第15話 いざ未到の領域へ
「えー、ここはレベル7ダンジョン、通称【覇者の剣】です。まだ最奥まで誰も辿り着けていないこのダンジョンに我々が挑み、みなさんにその映像をお届けします」
俺は覇者の剣のダンジョンゲート前で
ダンジョンゲートとそれに向かう相棒のアリシアを画角に収め、その映像を世界に発信している。
始まったところなのにすでに視聴者は200万人を数えていた。
『まじかよ、覇者の剣はいくらアリシア様でも無理じゃないか?』
『アリシア様頑張れ!』
『まじ期待!』
写映機の上に表示された配信ウインドウに数々のコメントが秒速で流れていく。
迷いの森の後も俺達はいくつかのレベル6ダンジョンを回り、その中の様子やアリシアの戦いを配信し続けていた。
そして気づけば登録者数は世界一になっており、彼女は当然今一番強いのではと囁かれ、どこにいても声をかけられるようになった。
それは撮影者の俺にも言え、こんな地味なのにサインまで求められるようになっている。
一方クリムゾンアイのメンバーはあの配信の影響か、喧嘩別れしてすぐに散り散りになったようだ。
それから個人がどうなったのかまではわからないけれど、あれだけ酷く晒されたのだから中々険しい道になるのだろう。
「そんじゃ、いってきまーす!」
相変わらず高レベルダンジョンに挑むというのに緊張感が感じられない声を残し、アリシアはゲートを潜る。
俺もその後を追いゲートに侵入した。
ゲートを潜った先に見えてきたのは、名前の通り幾本にもなる剣が地面に突き刺さった光景。
夕暮れ時なのか茜色の空に照らされ、剣先がキラリと反射する。
山であるのか、急な登り坂になっている。
『これが覇者の剣か、めっちゃかっこいいじゃん』
『えー、不気味』
『どんな魔物がでるんだ?』
観ている人の殆どが足を踏み入れた事がないであろう光景にコメントが盛り上がる。
なぜならここは中がどうなっているか、わかっているのは入り口の光景のみ。
数々の冒険者が挑み、入り口で引き返すか中に踏み入れ命を落とした。
「ここはレッドクラウンだねー。かつて人間と魔物の戦争の舞台になって人間側がみーんな死んだの。だからこんなに剣が残されてるんだよー」
写映機に向かい物騒なことを淡々と笑顔で解説するアリシア。
彼女が言うにはダンジョンは俺たちの世界にあるどこかの場所と同じらしい。
レッドクラウンという地名に心当たりはないが、きっと世界のどこかに対応する所があるのだろう。
『まじ? やべーとこじゃん』
『なんでそんなに詳しいの?』
『嘘乙、咄嗟に作ったんだろ』
『アリシア様かわいー!』
そのような物騒なダンジョンを緊張感なく変わらぬ足取りで進んでいく。
「あらデュラハンが出てきたね」
デュラハン、首無し騎士とも言われる魔物で全身鎧の胴体と頭が分離しており、頭部を腕で抱えている黒い馬に乗った騎士の姿をしている。
頭部からは怪しい光を発生しており、黒光りする鎧と合わさり不気味さが増す。
『いきなり高レベルの魔物じゃん、流石レベル7やべー』
『アリシア様がんばって!』
『アリシア様ならいけるよ!』
『アリシア様かわいー!』
コメント欄も魔物が出てきて応援のメッセージが飛び交う。
デュラハン自体は過去にも登場しているが、それでもレベル6ダンジョンの奥で見られることがある魔物。
強い敵には変わりはない、変わりはないんだけれど……。
「じゃあ、やりますか」
腰から剣を抜き敵に向かって行くアリシア。
表情には余裕がみえ、その動きは蝶の様に軽やかだ。
「えー、皆さま。以前見ていただいた方は知っていると思いますがデュラハンの弱点は水です。なのでアリシアは剣に水を纏わせています」
水を纏いし剣を振るうとデュラハンは苦しそうに馬から落ちる、すかさず首に剣を突き立てその妖しく光っていたものが消えた。
『すげー! 余裕じゃん!』
『アリシア様素敵!』
『は? 合成だろ、こんなん信じれるかよ』
『↑新参の馬鹿? 今までの配信見てこいよ』
鮮やか、そう言わざるおえない。
世界屈指と呼ばれる人でも複数人で討伐できるかどうかという魔物を瞬殺した、コメントも大盛況だ。
とは言えデュラハンはこれまでも倒してきた魔物、俺にとっては見慣れた光景なのだ。
♢
坂を登り切ると城の前にきた。
寂れた大きな城は今にも崩れそうなほどひび割れが多く、不気味な雰囲気をだしている。
ここまでくるともう未開の領域。
この城の存在も誰も知らないものだ。
「みんなー、この城知ってるかな?」
『知らないです!』
『なんですか? 怖い城ですね』
アリシアの呼びかけにコメントで返す者がいるが、当然誰も知る者はいない。
「これはねー、ミネア城だよ。みんな知ってるでしょ?」
『え? これが? 信じられない』
『流石に嘘だろ』
『いやでも、形は似ている気がする』
皆が衝撃を受けている、もちろん俺もだ。
何故ならミネア城は俺たちの世界にもある有名な城であるからだ。
「まあ、中に入ってみよっか」
そう言って先に進む彼女の後ろを追いかけた。
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