第2話 そして、日常。

 朝起きると喉が渇いていた。そう、ヴァンパイアの食事をしたいのだ。吸血の為の親友の彩音は居ない。


「おやおや、喉の渇きですか?」


 露葉が近づいて来てωの口になっている。それは人の不幸が三度の飯より好きなのだ。


「ホント、露葉お姉ちゃんは嫌われ者ね」

「それは違う、ヴァンパイアの私の方が一般人のより本能に忠実なのだ」


 ヴァンパイアの方が猿だと言いたいのか?


 私はωの顔の露葉に嫌悪感だけだ。さて、こんなダメ人間はほって置いて夜葉を探す。


「夜葉お姉ちゃん、トマトジュースある?」

「エナジードリンクならあるわよ」


 古来より吸血の代替としてトマトジュースを使っていた。しかし、最近はエナジードリンク方が使われている。私の場合はトマトジュースの方いいが贅沢は言えない。トマトジュースを諦めてエナジードリンクを飲む。


 うううう、効くな!!!


 私は目が覚める気分だ。さて、朝の支度をして登校だ。


 夜葉お姉ちゃんの趣味は切手の収集である。専用のブック式の入れ物に収集した切手が収められている。


 しかし、事件は突然起きた。


「無い!私の可愛い切手達が無いのよ」


 夜葉お姉ちゃんが大混乱している。どうやら、集めていた切手が無いらしい。


「あ、ヨーグルトの豪華賞品の抽選のはがきに使った」


 むむ、露葉が貯めていた、ヨーグルトのシールをはがきに貼って使ったのか。


「キーーーもう一度、言ってみろ!!!」


 激怒した夜葉は露葉につめ寄る。


「だから、はがきに使ったと言っているでしょう、昔の切手だから沢山使ったのよ」

「ああああああ、私の可愛いい切手ちゃん達、悪い女に使われてしまったのね」


 夜葉お姉ちゃんは怒りから喪失感に変わったみたいだ。


「ほら、五百円玉あげるから元気だせ」


 露葉は何処からか五百円玉を取り出す。


「おや?製造年が昭和64年だ」


 夜葉が目を丸くする。それは、確かこの年は年号が変わって昭和64年はかなり短いのであった。しかも、このタイプの五百円玉は現在製造されていなく。今となっては、かなり入手困難な一品だ。


「へへへ、切手代はらったからな。釣りはいらんぜよ」

「私のコレクションにいていいの?」

「だから、釣りは要らない、大切にするといい」


 ネットで調べたらそれほど高い物ではないが、要は気持ちの問題だ。こうして、姉妹ケンカは終了して平和な家庭に戻ったのである。


 我が町、神奈川県二宮は海沿いの町である。姉の露葉は海釣りを始めたらしい。


「穴場スポットを見つけたぞ」


 その言葉は本物で大量の獲物を持参して帰ってきた。


「うわー生の魚だよ」


 私が驚いて生魚を見て露葉お姉ちゃんを誉めると。


「えへへへへ、惚れなおした?」


 簡単に天狗に成りやがった。少し、試してみよう。


「で、さばいて、焼き魚にしようよ」

「……」


 返事がない、ただのヴァンパイアの様だ。


「まさか、さばくのが出来ないの?」

「勿論、出来ない」


 返事が有った、しかし、能無しのヴァンパイアであった。天狗に成っていた鼻は簡単に折れてしまった。


「夜葉お姉ちゃんなら出来るはず……」


 露葉はポツリと呟き。私達は夜葉が帰って来るのをしばし待つ事にした。


 そして。


「ただいま」


 きたきた、夜葉お姉ちゃんがバイトから帰って来た。


「おし、これ料理して!」


 二人で夜葉お姉ちゃんに魚の入ったバケツを見せると……。


「ウザ、小さい魚を焼くなんて、ウザ」


 いきなり不機嫌になる夜葉であった。


「まま、お茶でも飲んでから、料理して下さいな」


 露葉はペットボトルのお茶を用意して差し出す。更に、露葉は夜葉に『小魚を料理できるところを是非見てみたい』と、おだてるのである。


 夜葉は渋々、了解して料理を始める。露葉は安心した様子で海釣りのサオを磨き始める。旦那の趣味に付き合わされる嫁の様だ。


 姉妹愛は、ホント、これでいいのか?と……小首を傾げる私であった。



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