第2話 アリシア村
失意の内に俺は住んでいた都市【ルミナス】を離れ郊外の村【アリシア】に来ていた。
何故か? それはお金がないからに他ならない。
パーティ内でも報酬の分前が他の人より少なかった俺に家賃を払える余裕がある訳なく、こうして都市をはなれるしかなかった。
「しかし廃れているな」
元は名前の由来にある、勇者アリシアを輩出した村だったがいまではすっかり廃れている。
ポツポツとある木造の家は住む人がいなくなった廃屋が多く、手入れされていないので木が腐り今にも潰れてしまいそうだ。
そして人通りもなく、元は畑だった土地も荒れ果てているものが多い。
夕暮れ時とあり茜色に染まったその光景は少し不気味にも映る。
何故村がそうなったかといえば、この村の中にダンジョンができたからである。
今から200年程前から世界に現れたこのダンジョンゲート、そこを通ると魔物が住まうダンジョンに移動する。
原理は不明だが、伝説を紐解くと太古の昔に勇者が隔絶した人間界と魔界を繋いでいるのではとのことらしい。
ゲートにより繋がるダンジョンは異なり、出てくる魔物も変わる。
そこで冒険者は狩をおこない、物資を手に入れてお金に換えるのである。
「レベル2のダンジョンなら最悪1人でもいけるよな」
目の前にある地上から3メートル程の高さある渦巻く時空の歪み、これがダンジョンゲートだ。
この村に出現したのはレベル2のダンジョン、住む魔物により1から7にランク付されたレベルのうち下から二番目となる位置のものだ。
しかし、何だろうか、口では表せない嫌な感じがあるダンジョンゲートだ。
いやいや弱気になるな、これでもパーティを組んでいた時はランク5のダンジョンまでいっているんだ。
「リアンさんですか?」
名前を呼ばれ振り向くとそこにいたのは綺麗な女性と手を繋いだ娘らしき幼い女の子。
「は、はははい……そうです、が」
思わぬことに吃ってしまった。
「初めまして、村長の娘のユリです。こっちは私の娘のユナ。よろしくお願いします」
「よろちく!」
「あ、よろしくお願いします」
丁度この後村長に挨拶しないといけなかったので、家族さんと会えたのは好都合だ。
「家に来ていただいてもいいですか?」
「もちろん、今行こうとしているところでしたので」
「そうですか、ではご案内しますね」
俺がこの村を選んだ理由は家を無償で提供してくれると言うところだ。
過疎化が進むこの村をどうにか再興しようと冒険者に家を提供しているらしい。
「こっち! こっち!」
ツインテールの可愛い女の子に足早に手を引かれ、前のめりになりながら村長の家に向かった。
♢
「ようこそアリシア村へ、村長のアルナスと申します」
家で待っていたのは勿論この村の村長。
髪がないのにその分長い白髭を蓄えている、曲がった腰を立派な杖で支えたお爺さんだ。
「リアンです、よろしくお願いします」
頭を下げて挨拶を済ます。
そこから簡単に村の説明をされ、家を案内された。
廃屋に住まうのかと思ったが思ったより綺麗な木造住宅でホッとした。
村の説明では深刻な人口減少の事や、過去に勇者を輩出した由緒ある村である事、今はダンジョンをギャクに利用して冒険者を囲い込んで盛り上げようとしている事などが話された。
思いの外質素だった勇者の墓と俺が住まう家を案内されもう終わりかと思ったが、この後歓迎会をするとのことでまた村長の家に戻ることになる。
♢
村長宅でおこなわれる歓迎会には村中から人が集まっていた、それでも30人程ではあるがこれでほぼ全員らしい。
そのうち冒険者が3人、みんな駆け出しらしいがあるのがレベル2のダンジョンではそれも仕方がないだろう。
「おにーたん! これ!」
出された野菜等村でとれた物で調理された食事を食べていると、ユナちゃんが花で造られた髪止めを差し出してきた。
紫の花のついたそれは男がつけるのは少し抵抗があるが、こんなにキラキラした顔で見られると受け取らないわけにはいかない。
「ありがとう」
「頑張ってつくったんです、よかったら1度だけでもつけてくださいませんか?」
「は、はい……」
母親であるユリさんから言われ、恥ずかしいけれどつけてみる。
「かぁーいぃー!」
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶユリちゃんの姿に照れるけれど癒される。
これは大切にしないといけないな。
「疲れているところこんなに遅くまでありがとうございます」
夜遅くまで続いた歓迎会が終わり、ユリさんが家まで送ってくれた。
真っ暗な闇を照らすために手に持つのは光る角を入れたランプと言われる物。
ダンジョンにいるシカボーンという魔物の角を加工した物だ。
「いえ、気をつけて帰ってください」
「ありがとうございます、ではぐっすり寝てくださいね」
そう言ってユリさんは帰っていった。
クマが濃いから寝不足と思われたかな?
さて、初めて家の中に入る。
外観は大丈夫だけど中はどうだろう……少し不安だったがやはり中も綺麗だった。
荷物が用意されたベッドしかなく殺風景だけど、埃や床の汚れも殆どなく木の香りが漂う。
「ちょっと疲れたかな」
ベッドに横たわると今までなかった疲れが一気にくる。
あまり社交的ではないため気疲れしたのだろう、眠い。
俺はそのまま重たい瞼を閉じた。
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