第14話 混沌3

***その時、突然復活した魔王が現れ、剣をアリアに向かって振るった。***


「――え?」

秋冬が目を丸くする。そして、その視線の先には、アリアに向かって剣を振り下ろす魔王の姿があった。

「――アリアァアアッッ!!!!」

秋冬が叫び声を上げた。

――ガキンッ!! 魔王の剣をアリアが受け止める。だが、魔王の攻撃は止まらない。次々と斬撃を浴びせていく。

「くっ!」

アリアが魔王の攻撃を必死に防ぐ。だが、魔王の猛攻は凄まじく、次第に追い込まれていく。

「アリアァアアッッ!!」

秋冬が駆け出す。だが、魔王の妨害を受けて思うように動けない。

「邪魔すんなッ!!」

魔王を斬りつけるが、魔王はびくともしない。

「無駄だ。今の我は不死身だ」

魔王が不敵に笑いながら言う。

「魔王、お前は何がしたいんだ!」

「知れたことよ。この世界を我が手中に収める」

「そんなことをして何の意味がある!……お前はただ寂しいだけじゃないか!!」

「……黙れ」

「お前はずっと一人で生きてきた。だから他人に期待することを止めた。……でも、本当は人と関わりたかったんだろ? 誰かに必要とされたかったんだろ?」

「……黙れ」

「でも、お前には仲間が居なかった。だから、魔王になったんだ」

「……黙れ」

「お前はずっと寂しかったんだ。だから俺達を利用した」

「……黙れ」

「でも、俺は違う。俺はアリアと一緒に生きることを決めた。だから、俺達は魔王を倒す」

「……黙れ」

「アリア、俺に力を貸してくれ」

「えぇ、もちろんよ」

アリアが剣を構える。そして、秋冬と共に魔王に切りかかった。

「小賢しい真似をするな」

魔王が二人に向かって魔法を放つ。だが、それは秋冬の『魔法反射』によって跳ね返された。

「今だッ!!」

「えぇッ!!」

二人が魔王に肉薄する。だが、魔王は余裕の笑みを浮かべていた。

「愚かな」

魔王が魔法を発動させる。それは『魔法吸収』の魔法だった。

「そんなッ!?」

アリアが驚愕の声を上げる。そして、そのまま膝から崩れ落ちた。

「……うぅ」

アリアの顔色が悪い。苦しそうだ。

「アリアッ!!」

秋冬が慌ててアリアの元に駆けつける。だが、その隙を突いて魔王が魔法を放った。それは『魔力解放』の魔法だった。

「……ッ、これは?」

アリアの体から膨大な量の魔力が溢れ出した。その力は凄まじく、秋冬が立っているのもやっとなほどだ。

「アリア、何をするつもりなんだ!?」

秋冬が叫ぶ。だが、アリアは答えずに剣を構えた。

「秋冬、離れてて」

「アリア!?」

「私は魔王を倒す」

「待ってくれ、アリアッ!!」

秋冬が叫ぶ。だが、アリアは聞く耳を持たなかった。

「魔王、これで終わりだッ!!」

アリアが魔王に突っ込む。魔王は迎え撃つように剣を振り下ろした。

『ダブル・スラッシュ!!』

二人の攻撃が交差する。互いの一撃は相手を捉えたかに思えた。しかし、結果は違った。

「何故だ? 我の剣は確かにお前を捉えていたはずだ」

魔王の言葉にアリアは何も言わない。ただ無言で魔王を見つめているだけだ。

「まさか……」

そこで魔王はあることに気がついたようだ。そして、忌々しげな表情でアリアを見た。

「……お前は女神だな?」

魔王の言葉を聞いて秋冬が驚く。だが、すぐに納得したように呟いた。

「そういうことだったのか」

秋冬は魔王がなぜアリアのことを知っていたのか不思議だった。だが、それは魔王が女神であるアリアの力を使っていたからだ。

魔王は女神と敵対している。だからこそ、女神の力を使えるアリアの存在を危険視していたのだ。

「魔王、あなたは間違ってるわ」

アリアが静かに口を開く。

「黙れ」

魔王が苛立たし気にアリアに攻撃する。だが、アリアはそれを軽々とかわすと、魔王に反撃した。

「ッ!?」

魔王が驚いた顔をする。だが、すぐに冷静さを取り戻すと、アリアに向けて魔法を放ち始めた。

『魔法吸収』

アリアはそれを『魔法反射』の魔法を使って跳ね返していく。

「馬鹿な、あり得ない」

魔王が狼籍する。『魔力解放』によりアリアの力が跳ね上がったことで、戦況は一気に逆転してしまった。

「魔王、お前はもう終わってるんだよ」

秋冬が呟き、魔王に攻撃する。だが、魔王は秋冬の攻撃を受け止めるだけで精一杯な様子だ。

「秋冬、離れなさい」

「あぁ」

秋冬がアリアから離れる。そして、アリアは剣を大きく振りかぶると、魔王に向かって思いっきり投げつけた。

「何ッ!?」

魔王が驚きながらも剣を避ける。だが、それが命取りとなった。

『魔法反射』

『魔法吸収』

二つの魔法が同時に発動される。それにより、魔王は為す術もなく吹き飛ばされた。

「くっ……」

魔王が立ち上がる。だが、その体はボロボロだ。もはや戦う力は残っていないだろう。

「魔王、もう諦めろ」

秋冬が魔王に言う。だが、魔王はニヤリと笑うと、秋冬に襲いかかった。

「まだだ……。我はまだ負けていない」

「往生際の悪い奴だな」

秋冬が呆れたような顔をする。すると、魔王は魔法を唱え始めた。

『闇よ、我が敵を喰らえ』

魔王の周囲に闇の渦が現れる。そして、そこから無数の魔物が現れた。

「こいつらは?」

「我が生み出した眷属だ」

魔王が不敵な笑みを浮かべる。すると、魔王は両手を地面に付けた。

『魔獣召喚』

地面から大量の魔物が出現する。その数は千を超えている。

「なっ!?」

「くくくっ、これぞ我が最強の技『無限魔軍』よ」

魔王が高らかに笑う。その顔は狂気に染まっていた。

「こんな数を相手にするのは無理よ」

アリアが絶望的な表情で言う。すると、魔王は勝ち誇るように言った。

「女神よ、貴様の役目はもう終わった。後はこの世界を滅ぼすのみ」

「……」

「勇者、お前は我の最大の障害となる存在だと思っていたが、どうやら我の見込み違いだったらしい」

「……」

「所詮、お前は人族の一人に過ぎぬ。お前のような雑魚など取るに足らん」

「……」

「さて、そろそろ決着を付けるか」

魔王が魔法を唱える。そして、秋冬に向かって放った。

『魔法破壊』

秋冬が魔法を破壊する。魔王は一瞬だけ目を見開くが、すぐに次の魔法を唱えた。

「死ね」

『地獄炎熱』魔王の掌から業火が放たれ、秋冬を襲う。秋冬は避けることも出来ずに直撃した。

「ぐあっ!!」

秋冬が悲鳴を上げる。秋冬はそのまま倒れ伏した。

「秋冬ッ!!」

アリアが叫ぶ。だが、秋冬はピクリとも動かない。魔王はそんな秋冬を見て満足そうに微笑んだ。

「くくっ、他愛もない」

そして、魔王は次の標的としてアリアを見る。

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