第10話 拡散する女勇者

「ゴーレムはねえ、硬いけど明確な弱点があるんだよー」


 あの巨体を前にして余裕の表情で語る彼女。


『弱点?』


『あのデカブツの弱点か、魔法とか?』


『でも剣を構えてるぞ、あんなやつに刃が通るのか?』


 そんなコメントを他所にアリシアは剣を携え走り出す。

 そしてゴーレムに向かって跳び――奴の右足の膝関節に値する部位を切り裂いた。


『え? 斬ったの?』


『まじかよ、てかもしかして弱点てあれ?』


『いやいや、弱点かもしれんが岩だろ? 剣が通るかよ普通』


 その光景にコメントは困惑を隠せない、いや俺も困惑する。

 何故なら前のパーティメンバーはこのゴーレムを倒すのにとても苦労したからだ。

 硬い体は攻撃を通しにくく、巨体から放たれる攻撃は遅くても威力が即死級だ。


 そんな相手を一手で崩し、そして崩れて低くなった首関節を最も簡単に刎ねる。

 こんなのは弱点だろうがアリシアにしかできないだろう。

 俺は流れるコメントと共に唖然としていた。


「ほら、ボサっとしてないでー! これいるんでしょ?」


 戻って渡されるのはゴーレムから採れた魔結晶、大きなそれは中々に重さもある。


「あ、うん、ありがとう」


 写映機で手が塞がっているので一旦地面に置いてもらう。


「《ブー》」


 力のあるブーを呼び出し袋にいれた魔結晶を背負ってもらう。

 

「じゃあいこー! ボビ砂漠なら丁度良かったよ」


「え? 何が?」


「とっておきのがあるはずなんだー」


 そう言って笑顔で前を進んでいくアリシア。

 とっておき? なんだろう。

 気になりながら彼女の背中を追った。


 ♢


「ここは?」


「ヘロベニ王の遺跡だよ」


 歩くこと1時間ぐらいか、ある遺跡の前に来た。

 岩を積み上げた三角形の高い遺跡、その中でも1番高いこれをヘロベニ王の遺跡と彼女は呼んだ。


『ヘロベニ王って誰だ?』


『ここがボビ砂漠なら1番高い遺跡はヘカテ王の遺跡じゃないの?』


 確かにコメントのいう通り1番高い遺跡はヘカテ王の物とされている、ヘロベニ王なんてのは聞いたことがない。


「そうなんだ、まあどっちでもいいんだけどね! じゃあ遺跡探索に行こうか!」


 そう言って遺跡へと足を踏み入れた。


「あ遺跡にはマミーなどの魔物が集団で襲ってくることがあるので、い行く際は注意してください」


 遺跡で遭遇するのは、主に包帯人間と言われるゾンビの魔物マミー。

 ゴーレムに比べれば弱いが、場所によって固まって出てくる場合があるので危険だ。

 前のパーティはマミーの集団に襲われて撤退した。


 だけど、まあ……。


「うん、順調順調!」


 アリシアにとってはこの10を上回る数も問題ないらしい。


『やべぇ』


『あの数を一人で捌きやがった』


『本当何者なんだよ!』


『アリシア様と呼ばせて頂きます』


 薄暗い道を進み、小部屋などでは魔物と遭遇する。

 しかし簡単に突破し、どんどんと奥に進んでいく。


「これはミミックだねー、えい!」


 宝箱に扮し、宝が入っていると期待して開けた人間を襲う魔物ミミックも開ける前に看破して倒す。


『なんで分かったの?』


『すげぇ』


『何回もきて下調べしたんじゃね?』


 ミミックの擬態能力はすごく、見破るのは簡単ではない。

 それを簡単に見破る彼女はやはりここに来たことがあるんだろう。

 そしてコメントも段々増えていっており、視聴者数はいつの間にか1000を超えていた。


「さて、着いたよ」


「着いたって、ただの廊下だけど」


 彼女が言うも見た目は他と変わらない、狭く岩で囲われた道。

 ここに何があるというのだろうか。


「ここを、こう!」


「え?」


 彼女が岩の壁の1部分を押すとその部分が凹み、ゴゴゴと扉が開いていく。

 隠し部屋、こんなところにそんな場所があったんだ……。


『なになに?』


『隠し部屋かよ』


『新たな発見じゃね?』


『やべえ、本気でやべえ』


 凄いコメントの量が流れていく、確かにもしかすると誰も知らない部屋かもしれない、大発見だ。


 中に入ると火の明かりが灯り、その部屋の正体が露わになる。

 金でできた壁に奥には手がつけられていない宝箱がずらり、そして部屋の横両脇には人の2倍はあるであろう大きな猫の顔をした手に剣を持つ人型の石像。


 荒らされた形跡のないこの部屋は本当に未発見の物らしい、柄にもなく興奮してきた。


「良かった、あったあった!」


 奥にある宝箱に向かいアリシアは喜びの声をあげる。

 一体何があるというんだろうかと思っていると、彼女は宝箱からとある剣を取り出した。


『なになに? 剣?』


『凄い剣なのか?』


「あっ、ごめんそこ危ないよ」


 アリシアの声に「え?」となると同時に俺を影が覆う。


「ウワッ!」


 慌てて避けるとそこに岩の剣が打ちつけられた。

 両脇にあった石像だ。

 これは多分宝箱と連動して作動する罠、危うく死ぬところだった。


「ごめんねー! よいしょっと!」


 新たな剣を持ち石像を紙のごとく斬り裂くアリシア、もはやめちゃくちゃだ。

 一瞬で崩れた石像を見て安堵と先程の恐怖で心臓が高鳴り息が荒くなる。


『え? ちょっとどうなったの?』


『撮影者しっかり映せよ』


『アリシア様の活躍見れねーじゃん』


「あっ……すみません……」


 明後日を向いた写映機を再びアリシアに向ける。

 砂埃がまだ舞う中凛と立つ彼女、手には先程手に入れた剣がキラリと輝きをみせる。


『あの剣はなんですか?』


「アリシア、その剣は?」


「ああ、これ? 聖剣エクスカリバーだよ、私が隠したの!」


『聖剣? そんな凄いのが!?』


『隠したって何だよ笑』


『かっこよすぎる!』


『ぱねぇ笑』


 聖剣エクスカリバー、聞いたことがないけどアリシアが勇者だった時に使っていた剣なのかな?


 その後剣を手に入れ満足した彼女は「今日はここまでかな」とダンジョン探索をやめ、コメント欄は困惑を見せるが概ね大好評で2回目の配信を終えた。

 帰って登録者を見て俺達は驚く、そこには1万という文字が書かれていた。

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