第11話 神に挑む魔王

 ***


 崩壊を続ける上空の魔王城。城の至る所で爆発が起き、無数の残骸が地上に降り注いでいた。


「アリア、一体何が起こっているんだ?」


 俺は今の状況が全く理解できず、一緒にいるアリアに尋ねた。


「……分からないわ」


 そう答えるとアリアは俺から視線を逸らした。


 ―――その時だった。


「やァ、お二人さん。久しぶりだねェ」


 突如として現れたのは魔王軍……幹部の…アルテオン……の映像魔法だった。


「……何だよアルテオン。今はお前と話している暇はないんだよ」


「おやおや、ご挨拶だねェ? そォんな事言わずにさァ。ボクの話を聞いてよォ」


「……話って何? あの魔王城に関係すること?」


 アリアが訊くと、アルテオンは笑みを浮かべた。


「まァ、そいうことサ。君達、この世界を救いにきたんだろ? そのためには魔王サマを倒さなければいけない訳だケド、今がその千載一遇のチャンスってことなんだよネ」


 アルテオンが軽く手を振る。すると、そこに白い入口のようなゲートが現れた。


「このゲートは魔王の空間に直接繋がっている。これをくぐって魔王を倒し、世界を救うんだ」


「……何故魔王軍であるお前がそんなことをするんだ?」


 俺が尋ねると、アルテオンは肩をすくめた。


「さァてね、自分でもよく分からないんだよねェ。ただの気まぐれってやつサ。本来、君達を魔王の空間に転送するなんてことは不可能なはずだったんだケド、誰かさんがちょうどいいタイミングで暴れてくれたおかげで、隙が生まれたって訳サ」


 ここでアルテオンは何故かアリアの方をチラッと見た。


「罠だと思うんなら無理にとは言わない。ただそれだと間違いなくこの世界は間もなく完全に滅びるだろうねェ。君達が魔王と相対すればとても面白いことが起きそうだけど、残念ながらボクには見届けられないんだよねェ」


「……それってどういう―――」


「あー、もう時間切れだヨ。ここまでみたいだネ。それじゃお二人さん、期待してるよ」


 意味深な言葉を残し、映像魔法は消えてしまった。さて、どうしたものか。


「……アリア、どうする?」


「行きましょう」


 即答するアリアに、思わず彼女の顔を見つめる。その瞳には強い意志が宿っているように見えた。


「理由は私にも分からないわ。でも、今行かないと取り返しのつかないことになると、そう強く感じるの」


「そうか、分かった。行こう」


 アリアがそう言うなら俺に反対する理由など無かった。二人でゲートの前に並び立つ。


「……」


 ふと見ると、アリアの手が少し震えていた。俺は自然と彼女の手を握った。


「大丈夫だ、俺も一緒だから」


「えぇ、ありがとう」


 俺たちは互いに微笑み合うと、同時にゲートへと足を踏み入れた。



「―――アリアの事を……よろしく頼む」



 ゲートの中に入った瞬間、どこからともなく誰かの声が聞こえた気がした。



 どこまでも続く白い空間。最初にアリアと出会った場所によく似ていた。


 空間の中央に玉座に座る白い仮面の男がいた。


「……お前が魔王か?」


「いかにもそうだ、勇者に女神よ。よもや、こうして相まみえることになろうとはな。本来起こりえなかったことだ。我を倒して世界を救うのがお前たちの目的なのだろう? だがそれは無意味だ」


「……何だって?」


「私達があなたに勝てるはずが無いってこと?」


「そうでは無い。文字通り、戦うことに何の意味も無いと言っているのだ。何故なら、この世界は二柱の創造主の遊び場に過ぎないのだからな」


「……創造主?」


「そうだ。二柱の創造主の気まぐれによってこの世界は生み出されたのだ。さらに創造主はその気まぐれによって我らを創った。つまり、創造主にとっては我々は玩具に過ぎぬというわけだ」


「そんな……」


 アリアが悲痛な声を上げる。しかし魔王の話は止まらない。


「だからこそ、我は一刻も早くこの世界を滅ぼして終わらせようしてきた。本来、勇者は世界に降誕した直後に倒されるはずだったのだが、大きな『揺らぎ』が起こってしまったが故、今この状況になっているということだ」


「揺らぎっていうのは何なんだ?」


 俺が訊くと、魔王はフッと鼻を鳴らした。


「我にも分からぬ。だがそれこそが諸悪の根源なのだ。こんな世界が生み出されてしまったことのな」


「……」


「まぁ良い。いずれにせよ、我とお前達が出会ってしまった時点で世界を滅ぼすことは叶わなくなってしまった」


「……それは何故?」


「勇者と魔王が戦えば勇者が勝つ。よほどのひねくれ者で無い限り、そう設定するはずだからな。我はお前達によって倒され、この救いようの無い世界は救われ、続いていってしまうのだ」


「……この世界が、救いようの無い?」


「確かに、この世界はモンスターが現れるまでは人間同士で争い合い、領土や資源を巡って殺し合っていた。でも、だからといって、あなたが世界を滅ぼしていい理由にはならないわ」


「見解の相違だな。話し合ったところで何にもなりはしない。それより、どうする? 我を倒し、世界を救うのか? 勇者に女神よ」


 魔王はそう言いながら、ゆっくりと立ち上がった。


「……俺はアリアと一緒に生きていきたい。そのためにはこの世界を救わないといけないんだ」


「……だろうな。ならば」


 魔王は手を天に掲げた。……が、何も起こらなかった。


「……何をしている?」



 ***『……これより世界の均衡は大きく傾く、秩序から混沌に、自然から機械へ』***

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