第17話 魔王
初めて見た。
無敵と思っていたアリシアの剣が防がれている。
これが魔王なのか。
「剣の腕は鈍ってないみたいだね!」
一旦距離を取り剣を構える彼女。
「そういうお前は少々鈍ったか?」
「2000年も死んでいたからね、仕方ないよねー」
今度は魔王の剣が迫る。
もはや目で捉えることができないそれは、耳にだけ不快な音を響かせる。
それでも流石は勇者、全てを剣で防いでいるようだ。
『なぁ、今死んでるとか言わなかったか?』
『確かにそう言ってた』
『アリシア様かわいいー!』
『じゃああれって本物の勇者アリシアってことじゃないか?』
コメント欄が目の端に映る。
そうだ、今まで隠してきたがアリシアは2000年前に存在した勇者。
すでに肉体は朽ち果て、その正体はただの白骨だ。
ついに連撃が止みアリシアが魔王を弾き返す。
「あの時仕留め損なったがやはりすぐに死んだか、じきそちらの世界も我が手に堕ちる。お前の最期のあがきも虚しくな」
「させないって。救えなかった――いえ救っちゃいけなかった命もあるけど、これは渡さない」
アリシアと魔王の剣が激しく交錯する。
魔王の狙いは俺たちの世界ということか?
ならこのダンジョンゲートは……。
「お前さえ完全に殺せていればあの時世界は俺のものだったんだ!」
「もう諦めなよ、君に世界を統べる力はないよ。この世界が物語っているでしょ」
けたたましい金属音が響き渡る中、不思議と2人の会話が聞こえてくる。
「君の味方も全て感情を失った魔物に成り果ててしまったんだよ。君の創りたかった世界はこんな暗い世界なの?」
「これもそれもお前が邪魔をしたからだ、死ね! 死に損ないが!」
「だから、死んでるんだよ!」
ついに魔王の振り下ろした剣がアリシアによって弾き飛ばされる。
そのまま彼女は魔王の胸に剣を突き刺した。
『アリシア様が勝った!』
『流石すぎる!』
『いやぁ、痺れる戦いだったな。ほとんど見えなかったけど』
「ガハッ!」
剣が抜かれ、膝が崩れ落ちる魔王。
それを静かに彼女は見下ろしている。
「ハァ、ハァ……なあアリシア、俺を救ったこと……後悔しているか?」
「そうだね、君は救うべきではなかった。今となってはもうどうしようもないけどね」
「フッ、ざまあみろだ」
そう言い残し彼は力無くうつ伏せに倒れた。
その体にまた彼女は聖剣を突き立て、トドメをさす。
「さて、終わったねー。後はみんなに報告があります!」
彼女が戻ってくるやいなや、先程の緊迫した戦いがなかったかのように明るく言い放つ。
『なんだろ?』
『wktk』
『期待!』
『アリシア様かわいー!』
みんなの期待でコメントが高速で流れていく。
「ダンジョン、封鎖しちゃいます!」
「――えっ?」
いきなりの発言に俺も固まり、あれだけ騒がしかったコメントも一瞬止まってしまった。
『どういうこと?』
『え? それはやばいって』
『何言ってるんだ急に』
『アリシア様かわいいー』
『ダンジョン無くなるとか困る』
彼女が言うならダンジョンを封鎖することができるんだろう。
だけどそれは困る。
冒険者、いや、今や世界のほぼ全員がダンジョンの物資ありきの生活をしているのだ。
もちろんこの写映機や再生機もそう、動力源には魔結晶がつかわれている。
だから一重に封鎖と言われてもそうですかとはならないのだ。
「みんな困惑してるけどさ、この世界と繋がってしまったのがそもそもあってはならないことなんだよ」
そういう彼女、確かにそれは否定できない。
200年前に突然現れたダンジョンゲート、それは完全に異物である?
「だってさ、みんながいる世界はこの世界を写して切り離したものなんだからねー」
『どういうこと?』
『意味がわからない』
『それってつまり……』
――それはつまりこのダンジョンの世界が本当の世界ということなのか。
追放された死霊術師、最強女勇者(死霊)と契約しダンジョン配信で神バズりする。元のパーティはそれに嫉妬して配信を始めるも散々みたいです 茶部義晴 @tyabu
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