第40話 まさかの結末

 漫才の出来に手応えを感じていた私とヨッシーは、控室に戻ってからずっと喋っていた。

 三場君と福山君も相当自信があるみたいで、私たちは結果が出る前から、もう予選を通過した気になっていた。


 やがて最後のコンビの漫才が終わると、私たちは係員に連れられ舞台へ移動した。

 そこには三人の審査員が立っていて、私たちは彼らと正対する形で並んだ。

 やがて全員が集まったところで審査委員長がマイクを持ち、おもむろに喋り始めた。


「皆さん、今日はご苦労様でした。今年は例年と比べ優秀なコンビが多く、審査が非常に難航しましたが、なんとか三組に絞りました。それでは予選通過者を発表します。まず一組目は、エントリーナンバー4番の『ジョーカーズ』。二組目は、エントリーナンバー15番の『さくらさくら』。そして三組目は、エントリーナンバー22番の『力こぶ』です」


(嘘でしょ? まさか二組とも予選落ちなんて……)


 私は一気に体から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。


「池本さん、気持ちは分かるけど、敗者は敗者なりに、ここは最後まで凛としていよう」


 三場君はそう言って、私を立たせてくれた。


「決勝に残れなかったコンビの中には、きらりと光るコンビも何組かいました。なので、これに懲りず、また挑戦してみてください。本日はどうもありがとうございました」


 審査委員長の言葉を聞いて、私は(私たちはもう挑戦できないのよ)と思ったけど、無論それは口には出さなかった。



 その後、会場を後にした私たちは、反省会を兼ねて、近くのカフェに立ち寄った。


 それぞれが飲み物を注文した後、誰も喋ろうとせず、周りは静寂に包まれる。

 そんな重い空気の中、ヨッシーがしびれを切らしたように喋り始めた。


「予選を通過した三組とあたしたちに、そんなに差はないと思う。今回は運がなかったんだよ」


「そういえば、審査委員長が今回は優秀なコンビが多かったって言ってたな。その中に、俺たちも含まれてるってことか?」


 福山君がそう言うと、透かさず三場君がそれに続く。


「間違いなく含まれてるよ。そう思わないと、正直やってられないしな」


「私もそう思う。あれだけ笑いを取ったんだから、上位で争ってるのは間違いないはずよ」


 予選を通過したコンビの漫才を観ていないので、どちらがより多く笑いを取っていたか分からないけど、ヨッシーの言うように、大差はついていないと思う。


「僕たちが負けた原因は、もしかすると、ネタの内容かもしれないな」


 三場君がそう言うと、透かさずヨッシーが訊ねる。


「どういうこと?」


「今回僕たちは、主に学校ネタをやったんだけど、それがよくなかったのかもしれない」


「なんで学校ネタがダメなの?」


「ダメってわけじゃないけど、ネタとしてはありきたりだろ? 予選を通過したコンビは、もっとトリッキーなネタを披露したんじゃないかな」


「なるほどね。私たちはウケることばかり考えて、確かにそこまで頭が回ってなかったわ」


 三場君の言葉に、私は目から鱗が落ちる思いだった。


「面白さが同じくらいなら、そういうところで差がつくってことか。もう少し早く気付いてたら、対処できてたのにな」


 福山君が悔しそうに言う。無論、私も同じ気持ちだ。


「まあ、それでも僕たちが選ばれなかったのは紛れもない事実だから、ここは潔く負けを認めよう」


 三場君の言葉を完全に受け入れることは今はできないけど、この先そう思える日が必ず来ると信じよう。


 思ったことを言えてスッキリしたのか、店を出る頃は、みんなの表情が生き生きとしたものに変わっていた。



 やがて家に着くと、私はすぐにノートを開き、書き始める。


【やあ! 池本カラスウリだぞ。みんなと別れてからいろいろ考えたけど、やっぱり納得できないよ。ケンケンはネタの内容で負けたんじゃないかって言ったけど、予選通過したコンビの漫才を観たわけじゃないから、そうとは言い切れないよね? ハッキリとした敗因が分かるまでは、私は納得できない……ごめん。これ以上言うと、愚痴になっちゃうから、今日はこの辺でやめとくわ。

 以上、まだまだ大人になり切れない池本カラスウリでした】


(こんなことを書くなんて、私はまだまだ子供だな)


 私は自己嫌悪に陥りながら、ノートを閉じた。


 


 


  

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