第8話 初配信で無双してしまう女勇者

 あれから俺たちはまた都市ルミナスに戻った。

 ゴブリンキングから採った大きな魔結晶だけ貰い、残りのゴブリンやコボルトから採れた多くの魔結晶は村人のみんなの再出発のために渡した。


 村人の多くは犠牲になった村長達を埋葬した後に散り散りになり、ユリさん親子も違う村へいくとの事だった。


 大きな魔結晶はそれだけ大金になる、これだけの大きさならば半年は暮らしていけるだろう。

 都市で小さな部屋を借りてまた再出発しよう。


「ねえねえ! 早く配信しよーよ!」


 この女勇者の死霊と共に。


「ちょ、ちょっと待って。どのダンジョンがいいか探しているから」


 清楚な白い服を着たアリシアはもう普通の美少女だ、誰も死霊とは思うまい。

 ジョンさん達の写映機の血を拭き、申し訳ないが拝借した。

 この写映機を使いチャンネルを開設、その名も【アリシアと死霊達チャンネル】。


 なんとも不気味な名前の気がするが、彼女のアイデアだから仕方がない。

 最初は【勇者アリシアチャンネル】だったんだがそれは批判を浴びそうだから却下した。


「強いとこいこうよ、とびっきり」


「強いとこ、ね……」


 正直アリシアならレベル5、いやレベル6のダンジョンでも大丈夫な気がするけれど、俺の強さが足りない。

 前みたいに強い人が何人かいるパーティなら可能だけど、今は複数で襲われたら俺の穴が大きい。

 しかも撮影までしないといけないから余計に勝手がわからない。


「このレベル4のダンジョンにしようか」


「レベル4? それは強いのー?」


「まあ、最初だしお試しで」


「えー、つまんないのー!」


 あまり強くないと察すると嫌な顔をする。

 おそらく強い=人気になるという図式ができているんだと思われる。


「そんなこと言うと配信やらないよ」


「それは困る」


 と言うことで渋々納得してもらう。

 今から向かうのはルミナスの近くの草原地帯に出来たレベル4ダンジョン、通称【リザードマンの森】。

 名前の通り龍人とも呼ばれる爬虫類の顔をもつ人型の魔物、リザードマンが多数巣食う森のダンジョンだ。


 ♢


「それじゃあ、レッツ、ゴー!」


「ちょっ、待って!」


 ダンジョンゲートに着くや否やすぐにゲートを潜ってしまったアリシアを追う。

 

ゲートを潜ると、一面木々に覆われた森林地帯にでる。

 慌てて写映機を構え、現れたウインドウから配信モードに切り替える。

 【アリシアと死霊達チャンネル】の初配信がスタートされた。


 よし、今日のためにあれから人気チャンネルを見続けたんだ、頑張って真似をしよう。


「えええ、えーと、わ、わたし、私達は……」


 ダメだ全然喋れない。

 でもチャンネルを今見てる人もいないし、そこは助かった。


「ちょっと、しっかりしてよー! リラックス、リラックス!」


「う、うん」


 アリシアが肩の力を抜いてとジェスチャーしてくれる。

 よし、一つ大きく深呼吸して、と。


「えー、初めまして。私達はアリシアと死霊達チャンネルです。今はルミナスの近くにあるリザードマンの森に――」


 ここで視聴者の数が1と表示される。

 つまり配信に1人来てくれたんだ。


「ききききて、いましゅ……」


 ダメだ観られているとわかると急に緊張してうまく喋れないし声が上ずってしまう。

 そしてそれがダメだったのか視聴者がまた0になってしまった。


「はぁ……」


「無理に喋らなくていいんじゃないー? とりあえずリザードマンと戦うところを映してよ」


 なんか優しいのは優しいんだよな、アリシアは。

 ちょっとズレてるところが多いけど。


 ダンジョンを進み、森の中にある沼地が見えてきた。

 木の隙間からはすでにリザードマンが何体も居るのがわかる。

 人間の様に鉄の防具と剣を携え、周りを警戒している様子だ。


「じゃあ、行ってくるから。ちゃんと映しててよ!」


 そう言ってアリシアは市場で買った【はやぶさの剣】を抜き、リザードマンの群れに飛び込んでいった。

 相変わらず視聴者は0、最初は動画投稿の方が良かったかなとも思いはじめたけど、とにかく今はアリシアを映すことだけ考えよう。


「すごい……」


 思わず声が漏れてしまった。

 はやぶさの剣は使用者の体を軽くする魔結晶が埋め込まれた剣。

 とはいえこの身軽さはそれを凌駕している。

 重力がないとさえ思えるほど、跳べばリザードマンを超え、背後からの攻撃されたと思ったら逆に背後をとっている。


 思わず見惚れているとウインドウに変化があった。


『え? やばくね?』


『なんか凄いんだけど曲芸師か何か?』


 コメントがきていたのだ、視聴者数を見ると10と表示されている。


『すごい新星が現れたか?』


『てかはじめての配信じゃん、私1番もらいー!』


 そのコメントの後、登録者が1になる。

 やった、初めて登録された。

 と思いきやすぐにその数は8となり、まだちょっとずつ増えていく。


 アリシアを追うのとウインドウを追うので忙しい。


「リアン危ないよ!」


「え?」


 気がつくと目の前でリザードマンが倒れる。

 その奥にはアリシアの姿、しまった不注意だった、気を取られすぎて周りが見えてなかったのだ。


「ありがとう」


「いいよー。じゃあまだ残ってるから!」


 と言ってまた戻っていく。


『すげー!』


『撮影者命拾いしたな!』


『てか死霊要素どこ笑』


 気がつけば10体以上いたはずのリザードマンはすでにあと2体のみになっている。

 そしてその2体の敵もあっというまに斬り伏せた。


 リザードマンの死骸の中に立つアリシアはまるでそこに戦闘が無かったかのように息一つ切らさず、白い服には返り血さえもついていない。


『88888888』


『やべー!』


『俺は今新しいスターの誕生をみたんだ!』


 コメント欄は賞賛の嵐、気がつけば視聴者は50人を数え、登録者も40人を突破していた。

 ジョンさん達のチャンネルが登録者数10だったから、初配信でこれはきっと凄いことなんだろう。


 ⭐︎以下アリシアの挿絵⭐︎

https://kakuyomu.jp/my/news/16818093072788566678


⭐︎以下あとがきです。⭐︎

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