第9話 懐かしさを覚える女勇者

「プハーッ! 運動後のお酒は最高だねー!」


「そうだね、というかめちゃくちゃ飲むね」


 好評だった初配信を終えた俺たちは打ち上げにきていた。


 死霊といえば別に飲み食いしなくても生きていられるが、やはり人間の欲で言うと食べたいし飲みたいらしい。

 今度ポチ達にも何か食べ物をあげたほうがいいかなとアリシアの姿をみていて思う。


 だがこれで何杯目なのだろうか、テーブルの上にはいっぱいのジョッキ。


「いやー、死霊って酔わないんだねー! なんぼでも逝けちゃうよ! 死霊だけに」


「……あ、あぁ、逝かないでよ!」


「なんか恥ずかしいんだけど」


 いや、今のは理解するの難しいだろう。


 陽気な彼女だがお酒に酔ってはないらしく、白い肌は赤みをおびることはない。

 まあこれは特殊な力で姿を保っているだけかもしれないが。


「でもたった40人かー! もっとバンバン! って観てくれるもんだと思ってたのに」


「いや、凄いと思うよ。ほらコメントにも――ってあれ?」


 好評だった証拠にコメントを見せようと、写映機を取り出しウインドウを確認する。

 そしてコメントよりも先に登録者数に目がいってしまった、そこには250という数字が刻まれている。


「どうしたのー?」


「いや、なんか登録者が250人に増えてて……」


「えっ? まじまじ? なんで?」


「いや、わからないけど」


 配信終了時には40人だったはずなのに、なんで増えたんだろう。

 まあ増える分には構わないか。


「んで、次はどうする? もっと上のレベルでいいよね!」


「あ、ああ、そうだね」


 確かにあの実力じゃあもっと上になっても余裕だろう。

 あとはやっぱり自分の身を自分で守れるかだけだけど、幸い先のダンジョンでリザードマンを一体死霊契約したからある程度はいけるか?


「よし! じゃあ明日もがんばろー!」


「え、明日?」


「うん、善は急げって言うでしょー!」


 もうちょっと休みたいんだけどと言いたいが、この笑顔を見ると言えないよな。

 よし、じゃあダンジョンのリサーチして備えよう。


 ♢


「今日はここなのね!」


「うん。レベル5ダンジョン、通称【太古の遺跡】。主にゴーレムが出るダンジョンだけど大丈夫?」


 ルミナスから1番近いレベル5ダンジョンのゲート前にくる。

 乾燥地帯にあるそのゲートの中は砂漠につながっている。

 いくつかの遺跡があり、まだ探索されつくしていないものもあるらしい。

 

 俺も前のパーティの時に来たことがあるけれど、岩で構成された硬い体をもつ敵にみんな苦労した。


「まぁ、ゴーレムぐらい余裕余裕!」


「凄い自信だね」


 やっぱり昔戦ったことがあるんだろうか、その体のどこにゴーレムにダメージを与える力があるのかわからない。


「それじゃあ配信するよ」


「うん、よろしくね!」


 写映機を取り出し、配信を開始する。

 入ってくる人いるかな、と思っていたらすぐに視聴者数が増える。


『今日も配信あるんだ?』


『再生機回してて良かった!』


 すごい、やはり前の配信の影響だろうか。


「えー、わ、私たたち、私たちアリシアと死霊達チャンネルは今レベル5ダンジョンの太古の遺跡に来ていまちゅ!」


 ふー、少し噛んで声もうわずったけどちゃんと言えた。

 小さな成長だろう。


「じゃあ行くよー!」


 配信が始まったことを察知したアリシアは拳をあげてゲートを潜っていく。

 俺ももちろんその後に続いた。


『昨日レベル4だったのにもうレベル5ダンジョンか』


『いや、昨日の見てたら当然だろ? レベル6でもいけるんじゃね?』


『いやいや、流石にソロでレベル6は無理だろ笑』


 みんな昨日のアリシアの戦いを観ているので期待値が上がっているな。

 でも確かにレベル6でもいけるのではと期待感はある、俺自身は踏み込んだことはないけれど、きっと勇者ならばいけるはずだ。


「うーん、ここはボビ砂漠だねー」


「ボビ砂漠?」


「あー、うん。知らない? 砂漠都市サハランドの王のお墓がいっぱいあるところ」


「知ってるけど、ここがそのボビ砂漠なの?」


 確かに似ている、似ているが俺たちの世界にある場所がなんでダンジョンに?

 ダンジョンは魔界に繋がっているんじゃないのか。


「たぶんねー、でも懐かしいなー」


『アリシアさんこのダンジョン初めてじゃないんだ』


『なんだ、初見の方がハラハラドキドキするのに』


『でも懐かしいって何歳でレベル5ダンジョンにきてるんだよ笑』


『流石新らしいスター候補!』


『てか本当にボビ砂漠なん?』


 コメント欄も少しの困惑を見せている。

 しかし、2000年前の勇者であった彼女が言うならそうなのかもしれない。


「あっ、きたよー! ゴーレム!!」


『え? どれどれ?』


『みえねー』


 ゆらめく巨体が遠くから近づいてくるのがわかる、間違いない、彼女の言う通りゴーレムだ。


 だんだんと近づいてくるにつれてその姿がはっきりとしてきた。

 あれだけ小さかった物が今や身長を遥かに超える高さになっている。


「み皆様にももう見えましたかね。ゴ、ゴーレムら茶色い岩の四角形のパーツで人型を形造っていて、その重さは数100トンと言われているキョ巨大な魔物です」


『デケー!』


『あんなん倒せるのか?』


『いや、アリシアさんならいけるでしょ』


 ゴーレムが出たことでコメント欄も一層賑わいを増す。

 どこからきたのか、この時点ですでに視聴者数は登録者を超える500人に達していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る