第3話 開幕戦
俺はアリアの体を抱きかかえると後方へジャンプした。人一人を抱えているというのに、自分でも驚くべき跳躍力だ。
ひとまず黒騎士と距離を取ると、穴が開いているアリアの胸にてをかざして治れと念じてみた。するとみるみるうちに傷穴が塞がっていく。魔法みたいだが、どうやら呪文のようなものは必要ないらしい。
「ちょ、ちょっと秋冬、一体なにをして―――」
「アリア、転送を止めてくれ」
「何を言って……まさか…」
俺の言葉の意味を理解したのか、驚いた表情をするアリア。
「ああ、俺があいつを倒して、君を救ってみせるよ」
「む―――」
無理よ、と言いかけたアリアの言葉が詰まる。俺の目を見つめ、少しうつむくと諦観したように小さく首を振り、次に俺の顔を見たときには初めて会った時の得意げな表情になっていた。
「……いいわね、その目。まるで物語の主人公みたいなセリフじゃない。嫌いじゃないわ」
さっきは勝ち目のない戦いだと思えた。
でも、今は負ける気がしない。
この人がそばに居てくれるなら………
俺を包んでいた光が消える。何か意図があるのか、黒騎士は直ぐには襲って来なかった。
そこで、俺も改めてヤツをよく観察してみる。背丈は俺とさほど変わらない。無駄な装飾の一切施されていない漆黒の外装は、騎士の鎧というよりはSFモノに出てくるパワードスーツを想起させる。
反面、獲物であるロングソードはいかにもRPGやアニメで見るような古めかしい中世ヨーロッパ風の見た目をしていた。鈍い銀色の光をたたえるそれは、実際に相対するとその迫力に縮こまりそうになる。
「……アリア、あいつは本当にモンスターなのか?」
ふと疑問に思ったことを口に出してしまった。
「ええ。モンスターの定義は『この世界に害をなすもの』だからね。あれはまさしく世界にとって害悪そのもの。だから討伐対象なの」
「じゃあ、どうして俺達を殺そうとするんだ?」
「それについては私にも分からないわ……。ただ、あの剣が関係しているんじゃないかしら?」
アリアが指差す先にあるのは、黒騎士が手に握っている例のロングソードだ。
「あの剣には強力な呪いがかけられているみたいね。おそらく、持ち主を操り人形にして好き勝手に暴れさせるといった類の物だと思うわ。そう考えると、私達が殺されそうになった理由も分かるわね」
「つまり、黒騎士の中身は既に死んでいると」
「それは分からないけど……。少なくとも、正常な意識のある状態ではないことは言えるわ。あなたが剣を破壊すれば、あるいは中の人間を解放することが出来るかもしれないわ」
「なるほどな……よし」
覚悟を決める。今更後には引けない。
俺は大きく息を吸い込むと、ゆっくりと吐きながら精神を集中させていった。さっきアリアに治癒魔法を使ったときは詠唱は必要なかったが、今度はイメージのためにそれっぽいことを言ってみよう。
『汝の力を我に示せ、我が名はアキト』
俺がそう呟いた瞬間、俺の全身から光の粒子のようなものが溢れ出した。これが魔力というものだろうか?
『そして聖剣をここに』
俺の手の中に、いつの間にか白銀の鞘に収まった細身の長剣が現れていた。長さは1メートル程で、片手でも両手でも使えるようになっている。
「……それが聖剣?」
アリアが興味深そうに俺の手元を覗き込んできた。
「ああ、そうだよ」
俺はそれを握りしめると、一気に引き抜いた。刀身は美しくもどこか禍々しい輝きを放っている。
「さて……行くぞ!」
気合を入れる。そして地面を強く蹴りつけると、一気に黒騎士へと駆け寄った。
一瞬で肉薄すると、勢いそのままに袈裟斬りを放つ。狙いは面でも胴でもない。アリアの話が本当なら、体への攻撃はあまり意味がない。
狙うべきは――
ガキンッ! 金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。俺の攻撃は、黒騎士が振り下ろしたロングソードによって防がれてしまった。しかし、ここで怯むわけにはいかない。俺は鍔迫り合いに持ち込んだまま、黒騎士に話しかけることにした。
「おいお前っ!! 聞こえてるんだろ!?」
「……」
返事はない。だが、その代わりに俺に剣を押し込んでくる力が強まってきた。どうやら俺の声が届いているらしい。
「お前の目的は何だ? 俺を殺すことか?」
再び返答なし。しかし、黒騎士の力は更に増していく。このままでは押し切られてしまうだろう。
俺は舌打ちをしながら、剣の角度を上手く調節し、敵の力を利用しつつ受け流そうとした。
「このっ……!」
苦戦しながらも、何とか成功し、彼我の位地関係がすれ違うようにして入れ替わる。追撃を入れるような事はせず、後方にステップして距離をとる。
「アリア!!」
「……もう、仕方ないわね」
俺の意図を察してくれたのか、アリアはため息混じりにいつの間にか持っていた杖を構えてくれた。そして短く呪文を唱え始めると、俺と黒騎士の周りに淡い光の壁が展開されていく。
「秋冬、準備はいい?」
「おう」
「じゃあ行くわよ――」
アリアが俺に手をかざすと、俺の体が眩く輝いていき、それと同時に身体中に力がみなぎってくる。
「おお……」
自分の体をまじまじと見つめる。なんというパワーだ。
「すごいなこれ」
「当然じゃない。私が作った結界なんだから。でも、あまり長くは保たないから、早く決めなさいよね?」
「分かった。ありがとうな、アリア」
お礼を言いつつ、俺は改めて黒騎士を見据える。ヤツも先ほどまでとは比べものにならない程のプレッシャーを放ち始めていた。
「……そっちがそのつもりなら、こっちだって容赦しないぜ?」
聖剣を中段に構える。剣道なんてやったことはないが、不思議とやり方は頭に浮かんできた。
「はぁあっ!!!」
掛け声と共に地面を蹴って飛び出す。さっきまでは力負けしていたはずの鍔迫り合いだったが、今度は拮抗するどころか少しずつこっちが押し始めた。
「この野郎ぉおっ!!!」
渾身の一撃を振り下ろす。すると遂に、俺の聖剣は黒騎士のロングソードを真っ二つに叩き折ることに成功した。
黒騎士はそのまま地面に膝をつくと、うつ伏せになって倒れ込んだ。そしてしばらくした後、その姿は霧のように消えていった。
後に残ったものはロングソードの破片だけだ。それはまるで、黒騎士の魂が解放された証であるかのように思えた。
「………終わった…のか?」
「ええ、そのようね」
「そうか……。いや~、一時はどうなるかと思ったけど、何とかなってよかったよ」
安堵感からその場に座り込むと、アリアが微笑みながら手を差し出してきた。
「ふふっ、お疲れ様」
「ああ、アリアもありがとな。おかげで助かったよ」
差し出された手を取って立ち上がる。
「……ねえ、秋冬」
「ん? 何だ?」
「あの剣の呪いは解けたと思うんだけど、念のためステータスを確認してみた方がいいわよ?」
「ステータス?」
そういえば、黒騎士を倒したときに何か変なものが表示されていた気がする。あれのことだろうか? 試しに心の中でステータスオープンと言ってみると、目の前に見慣れぬ画面が現れた。
==
名前:アキト・ツキダテ
種族:人族 年齢:15歳
レベル:1/100
体力:50/50
魔力:50/50
攻撃力:25
防御力:20
魔法力:45
素早さ:30
耐性 :60 特殊スキル 【全属性適性】
固有技能 【鑑定】
【アイテムボックス】
称号 【勇者】
【聖剣に選ばれし者】
装備
『聖剣エクスカリバー』
状態異常:なし 【呪われし者おめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとととととととととととととととととととととととととととととととととtttttttttttttttttttttttttttttttttttt縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク縺ァ縺吶€・縺薙・繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧・ァ倥∈縺ョ繝。繝・そ繝シ繧ク縺ァ縺吶€・
==
は??? なんだよこれ?
開いた瞬間はそのまんまRPGのステータス画面みたいで思わず吹き出しそうになったが、画面の下の方に訳の分からない文字の羅列が並んでいる。
本能的に恐怖を覚え、アリアに尋ねる。
「なあアリア、これって一体―――」
「イヤッハーーー!! 数百年ぶりに面白いものを見せてもらったよォ!!! 実に愉快だねェ!」
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