第14話 説教する勇者
体格のわりに素早く動き、剛腕で攻撃してくるがアリシアはいとも容易くそれを回避する。
本当に重力が存在しないかの様な動き、まるで未来が見えているようだ。
『さすがアリシア様!』
『これは人間なのか?』
『あれ、実はあの魔物が弱かったりするのでは?』
『じゃあやられた奴らはなんなんだよ笑』
コメントにもあるように、アリシアがまだ攻撃を全くしていない中でも本当に魔物側が弱く見える程圧倒的に差がある様に見える。
いやレベル6ダンジョンの魔物、ドレッド達が一方的ににやられているんだ、弱いということは絶対にないのだけど。
しかし、なんで攻撃しないのだろう。
あの調子じゃすぐに倒せそうなものだけど。
と思った瞬間に勝負は決した。
胸部への一突き、ただその一撃で決まってしまった。
『すげー!』
『お見事!』
『アリシア様ー!!』
『一撃かよ、やべーな』
凄すぎて俺もつい見惚れてしまった。
「おーいリアン」
こっちこっちと手で誘うアリシアになんだろと近づく。
「この子契約しちゃいなよー! 強いよー!」
なんとこのキングライオンを死霊契約しろとの事だ。
確かにこれと契約すればかなりの戦力になりそう……そうか、それで損傷を最低限に。
「ありがとう、やってみるよ」
まだ霊魂は残っている、あとはこの魔物の意思だけど。
指を齧り血を出す、それをキングライオンにつけて契約を望む。
するとそれを中心に地面から魔法陣が浮き上がり紫色の卑しく眩しい光を放つ。
よし、契約できた。
死霊となり復活したキングライオンが目を開け咆哮する。
『まじかよ、配信者あれと契約しちゃったぞ』
『これはアリシアだけじゃなくあいつもやばい存在になるぞ』
『全てアリシア様のおかげだけどね笑』
「良かったねーリアン!」
「うん、ありがとう」
これで俺も足を引っ張らずに済むかもしれない。
全部アリシアにおんぶにだっこだけど、それでも強くなったんだ。
「この人達はどうするのー?」
アリシアが指差した先にはドレッド達、痛々しい姿に正直ざまあみろと思ってしまうけれど……。
「回復してあげて」
「全く、リアンはお人好しだねー」
そう言いながら彼らに向かっていき《ヒール》をかけていく。
賢者のミーシャはその魔法の凄さに目を丸めているが、全員すぐに傷が治った。
♢
『なになに? 公開処刑?』
『やべー、まじうける笑』
なんか俺たちの前にみんなが正座させられてるんだけど。
「さて、君たち。彼に言うことはー?」
「ありが、とう……」
アイナからボソボソと感謝の言葉が出たが、顔はみな俺を避けている。
「キングライオンちゃん!」
アリシアの言葉に隣にいるキングライオンが雄叫びをあげる。
凄まじい方向にみながビクッとなり、戦った彼らは怖いのか震えだす。
「ありがとうリアン、助かった」
ドレッドから苦しそうな顔で感謝される。
それにつられて他のメンバーからも感謝の言葉が発せられる。
「でさ、君たち彼に気持ち悪いとか言ってたみたいじゃん? そんな彼に助けられて恥ずかしくないの? 恥ずかしいよねー」
アイナとミーシャはまた気まずそうに顔を背けた。
ちょっと言いすぎなような気がする、倒したのはアリシアだし。
しかし勇者の圧だろうか、言葉を挟めない。
「ちゃんと顔あげなよ! 人の話は目を見て聞くものなんだよ!」
「すみません」
「ごめん、なさい」
2人の謝罪に満足げに頷くアリシア。
「雑魚とか言ったのは君かなー? どう、戦ってみる? あのキングライオンが相手だけど」
「い、いや……」
ロアも気まずそうに答える。
てかアリシアの口調が怖い、なんか妙な笑顔だし。
「はっきりいいなよ!」
アリシアの強い言葉にキングライオンが呼応して彼らに咆哮を浴びせる。
「……勝てない。すまない」
先の戦いで力の差を思い知ったのだろう。
あの時は確かに戦力的には雑魚だったから言われても仕方なかったのだけれど、この一瞬で立場が逆転してしまった。
「あと、リーダーの君! ちゃんとその人の能力を見てあげること。死霊術師が弱かったのもあなた達がちゃんと契約をさせなかったせいだよ! あと斥候の大切さもわかったでしょ、みんなを生かすも殺すも君にかかってるんだからしっかりしなよ!」
「すみません、本当に悪かった。ありがとう」
普段あんな感じだけどアリシアの言葉は的確だ。
「あと君たちこれ、世界に公開されてるからねー。今何人見てるんだっけ?」
「えーっと……え? 50万人!?」
思わず大きな声が出てしまった。
いつの間にそんなに人が増えたんだ?
そしてそれを聞いたみんなはめちゃくちゃ恥ずかしそうに下を向いてしまう。
そりゃ50万人の前でこんな顔見られたくないだろう。
ミーシャに至っては泣き出してしまった。
「じゃあ、もうこれからは立場わきまえて行動してねー! じゃ、解散解散!」
手をパンパンと叩き終わりの合図をすると立ち上がってトボトボと歩き出す。
その姿を見たからかまたキングライオンが咆哮すると、ビクッとして走っていってしまった。
『ウケる笑』
『何あれだせー笑』
地図は書いて渡してあげたけど大丈夫だろうか、道中の魔物にやられないか不安だ。
「心配なのー? 酷い扱いされてたのに」
「あぁ、うん、まあ」
「死んだらそれはもうその人の責任なんだよ、なんでも助ければいいってものでもないからね!」
アリシアの言葉は謎の説得感があり、これが勇者をやってきた経験なのかなと思った。
「で、スッキリした?」
アリシアが笑顔で聞いてくる。
その言葉に俺は笑顔で「うん」と頷いた。
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