第7話 契約を超越した存在

 そもそも勇者なんだから人気者のはずなんだけど。


「どどうして人気者になりたいの?」


「うーん、真実を伝えるため?」


「真実?」


「うん真実」


「どんな?」


「まだ秘密かな!」


 意味深な発言だけど内容までは話してくれない。

 こういうのが一番もやもやするんだよな、と思いながら口を閉ざす。


「配信してもいいよね?」


「いや……」


「いいよね?」


「う、うん」


 なんて圧なんだ、キラキラした瞳にこれだけの圧があるとは流石勇者といったところか。

 押されて頷いてしまったが配信なんて自分からしたことがないからわからないぞ。

 ――そもそも今はそんな話をしているところじゃない。


「どこ行くの?」


「亡くなった人を弔わなきゃ」


 ジョンさん、村長、村長に付いていた人のところにも寄って手を合わせる。


「死霊術師なら蘇生させればいいんじゃない?」


 遺体を前にあっけらかんと言う彼女。


「制約があるんだ。『死者が望むこと』、『死者の霊魂がまだ存在すること』、『現在の状態での姿となる』。この3つの制約を乗り越えないとだめだ」


 原型を留めていないものを契約するのは酷と思う。

 それにみんなもう成仏したらしく、霊魂が存在しない。

 いずれにせよ死霊契約はもうできない。


「現在の姿ねー……こういうこと?」


「――ゥワァッ!?」


 アリシアがいきなり白骨になりバラバラに砕けた。

 どういうことなんだ? と戸惑うと光が発生して元の姿に戻る。


「もしかしてそれが本当の姿?」


 そうだ、2000年も前の遺体がそんな完璧な状態の方がおかしいんだ。


「そうそう、びっくりした? みんなできると思ったんだけどね」


「そりゃあ……」


 びっくりしたと言うと何故か満足気に笑う彼女に苦笑いする。

 これも勇者の力ということなのか? 一体全体謎が多すぎる。

 というか本物の勇者であるかすら疑わしい。


「本物だよ!」


「――えっ!?」


 心を読まれた? もはやなんでもありなのか。


「というわけで、人気者になれるよう頑張ろうねー」


 クスクスと悪戯混じりの笑みに恐怖すら感じるが、多分俺は逃れられないのだろう。

 これじゃあどっちが主人かわからない。


「がんばり、ます」


 とは言え、まあ悪いことではないことは確かで、配信し人気になれば投げ銭システムとかいうのでお金が貰えたり、お店の宣伝等に呼ばれて報酬を得たりといいことがある。

 もちろんダンジョンで魔結晶やアイテムも集まり、その収益も見込める。

 アリシアの強さなら高いレベルのダンジョンにもいけるだろう。


「やった!」


「じゃあ棺に戻ってくれる?」


 従えた死霊を保管するための棺を魔法陣より出す。


「え? やだよ」


「いや、戻って」


「やだやだ、いいじゃないこのままで」


 おかしい、戻るように言ったら死霊は戻らざるおえないはずだ。

 それが従えるということ、基本的に契約主の命令には逆らえない。

 ここでも勇者の特別な力が働くのか。


「はぁ……わかった、じゃあとりあえず元の姿は見せないでね」


「はいはーい!」


 本当にわかっているんだろうか?

 人前でいきなり白骨にでもなれば気味悪がられてしまう。


「ちょっとユナ、駄目よ危ないわ!」


「おにーたん!」


「ユナちゃん?」


 突然の声に振り向くとそこには走り寄ってくるユナちゃんとそれを追いかけるユリさん。

 戻ってきちゃったのか。


「ハァ……リアンさん、良かった、ご無事で」


 ユナちゃんを追いかけてだいぶ走ったのだろう、膝に手を当てて息を切らしている。


「ははい、俺は無事ですけど……」


 今俺の後ろには村長達の遺体がある。


「おじーたん? おじーたん? ねてるの?」


 ユナちゃんが気づいてしまった。


「お父さん……」


 そしてユリさんも気がつき節句してしまう。


「おらきないよ? ねぇおじーたん! かぜひくよ!」


 頭部が陥没し、顔面が血に塗れ、誰かわからないほど損傷している村長の遺体を必死に揺すり起こそうとするユナちゃんの姿に涙がでてきてしまう。


「す、すみません。すみません……」


 謝るしかなかった。

 守れなかった罰が今どれくらい大きかったか痛感する。


「いえ、リアンさんのせいでは……」


 そう言ってユリさんも跪いて涙を流す。

 俺はそんな2人に謝ることしかできない。


「ユナ、お爺ちゃんちょっと寝てからくるって。寝不足みたいだから先に行きましょ」


 それでも涙を拭ってユナちゃんの手を引くユリさん。


「え? いや! おじーたんもいっしょにいくの!」


「ユナ!」


 ユリさんは悪くない、この光景を可愛い娘にみせたくないから叩いたんだ。

 ユナちゃんは何でかわからず泣いているけど、無理やり抱き起こす。


「気に病まないでください、リアンさんのせいじゃないです。リアンさん達がいなかったらもっと犠牲者が出ていました……ありがとう、ございます」


「すみません……」


 そう残して彼女達は背を向けて歩き出す。

 ユナちゃんはまだ必死に泣いているけれど、できるならこの光景は忘れてほしいと願った。

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