第4話 ダンジョンブレイク

「さん! リアンさ――ください!」


「ん? なんだ……?」


 扉が強く叩かれる音で目が覚める。

 この声はユリさんの声だ、必死なように聞こえる。


 まだ重たい瞼を擦り玄関へ向かう。

 向かう途中だんだんと慌ただしい音が鳴り響き、只事でない事が理解できた。


「一体何が――!?」


「リアンさん! ダンジョンブレイクです!」


 玄関を開けた先に待っていたのは多くの魔物と逃げ惑う村人達の姿。

 明け方でまだ薄暗い中、寝具で魔物から必死に逃げている。

 

 まるで悪夢のような光景に目を疑ったが、肩を強く叩かれ現実に戻される。


 そうだ、これはダンジョンブレイクだ。

 稀にダンジョンから魔物が這い出てくる現象でこの村が人口減少した要因。

 確率は低いが危険性はあるので土地を離れる人が結構いる。


「リアンさん! 助けて、このままだとみんなが!」


 ユリさんが必死に訴え、ユナちゃんは母の後ろに隠れて怯えている。


「2人は逃げてください! 来い《ポチ》、《ムク》、《ブー》!」


 外に出て死霊を呼び出す。

 地面の魔法陣から2つの棺が現れ、中からポチとムク、ブーが出てきた。


 村を襲っているのはダンジョンにいたゴブリンやコボルトの弱い魔物、幸い他の冒険者達も戦ってくれているしなんとか耐えれるか。


「よしみんな村を救うんだ!」


 3匹ともそれぞれ散り、魔物を襲う。


「うわっ!」


「ムク!」


 逃げている村人の1人が躓き倒れる。

 近くにいたムクを向かわせ、襲いくるゴブリンをその鋭いくちばしでついばむ。


「立てますか?」


「あ、ありがとう、だが足が……」


 転けた際に捻ってしまったらしい。


「ヒール」


「おぉ、痛みがなくなった」


「動けますか?」


「うん、ありがとう!」


 なんとか動けるぐらいにはなったか、走るのは無理そうだけど歩いて場を去っていく。


「リアンさん!」


 くっ! こっちもか。

 村人のすぐ背後にコボルトが迫っている。


「ポチ、頼む!」


 なんとかこちらも救出することに成功する。

 他に逃げ遅れている人はいないか? ん? あれは……。


「村長、大丈夫ですよ、きっと逃げ切れます! 頑張りましょう!」


「ワシのことは置いてゆけ!」


 村長と肩を貸して歩く村人が目に入る。

 村でも1番の高齢者であり足が不自由な村長を連れ、なんとか逃げようとしている。


「村長!」


 しかし、そんな獲物を奴らは見逃してはくれない。

 すぐ後ろにゴブリンが3体迫る。


「ムク! くそっ、間に合わない!」


 近くに死霊達がいなく、1番速いムクを向かわせ、俺も走って駆けつけるが遠く、彼らにゴブリンの棍棒が振り下ろされる。


「グァッ!」


 頭を叩かれ、潰れたような断末魔と共に村長達は前のめりに倒れてしまった。

 そしてそこからはゴブリン達は高笑いと共に獲物を弄ぶ。

 絶命したであろう彼らを何度も何度も叩き、笑みを浮かべる彼らの姿に吐き気がして立ち尽くす。


 それでもムクが駆けつけて空から奴らを倒す。

 残ったのは血だらけで頭部が崩壊した村長達の遺体。


「ヴォエッ」


 それを見てしまいついに抑えきれずに嘔吐する。

 人の死体を見るのは久しぶりだった、死霊は見慣れているのに同族の遺体は嫌悪感が強い。


「リアンさん!」


 人の声に反応して後ろを振り返るとすぐ側に2体のゴブリン。

 しまった、気を取られて気づくのが遅れた。


 しかし奴らの攻撃は届くことなく体が横真っ二つに切断される。

 そして死体が崩れた先に見えたのはブーの姿と緑の血で濡れた斧。


「助かったよ、ブー」


 立ち上がり、戦況を観る。

 死霊達や冒険者の活躍もあり、ほとんど魔物が倒され、村人の姿もない。


 よし、いけるぞ!


 ♢


「なんとかなりましたね」


「そうですね、でも村長達が……」


 なんとか魔物は全て倒し、村人は殆ど逃げ切れ、冒険者にも被害は無かった。

 だけど死者を2人だし、その死体はいまだ魔物の亡骸と共に生々しく残っている。

 

「けれどなんとか殆どが無事だった。今はそれでよしとしましょう」


「そう――いや、待って」


 なんだあれは?

 終わりかと安心仕掛けたところにダンジョンゲートから青白い電気のようなものが発生した。

 そしてゲートから巨大な緑色の足が現れ、手がゲートを押し広げていく。


 ついに頭部が現れ、それがゴブリンだと確認できる、いやこれはただのゴブリンではない。

 ――ゴブリンキング、ゴブリンを統べるものと言われるその巨大な魔物。

 頭部に汚れた王冠を被る特徴的な魔物は、普通種とは比べ物にならない危険度をもつ。


「な、なんでレベル2のダンジョンからあんな化け物が……」


 姿を見ただけで駆け出しの冒険者のミョンさんは尻餅をつき震え出す。

 ゴブリンキング、その適性レベルは5 ――今ここにいるメンツでは到底歯が立たない。

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