第4話 科学技術

 陽斗は、『互酬』をこの時代に浸透させ、平和な未来を創るために、働いた。争いのない世界だ。他の種族との交渉役が大事な仕事だった。種族の中には、薬草に詳しい者がいて、医療分野に明かりを灯した。

 もしかしたら、前の次元でもタイムトラベラーがやって来て、いろいろ変革を試みたが失敗に終わったのだろうかと、陽斗は思った。しかし、長年の歴史の中で戦争や不平等が横行した世界では、元に戻すことなど思いもよらないのだろうと思った。それには、みんなが『互酬』の精神を普通と考える世界にしなければならないと思った。


 武器作りは祐樹が担当することになった。颯太は工事関係を担当した。そして、伊織は電気の研究や鉱物の発掘なかでも鉄の発掘が重要な仕事だった。この二つは、文化的な生活を送る必要最低限のものだった。衣食住のほか、これらをみんなで分け合えば、争いごとがなくなる世界が出来ると新世界の四人は思った。

 自然をみんなで分け合っていた時代から、余剰を作った時代に独占という考えが芽生えた。そして、富の集中が人間の意識を狂わした。富を持つものや武力を持つものによって、世の中が動かされてきた。この二大権力を押さえなければ、全体の幸せは得られないのだった。



 陽斗は、伊織の科学技術が伊織自身だけの能力か不思議だった。


「伊織君の科学技術の源は何処から来るの」


「陽斗さんは、もう感じているでしょう」


「まさか、アカシックレコードからの情報なの。颯太さんの建築技術のアイデアや祐樹君の防衛技術のアイデアもそうなのかな」


「良く分からないけど、寝て起きると関数や公式が頭に浮かんで、いろいろな事がひらめくんです。これが、アカシックレコードと言われれば、そうなのかもしれません」


「『互酬』を実現させるためには、日本だけでなく世界も統一しなければならない。そのために必要な現代の世界地図が夢に浮かび、助かったよ。この時代は、大陸の分裂と衝突が5億年続いていた。今は止まっているかもしれない。

 世界統一には人工衛星による通信衛星と放送衛星が必要になるが、伊織君どうだろか」


「大丈夫、完成させます」


「ありがとう。それに、人口が多くなっているので、いよいよ稲や麦が必要になって来たね」


「陽斗さんの『互酬』の考えは、4人の共通の思いですよ。ドローンも作りますよ」

伊織は、使命感をいまさらに感じていた。


「これは無理かもしれないが、前の次元とつなぐインターネットはどうかなぁ」

陽斗は、面白半分に聞いた。


「やはり、無理でしょうね。でも、必要な科学技術は10年ぐらいで近づけたいですね。今は、風力発電に頼っていますが、太陽光発電も開発します。日本にもシリコンの原料、二酸化ケイ素つまり石英がありますからね。

 まずは、蓄電池やリチウムイオン電池を完成させ、パソコンを製作しますよ。前の次元へインターネットをつないだら、特許料を払わなければならないでしょうか」

伊織は、苦笑いをした。


「伊織君なら10年と言わず近付けるでしょう。期待しています」

陽斗は、伊織と握手をした。

 


 ようやく、人工衛星を完成させた。そして、人工衛星の打ち上げの日がやってきた。伊織は、ここまで50人の科学者を育成して、ここまでたどり着いた。一番の助手はアミだった。打ち上げには、大勢集まった。待ちに待った、人工衛星の放送衛星と通信衛星が打ち上げられる。

 打ち上げ台に人工衛星が準備された。カウントダウンは日本語だった。

「用意してください。10、9,8,7,6,5,4,3,2,1。点火、はっーしゃぁ」


 人工衛星は空高く上がると、観客は手をたたき喜んだ。そして、放送と通信衛星が切り離された。


「切り離しに、成功しました。順調に飛行しています」


「放送衛星と通信衛星は、地球周回軌道に乗りました」

と、伊織が言うと、みんなは拍手喝采だった。そして、伊織に駆け寄り、握手をした。



 伊織は、ドローンを改良に改良を重ねて、アフリカまで飛ばせるようにまでなった。後はアフリカから稲や麦の種を持ち帰ることを考えた。


 実験が行われた。ドローンの名前は、『ゆたか』と名付けられた。ドローンにはカメラが搭載されていて、遠隔操縦で作業ができる装置が配備されていた。

 実験室から出て、広場に集まった。午後3時が発射時間だ。アフリカ大陸へ到着する時刻は、予定では日本時間で次の日の午後3時だった。アフリカの時間は午前6時だった。


「ドローンを打ち上げます。はっーしゃぁ」

と、伊織は言って、ドローンを操縦し始めた。観客はドローンが見えなくなるまで、拍手で見送り、三々五々感動しながら帰って行った。あとは、アフリカに着いた時から、マンションの共有テレビで採取の瞬間が放映されることになっていた。

 発射後、実験室へ戻り、自動操縦に切り替え見守った。24時間後、アフリカに着いたドローンのカメラ映像が信号で送られて来た。そして、テレビに放映された。


「沢山の稲や麦が収穫されました。実験は成功です」

と、伊織が言うと、みんなが駆け寄り、肩を抱き合った。


「これで、人口が増えても大丈夫だな」

と、祐樹が言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る