第12話 迷いの森にて
「じゃあ回すぞ」
ドレッドが迷いの森入り口で写映機を構える。
前にはもちろんパーティメンバーの3人。
「えぇ、やりましょ!」
ミーシャの掛け声で配信が始まる。
「やっほー! みんな初めましてミーシャだよ! 今日はねーなんとレベル6ダンジョン、迷いの森を攻略していくよー!」
レベル6ダンジョン、中々配信に上がらない高難易度ダンジョンとあり、初配信にも関わらず続々と視聴者が集まってくる。
『初配信でレベル6ダンジョンかよ』
『ミーシャちゃんかわゆす、推せるかも』
「ミーシャ、可愛いって言われてるぞ」
コメントを見てドレッドが教える。
「えー、そんな事ないよー。でもありがとね!」
ぶりっ子しながら投げキッスで答えるミーシャに先程のコメント主は『萌ゆるー!』と投げ銭コメントを投稿した。
「早速の投げ銭ありがとう! じゃあ元気にいくぞ!」
ドレッドの掛け声でダンジョン攻略が始まった。
「どっちに進むんだ?」
しばらくすると前に3本の分かれ道が見えた。
迷いの森の所以である分かれ道の多いダンジョン、きちんと計画をして進まないといけない。
「右の道に行きましょ! 他は解明つくされてるわ」
『まじか、未知のとこ見せてくれる気だ』
『これは期待』
目立つために未知の部分が残る右の道を選び進む。
♢
「くそ! 不意を突かれた」
しばらくすると魔物と遭遇、大きな牙と素早い動きが特徴の四足歩行の獣。
口を開かなければ可愛い顔をしているため人気があるが、そこはレベル6ダンジョンに住む魔物、一旦牙を見せると恐ろしい。
その魔物に気付けば囲まれていた。
前には2体、後ろには4体の計6体だ。
『サーベルたんきたー!』
『初戦闘期待!』
「なんで気づかなかったのよ」
「仕方ないだろ、気配を消してやがったんだよ」
以前ならリアンが死霊を斥候としてしっかり調査していたため、このような事はならなかった。
この状態になれていないメンバーの額に汗が滴る。
「流石に分が悪い、薄い前を突破して先に進むぞ」
囲われ中心に集まる一同はドレッドの言葉に頷く。
写映機は戦闘能力の低いミーシャに渡された。
「《サンドウォール》」
アイナの魔法により土の障壁が後ろに展開される。
それを合図にドレッドとロアが剣を構え、前のサーベルミャーに飛びかかる。
「なっ、速い!」
しかし2人とも攻撃を躱され、逆に体当たりの反撃を受ける。
なんとか剣で防ぐが、予想以上の速さと威力に驚くドレッド。
「早く! 壁があまり持たないわ」
アイナの声に焦るがその後も攻撃が当たる事なく、逆に鋭く大きな牙が迫る。
「――!?」
鈍い音と共にドレッドの剣が折れる。
「ダメだ逃げるぞ、走れ!」
「《サンドウォール》!」
ドレッドの掛け声に逃げる事を選択する一同、走り、アイナが障壁をうまく展開する。
『えー、逃げるとか笑」
『いや、奥に逃げるとか愚行だろ』
『なんでこのダンジョンに挑む事決めたんだ?』
『てか、まずくない? 誰か助けに行ってあげたほうが』
『じゃあお前がいけよ』
『いや、アリシアのチャンネルでも今このダンジョン配信やってるぞ』
『じゃあそっちいこ、ついでに助け求めといてやるよ』
この光景を見ていた視聴者からコメントが辛辣な流れる。
もはやカメラワークもなくぶれた映像に期待とは違う展開、視聴者は少しずつ減っていっていったが、一同は見る余裕もない。
「次はどっち?」
「もう覚えてないわ!」
「とりあえず進むぞ、ついてこい!」
全力失踪で分かれ道をとりあえず勘で進んで行き、なんとかサーベルミャーを撒く事に成功した。
「ハァ、ハァ、なんでこんな事に……」
周りに危険がなくなり、立ち止まって呼吸を整える。
一同には後悔が出始めていた。
「だから、いきなりレベル6ダンジョンなんて……ダメだって言ったのよ」
「仕方、ないじゃない……目立つダメなんだから」
「これじゃ悪目立ちよ……」
「何! 私が悪いって言うの!?」
アイナの言葉にミーシャが声を荒げる。
「落ち着け、今争っていても仕方ない」
「てかあんた強いとか言う割にやられそうだったじゃない、どういうこと?」
「冷静に対処しておけばあんなことには……」
「全く、みんな期待はずれだわ!」
「お前いい加減にしろよ!」
ミーシャの逆ギレにも似た怒りにドレッドが怒鳴る。
『仲間割れかよダッサ』
『見てらんないな』
もはや地面を映し、音だけが聞こえる映像にコメントが虚しく流れていた。
「え、な、何?」
そんな時、前方から足音が聞こえてきた。
「くそ、こんな時にまた魔物かよ……」
「もう、走れないわよ……」
そしてその音が近づき、遂に姿を現す。
「なんだよコイツは」
「見た事ない魔物だ」
逞しく太い手足を持つ人間よりも大きな金色の獣、立派なたてがみを持ちより大きさを際立たせる。
鋭い目つきに口を閉じていても露わになっている2本の鋭い牙。
「まじかよ……」
見たことのない魔物だが、その威圧感だけでその場にいる全員は悟った。
――勝てないと。
★⭐︎
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