第5話 亡霊なる女勇者との邂逅

「みんな分散して逃げるんだ!」


 戸惑う皆んなに咄嗟に指示をだす。

 ジョンさんはそれに呼応するように敵に背を向けて逃げ出したけれど、カムナさんは足が動かず、ミョンさんに至っては起き上がることができない。


「ムク!」


 空からゴブリンキングを撹乱するように動かせて気を逸らし、その間にポチとブーに攻撃をさせる。

 しかし奴はそれを意に介せずニヤリと笑い足を踏み込む。

 ――まずい!


 「ジョンさん!」


 咄嗟に逃げたジョンさんに危険を伝えるが遅かった。

 奴は一瞬で迫り、彼が振り向いた直後にはその手で彼の首を刎ねていた。


 「キャアアァァァァ!!」


 その光景にミョンさんが尻餅をついたまま悲鳴を上げる。


 くそ敢えて逃げたジョンさんを狙ったのか、奴は完全にこちらの殲滅を狙っている。

 再びこちらに君の悪い笑みを見せる奴に俺まで足が震えた。


「皆んななんとか防いでくれ!」


 また死霊達を仕向け、なんとか逃げ出す機会を伺おうとするが流石に厳しい。

 攻撃は皮膚を通らず、逆に振られた手により突き飛ばされる。

 死霊は死なないのでまた立ち上がるがこれでは何度やっても同じだ。


「クソ! クソクソクソ!」


 ゆっくりと歩み、近づいてくる奴にカムナさんは弓を乱雑に放つ。

 しかし当然ながら矢尻は硬い皮膚に阻まれ地面に虚しく落ちる。

 そしてそれにより標的が決まったようでゴブリンキングの細く黒い目がキラリと光る。


「カムナさん避けて!」


「あ、あぁ、来るな、ああぁ――」


 しかし足が動かないカムナさんはただ奴を目を開いて見ることしかできず、俺も近寄ろうとしたが間に合わない内に振り下ろされた拳によって潰される。


「頑張って逃げてください」


 次はお前だとばかりにミョンさんを見下ろす奴の前に立ち塞がる。


「でも、力が、力がはいらないの……」


「――グハッ!」


 再び攻撃を行なうポチとブーを振り払ったかと思った刹那、俺の横っ腹に衝撃が走る。

 腕で防御したが殆ど意味をなさず、目の前が暗転しあちこちに痛みが走る。


「ガハッ!」


 上ってきた赤い不快感を吐き出す。

 なんとか目を開けた先に奴が映る。


「いや! た、た、助けて! イヤアアアアアッ!」


 凄まじい絶叫と共に折れた音が響く。

 ゴブリンキングがミョンさんの頭と足を横に持ち上げてへし折ったのだ。


 クソッ!! 誰も守れなかった!


 なんとか力を入れて立ち上がる。

 防御した腕は感覚がない、折れている、肋骨も何本かいかれてしまったみたいだ。

 でもなんとか逃げないと――。


 まだ死霊の皆んなは諦めずに対峙してくれている、頑張りに報いるために逃げ切らないと。

 

 走れはしない。

 全身に痛みがあり、足を引き摺りながら一歩一歩歩く。

 歩くたびにどこの痛みかもわからない激痛が走るが無視して足を動かす。


 後ろから聞こえる死神の足音はまるで逃げる姿を嘲笑うかの様にゆっくりだ。

 その気になれば一瞬で殺される命だと言うことはわかっている、それでも歩くしか無い。


 どれだけ歩いてどこに向かっているんだろう、もはや方向感覚すらない。

 出来れば都市方面に向かいたい、逃げた村人が援軍を呼んでくれているかもしれない。


「グァッ!」


 そんな時背中に衝撃が走り体が吹っ飛ばされる。

 意識が飛びそうになるのを歯を食いしばって堪える。

 だけどまだ死んでない、最後の相手と思って遊んでいるのか?


『あらー、酷い怪我だね』


 なんだ? 誰もいないはずなのに女性の声がする。


「だ、誰……?」


『誰? って私のお墓にきておいてそれはないでしょー』


「墓?」


 ぼやける目を凝らすと綺麗に咲く花達が見える、頭を上げるとその先には質素な墓。

 間違いない初日に見た勇者の墓だ。

 とすればこの声は――。


『あー、ゴブリンキングか。強いもんね、ゴブリン自体は弱いのに』


「勇者、なんですか?」


『勇者? ハハッ、そう、私今も勇者って言われているんだ』


 何故か違和感のある笑い方をする声の主。


『ま、いいや。それよりもうすぐ死んじゃうよ?』


 そうだ、勇者と話している余裕なんかないじゃ無いか。


「くそ……」


 体が動かない、ここまでなのか?


『助けてあげよっか? 君死霊術師なんでしょ?』


「え?」


 思わぬ言葉だった。

 死霊として復活させて助けてくれる、彼女の言いたいことはこんなところだろう。

 しかし本当に勇者だとしたら何千年も前の存在、白骨すら残っているかどうか。


『いいの? 早く決めなきゃ』


 そうだ、そんな考える余裕なんてない。

 後ろからなおゆっくりと足音がする、もう次は絶対に命はない。


「助けてください!」


『フフッ、そうこなくっちゃ!』


 傷口の血を手で拭い墓に伸ばす。

 地面に魔法陣が浮き上がり紫色の卑しく眩しい光を放つ。

 死霊と術師の血の契約がここに成立する。

 

「皆んな戻って」


 死霊達を戻す。


「グォォ!」


 後ろから異変を感じたゴブリンキングの声が聞こえる。

 状況がわからないがまずい! 間に合え!


「お願いします!」


『はーい』


 先程とは違う召喚の魔法陣が展開される。

 刹那、肉が抉れた音が聞こえた。


⭐︎以下あとがきです。⭐︎

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