第3話 仲間

 二度三度といろいろな干し肉をもらった娘たちからも、美味しい果実や芋をもらい、みんなは仲間になれると確信した。男たちは、狩りの様子を見て度肝を抜かされていたのだった。その後は、伊織の誘導で、みんなが顔を出した。しかし、娘たちは狼狽えることなく、受け入れてくれた。

 四人は、娘たちに案内されて、男たちが待つ住み家へと着いた。村には老人5人と成年6人と4人の子供たちがいた。この時代の寿命は30年ぐらいなので、自分たちでは先がないと思ったのだった。

 ここよりは、広い住居があるので、来るように誘った。言っている事が分かったのか、見学を約束して帰って来た。



 次の日、陽斗と伊織が、村へ行って見ると用意をして待っていた。調教した牛に、木で作った荷車を引かせて、2台の牛車が着くと、みんなは驚きの喚声を上げた。10人ずつ乗せて出発した。獣道は、薮を切り開きならしてある。住居に着くと、残った二人が迎えた。新しい仲間を木造の宿泊先に案内した。



 今日は用意したご馳走をみんなで食べる。まだ、言葉が通じないので、身振り手振りで意思疎通を図った。陽斗は、合コンのような挨拶で、名前は聞けないので、話の中で自然と知れたらと思っていた。陽斗と颯太は、大人の客を歓待している。客たちは、電気の装置や住居、武器そして食べ物に感心しきりだった。

 祐樹は子供たちに、サッカーやバスケット、野球の真似事などして遊んであげている。子供たちは、見様見真似ではあるが、楽しんでいるようだった。


 伊織は、宴会の場から離れて、一目惚れしたアミに視線を送り誘った。伊織は宴会の最初から、アミに優しかった。アミは伊織に近付き、顔を赤らめた。


「僕、渥美伊織です」

と言いい、『いおり』を連呼した。


「い・お・り」

と、アミはたどたどしい発音で真似た。


「そうそう」

と、嬉しそうに言った。


 そして、アミの名前も聞き出そうとした。自分を指差して『いおり』、アミを指差し、首を傾げるというのを繰り返した。すると、アミが答えた。

「アミ」

と、声を出した。


 伊織は、アミの手を取って、川の方を指差した。アミは、伊織を見つめて頷いた。

「アミ、行こう」


 伊織は道すがら、いろいろな言葉を教えた。

「顔、目、口、手、お腹、お尻、足」

と、指差して教えた。


 アミは、ケラケラ笑いながら覚えていった。そして、一番言いたかった事を言った。川辺に着くと、魚が跳ねるのを見て、アミは喜んだ。


「僕は、アミが好きだ」

と、伊織は、アミを見詰めて真剣に言った。

 アミは首を傾げた。


「すき」

伊織は、連呼した。


 アミは、また、たどたどしく真似た。

「す・き」


 伊織は、アミの手を引き寄せ、優しく肩を抱いた。アミは伊織の温もりを感じ、幸せな気持ちになっていた。二人は会話が出来ないので、風景を指差しながら川辺を歩いた。



 陽斗たちは、周りの種族と仲間になる事が、未来を平和へと導けると確信していた。アミの種族のみんなは、友好的だった。言葉は通じないが、身振り手振りで今夜は泊っていくことを勧めた。暗くなって来たので、引き留めに頷いた。夜になり、焚火を囲んで飲食した後、宿舎に寝床を用意した。


「みんな、どうだった」

年上の男が聞いた。

 

「私は、ここで暮らしたい」

アミは言った。


「私も、ここに残りたい」

サトも言った。

 

 子供たちも、ここで遊ぶことを覚えて楽しんでいたのを、みんなは見逃せなかった。


「ここの武器は、俺たちのとは比べ物にならないくらい、立派なものだ」


「俺たちが束になっても敵わない」


「俺たちだけでは、野獣にやられてしまう」


「こんなにやさしくしてくれるのだから、一緒に暮らすことを考えた方が良い」


「近くにも、ほかの種族がいる。食糧がなくなったら、襲われるかもしれない。俺たちはもう寿命だ。守ってやれないかもしれない」


「お父さん、死んじゃうの」

息子は、泣きそうな顔で尋ねた。


「俺たちは、30年ぐらいしか生きられないんだ」

父親が言った。


「私たちは、一緒に暮らす事は賛成よ」

トシが代表して言った。4人は頷いた。


「俺、ここでいろいろな事を学びたい」

若い男が言った。


 男たちも、ここの暮らしに憧れを持って、仲間になる事を賛成した。



 みんなが、友好の握手をした。先ずは、意思疎通の言葉を身振り手振りで教えた。子供は、遊びの中から、言葉を覚えていった。みんなは、颯太と祐樹に仕事を習った。そして、仕事を覚えると、自分の得意を伸ばしていった。


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