。あちこちから聞こえてくるたくさんの声は僕らをすっかり取り囲んで、だんだん近づいてくるみたい。試しに靴をかたっぽ脱いで投げてみると、暗闇の中からぎょわっと声がした。誰かに当たったのか、それともよけられちゃったのか、すぐ隣でエイミーがくすくす笑う声がした。
「トム、いま何を投げたの? 面白い声ね」
「僕じゃないさ、靴を投げたらやつらに当たったんだ」
それを聞いたエイミーも、僕の隣でごそごそやり始めた。ちょっとしてから何かを投げる音、またモンスターの鳴き声。今度のはさっきよりずっと近い。
「エイミーは何を投げたの?」
「私も同じよ。靴を投げたの」
僕もエイミーも、真っ暗の中で顔を見合わせてくすくす笑った。
「ねえトム、もし明日になっても世界がへんてこだったらどうする?」
僕は箱の中の最後のマシュマロをつまみながら、しばらく考えてみた。
「そしたら明日はもっと遠くまで行くな。新しい馬と一緒にアラスカに行って、オーロラを見るんだ。一度テレビで見たけど、すごく綺麗なんだよ」
「そしたら私、トムと一緒についていって、ママにもオーロラを見せてあげるわ。その前にママのこと全部食べちゃうかもしれないけど。ねえ、いいでしょ? ママのマシュマロ、トムにもあげるから」
「いいさ、一緒にどこまでも行こう。ママも先生も、大人はみんないなくなっちゃったんだ。僕らがなにをしたって誰も怒ったりしないさ、一緒に好きなことをしようよ。明日も、あさっても、その先もずっと」
僕のすねを大きなけものがべろりと舐めたけど、僕が軽く蹴っ飛ばしてやるとすぐ引っ込んでった。あれきりエイミーからの返事はなかったけど、その代わりに隣で静かな呼吸が聞こえてくる。それを聞いてるうちに、僕もだんだん眠くなってきた。
「おやすみ、エイミー」
僕はそう言って目を閉じた。おやすみ、世界。おやすみ、みんな。
大きなけものの吐く息が、僕のひたいに掛かった。
「どうも上手くいかないもんですね」
「でたらめな突然変異をシミュレートしろっていうんだから仕方ないさ、特異遺伝子の発現率を見直してみたらどうだい。もう少し……その、生物としての整合性が取れるように」
「そんなことをしても面白くありませんよ、せいぜい巨大なゴリラが街中を暴れ回るだけだ。普通の生物がめちゃくちゃな変異をするから面白いんじゃないですか……やれやれ、今夜も家には帰れそうにないなあ」
「お互い様だよ、俺も腰を据えて付き合うからさ。しかしこの、変異生物が蔓延した世界をAIに探索させるホラーゲームってアイデアは、ニッチな層にはかなり刺さるぞ。できる限りこのまま活かして開発したいな」
「探索AIの方はけっこうよく出来てるでしょう、怪物から逃げ回るばかりじゃゲームになりませんから。興味さえ向けてやれば、危険な状況でもパニックになることなく、自分から創意工夫して行動する。この異常な環境に適応するようプログラムを組むのは、わりかし骨が折れたんですよ。それに子供っていう設定なら、突飛な行動をしても不思議じゃないでしょう。サバイバル能力には難ありですが、こうしてデモプレイを眺めている分には面白いゲームだと思うんですが」
「動き自体はよく出来ているよ。リリースしたら結構話題にはなるんじゃないかな、それにしても……自殺も発狂もできないなんて、このAIには気の毒な話だな。俺だったら、目が覚めて世界がこんなことになってたら、迷わず死を選ぶね」
「はは、それはこの世界に住んでる宿命と思って諦めてもらうしかないでしょう。さあ、もう一度テストプレイだ……今度は思い切って、変異率をうんと高くしてみよう。今度はどうなるかな」
朝が来た。いつもみたいに階段を降りてリビングに行くと、ママが
ママがジェリーになった日 江古田煩人 @EgotaBonjin
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