ヴァンパイア三姉妹の憂鬱

霜花 桔梗

第1話 始まり始まり。

 朝、微睡から覚めると長女の夜葉が朝食を作っている。


 私の名前は月葉、ヴァンパイア三姉妹の三女だ。


「ぐがー、ぐがー」


 隣に寝ているのが二女の露葉で性格は大雑把、長女の夜葉と正反対である。私は露葉を起こして部屋の隅にある鏡に寝ぐせを直しに向かう。


「月葉、もう少し……」


 後ろを見ると、露葉が布団に戻ろうとしている。


「ダメ、露葉お姉ちゃん、遅刻するよ」

「ああああああ、布団が恋しい」


 私は心を鬼にして露葉の頬をビンタする。


「ひー、起きる、起きる」


 我が家は神奈川県二宮にあるアパートに五人家族で住んでいる。両親は共働きで都心に努めている為にすでに出勤している。


「じゃ、私も出かけるね」


 夜葉も横浜にある大学の学生だから朝が早いのだ。地元の高校生である露葉と私は一番ゆっくりできるのだ。


「私、ニートになりたい」


 露葉が高校に行きたくないと駄々をこねる。


「もう、一緒に行くよ。大体、露葉お姉ちゃん、高三でしょ、進路どうするの?」

「ニート」


 この現代っ子はヴァンパイアのプライドはないのかと心の底から思うのであった。


 高校での一限目と二限目の休み時間。


「彩音、喉が渇いたので何時ものを頼む」


 私は親友の『友引 彩音』を呼ぶのであった。


「ま、いいけどさ」


 近づいてきた彩音の首筋をガブリとする。そう、ヴァンパイアの食事の時間である。


 一分ほど首筋にキスをすると。私は彩音から離れる。


「ごっそさん」

「私の血、美味しかった?」

「まあまあ」


 この一連の行動はヴァンパイアの本能である。基本、ヴァンパイアは血族なので食事でヴァンパイア化することはない。


 また、吸血時にオキシトシンこと安心ホルモンが分泌されるので吸われる側も気持ち良いのだ。


 こんな日常が続き私は教科書を開く。さて、二限の授業も頑張るぞ。


 昼休み、私は彩音と共に教室で菓子パンを食べていると。


「おい、月葉、お前の姉貴はなんとかならないのか?」


 声をかけてきたのは。ALTこと外国語指導助手のベッキーなる幼女先生だ。ベッキーは小学生の年齢で英語の先生として働いている天才なのだ。


「露葉お姉ちゃんがまた何か?」

「クラス内に血を食す相手がいないから、私を求めてくるのだ」


 あああああ、コミ障害の露葉らしいな。


「吸血されるのは気持ちいいはずでは?」


 私は素朴な疑問をぶつけてみる。


「天才幼女の私はもっと高貴な存在に吸血されたいのだ。あんなバカじゃ嫌だ」


 その気持ちは分かるがもう少し大人の対応はできないのかと幼女先生に求めてみる。


「あー無理っす」


 即決だな、ここは……。


「この菓子パンをやるから、大人しく吸血されろ」

「ううう、迷うがその取引、承知した」


 やはりちびっ子先生だ、菓子パン欲しさに直ぐ納得するからだ。ふ~う、私の昼食が無くなってしまった。何時もリックサックに入れてあるカロリーメイトでも食すか。

 放課後、私の所属する部活である陸上部が終わると。姉の露葉からメッセージが届く。


『部活が終わるのを待っていたよ。一緒に帰ろう』


 まったく、暇な姉だ。部活の時間はそれなりに有ったのに。


 渋々、昇降口に向かうと。震えながら待つ露葉が居た。


「おおお、心の友よ、早く一緒に帰ろう」

「ホント、暇人だね」

「それを言うな、最近は物騒な世の中だ」


 はて?ヴァンパイアの私達は胸にクイでも打たれないと死なないのに。


「あ!!!その目はウザイ奴だと思っているだろ。きっと、埋められて、殺されて、犯されるのよ」


 病的な順番だな。何処かで聞いた話だが元ネタの先を忘れえてしまったな。


「大丈夫、寸胴の露葉お姉ちゃんは誰も狙わないわ」

「そうそう、夏場は体型が隠せないから……。違う!!!」


 おやおや、ノリツッコミですか。もう、芸人ですな。


「とにかく一緒に帰ろう」


 結局、露葉と一緒に帰る事になった。しかし、体感治安の悪い世の中だな。


 自宅のアパートに戻ると私は夕食の準備をする。夜葉お姉ちゃんはバイトに忙しいのだ。両親も仕事が忙しく帰りが遅い。


 で……露葉お姉ちゃんは自宅に帰ると早速昼寝に入る。


 決して、ヴァンパイアだからではない。本人はコアラから転生したのだと言うが絶対ナマケモノだ。姉の露葉は寝たいのだ。


 今日はカレーライスにしよう。他にサラダでも作りたいが私も楽をしたい。適当の野菜を切るだけのサラダはなしである。結果、カレーライスだけが完成する。


「クンクン、カレーの匂い、腹減ったな」


 おや、自称コアラの露葉が起きてきた。


「待て!サラダを作ったら食べていいよ」


 私がサラダを作ってと露葉に頼むと。


「料理長の気まぐれサラダなら作れるよ」


 まあ、良かろう。完成したのはレタスを千切ったモノであった。


 うむ、贅沢は言いまい。


 夜、この狭いアパートの部屋の中で私は机に向かっていた。勉強ではなくスマホの画像を整理していたのだ。


 写っているのはサッカー部のエースストライカ―の三和君だ。


 そう、私は彼に恋をしていた。あああああ、彼に恋をしている女子は多くライバルは沢山いる。


「月葉、男はケダモノだらけよ」


 私が三和君に見惚れていると背後に夜葉お姉ちゃんが立っている。流石、夜葉お姉ちゃんだ、私の背後を簡単にとるとは、ただ者ではない。


 しかし、彼氏いない歴が年齢のモテない夜葉らしい助言だ。


「三和君は違うもん、優しくてカッコイイの」


 私は口が三角になって三和君の魅力説く。


「……どうせ私は負け組女子ですよ」


 あ、認めた。


 夜葉は私の背後から去り。


 「コンビニで甘い物でも買ってくる」


 と、言い残して出かける夜葉であった。


 やはり、恋はしたもの勝ちだ。

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