第9話 最後の戦い
***
魔王城内部への侵入には成功した。程なくしてモンスター共に見つかったが、禁術のおかげでほぼ無限の魔力を持つ俺の相手では無かった。
無謀にも襲い掛かってくるモンスター共を斬り伏せ、魔王城を進んでいく。
結局、先の魔道具を使った内部の偵察では魔王の居場所を突き止めることはできなかった。
ならば、自分の足でしらみつぶしに探すより他ない。
魔王城内を歩き始めて数分、急にモンスター共の攻撃が止んだ。辺りが不気味な静けさに包まれる。
一瞬立ち止まりそうになったが、思い直して進んでいく。罠だろうが何だろうが、俺に残された時間は長くはない。どの道進むしかない。
モンスター共が居なくなった魔王城の廊下を、俺は悠然と進んでいく。
その時、目の前の廊下の床が赤く光り始めた。そして次の瞬間には廊下を覆うほどの極太の光線が、下から上に突き抜けていった。
光線が消えると目の前の廊下は大穴によって分断されていた。穴からは魔王城の下層の構造が垣間見えた。
俺は刀を構え、敵襲に警戒する。第二波、三波の光線が来る気配はない。光線で直接俺を狙わなかったあたり、正確な俺の位置までは把握できていないらしい。
穴を飛び越えるか、それとも穴を下っていくか考えていると、穴の下からモンスターが現れた。
それは、狼のような顔を持った獣人型のモンスターだった。銀の鎧に身を包み、大型の斧を片手で持っていた。
先の光線を放ったのはコイツだろう、さっきまで相手にしていたモンスター共とは別格の強さであることは間違いなさそうだ。
「……人間よ、何故魔王城を襲う?」
獣人に問いかけられた。モンスターに質問されるとは露ほどにも考えていなかったため少し面食らった。だが、モンスターとお喋りをしている時間など無い。
「お前に話すことは何もない。道を開けろ、さもなくば殺す」
「……そうか」
モンスターは短く答えると、手に持った斧を地面に叩きつけた。
「……!」
地面が揺れる。そしてその振動が収まると同時に、先程までモンスターが立っていた場所に巨大なクレーターができていた。
「……!」
モンスターがこちらに突進してくる。そのスピードは尋常ではなく、回避は間に合わないと悟った。
「……ッ!!」
そして次の瞬間には凄まじい衝撃と共に壁に激突した。
「……ぐっ……ぁ……」
血反吐を吐き、その場に倒れ込む。全身が軋むように痛む。
モンスターは斧を大きく振り上げ、俺に止めを刺そうとしていた。
「クソッ!」
俺は地面に向かって風属性の爆発魔法を放った。その爆風により俺の体は吹き飛ばされ、モンスターの致命の一撃を回避した。
「……! まだ動けたか」
「……ゴホッ、ハァ、ハァ」
肺から空気が全て押し出されてしまいそうな感覚。まともに呼吸ができない。
接近戦ではかなり分が悪そうだ。ここからは距離を取って魔法主体で戦うことにした。
「ハァ!」
刀をモンスターに向かって振るう。その軌跡から風属性の刃が発生し、モンスターに向かって飛んで行った。
「……無駄だ」
モンスターは最小限の動きでその攻撃を避けた。そして反撃とばかりに手を前に突き出し、掌から光線を放った。
「……ッ」
なんとか避けようとするが、反応が遅れてしまった。腹をかすめ、服の一部が焼け焦げた。
「クッ」
「……」
無言で距離を詰めてくるモンスター。その動きは非常に素早く、容易に間合いに入ることができない。
(まずいな)
モンスターとの距離を保ちつつ、牽制の意味を込めて何度も風の刃を放つ。だが、そのどれもが決定打にはならない。
やがて、痺れを切らしたのか、モンスターの方から仕掛けてきた。
速い。だがギリギリ目で追える速度だ。
敵の攻撃は単調だ。武器である斧を振り回しながら近づいてくるだけ。
だがその攻撃力は驚異的だ。当たれば即死、掠っても重傷は免れないだろう。
「チィ」
舌打ちをしながら敵の攻撃を紙一重でかわす。
このままではジリ貧だ。何か打開策を考えなくては。
「ハッ」
相手の攻撃を屈んで避けると、そのまま低い姿勢で敵の懐に入り込んだ。
「喰らえ!」
渾身の突きをモンスターの脇腹目掛けて放つ
しかし、その切っ先は虚しく空を切るだけだった。
「なッ!?」
いつの間にか後ろに回り込まれていたようだ。
慌てて後ろを振り返る。
「くッ」
迫り来る重撃を辛うじて受け止める。
しかし、勢いを殺しきれず、身体ごと持っていかれそうになる。踏ん張って堪えるが、体勢が不安定になったところを追撃される。
「ぐあッ」
強烈な蹴りを腹部に受け、後方に吹き飛ぶ。
「グッ……」
何とか立ち上がり、構え直すが、既に満身創痍だ。
しかし、モンスターは容赦なく光線魔法を放つ。
「……!!」
回避は到底間に合わない。咄嵯に障壁を展開するが、威力を殺し切れず、後方の壁を突き破って吹っ飛んだ。
「グゥ……」
身体中が悲鳴を上げている。もう立っているだけで精一杯だ。
「……」
モンスターは無表情のまま、ゆっくりと歩いて近付いてきた。
そして、今にも崩れ落ちそうな俺の首を掴み、持ち上げた。
「……やめ……ろ……」
抵抗するも、力の差があり過ぎてどうすることもできない。
「…もう一度聞いていいか、人間? 何故魔王城を襲う?」
もはや俺の命は奴の手中にあるような状況だ。だというのに、俺を殺さずに最初と同じ質問をしてきた。その意図が理解できなかった。
だが、俺は自然とその質問に答えた。
「……何故かって? 決まってるだろ」
あの子の笑顔が、瞼を閉じれば今でも目の前にあるのに、手を触れられないあの笑顔が、俺の中に溢れかえった。
「娘を、お前らモンスターに殺されたからだぁぁああああああああ!!!!!!!!!」
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