第26話 初めての漫才
翌日の昼休み、逸早く弁当を食べ終えた三場君が、教壇に立ってクラスメイトと対峙する。
「みんな、ちょっと聞いてくれ。今から僕たちお笑い研究部の四人が漫才をするから、観ててほしいんだ」
途端、静まり返るクラスメイトたち。
その中で寺本という男子生徒が三場君に反抗的な目を向ける。
「なんでそんなもん観なきゃいけないんだよ。やりたきゃ、勝手にやれよ。俺は観ないから」
彼の発言に、周りのクラスメイトたちは皆賛同している。
やはり、日頃から疎ましく思われている私たちが、自分たちの漫才を観てほしいというのは無謀だったんだろうか。
「分かった。じゃあ今から始めるから、関心のある人だけ観ててくれ」
三場君はそう言うと、福山君を呼び寄せ漫才を始める。
「どーもー、お笑い研究部部長の三場でーす」
「同じく福山でーす」
「はあ? 何言ってんだ、お前」
「えっ、俺、なんか変なこと言った?」
「今、同じくって言っただろ。お前、同じくの意味、ちゃんと知ってるのか?」
「同じくって、前と一緒ってことだろ?」
「なんだ、ちゃんと知ってるじゃないか。じゃあ、なんで同じくって言ったんだよ」
「お前がお笑い研究部の三場ですって言ったからに決まってるじゃないか」
「俺はお笑い研究部部長って言ったんだよ! お前は部長じゃなくて、ただの平部員だろうが」
「
「俺はただ事実を言っただけだろ。それより、早く次の話題に移れよ」
「えーと、次の話題って、なんだっけ?」
「お前、この二週間あれだけ練習したのに、忘れたのかよ! まさか緊張してるんじゃないだろうな」
「そりゃあ、人前で漫才をやるのは初めてだから、緊張するのは当然だろ。って、誰も観てないんだけど……」
「そうだよ。だから緊張なんてしていないで、普段通りにやれよ」
「ああ。なんか緊張してるのが馬鹿らしくなったよ」
「これでもう大丈夫だな。じゃあ改めて、次の話題に移れよ」
「分かったよ。で、次の話題って、なんだっけ?」
「お前、緊張じゃなくて、普通に忘れてただけだろ!」
アドリブなのかネタなのか区別のつかない二人の軽快なやりとりに、私は圧倒されていた。
ネタでは誰も観ていないと言ってるけど、実際はそんなことなくて、何人かの生徒は彼らを観て笑っていた。
二人はその後、学校ネタや時事ネタを披露して終了となった。
「それでは次に、我がクラブのアイドル二人組が登場しますので、みなさん拍手で迎えてください」
三場君がそう言うと、何人かの生徒が遠慮がちに手を叩き始めた。
その微妙な空気の中で、私たちは漫才を披露したのだけど……。
結果から言うと、まったくウケなかったうえ、ヨッシーがネタを飛ばしたため途中で終わってしまった。
自信があっただけに、私はその結果がすぐには受け入れられず、午後からの授業をまったく身が入らない状態で聞いていた。
今日の部活は、言うまでもなく昼休みにやった漫才の反省会。
「みんな、とりあえず今日はお疲れ様。結果は不本意なものに終わったけど、別に落ち込まなくていいから。人前で漫才をしたのは初めてだったんだから、あんなものだよ。逆に最初からウケていたら、勘違いして、その後努力しなくなるから、結果的にこれで良かったんじゃないかな」
三場君がそう言うと、ヨッシーがすぐさま賛同する。
「だよね。あたし、途中でネタを飛ばしたんだけど、初めてだからしょうがないよね」
「実は俺も最初ネタを飛ばしてさ。でも、三場がうまくフォローしてくれたおかげで、なんとか続けられたんだよな」
福山君の言葉に、私はハッとさせられる。
やっぱりあれはネタじゃなくてアドリブだったんだ。
「初めてだから仕方なかったのかもしれないけど、私はやっぱり悔しい。いくらアウェイとはいえ、誰一人笑わせることができなかったんだから」
「その気持ちはあっていいと思う。逆にそれが無いと進歩しないからね」
「俺も悔しいよ。今日はお前に助けてもらったけど、もし今度お前がネタを飛ばした時は、俺がちゃんとフォローしてやるからな」
「じゃあ、あたしも悔しい。本番では絶対ネタを飛ばさないから、カアちゃん大船に乗ったつもりでいるといいよ。あははっ!」
ヨッシーが豪快に笑う。
ツッコミどころはたくさんあるけど、とりあえず一つだけにするよ。
じゃあって何?
「今日の失敗を活かして、一ケ月後の大会は悔いが残らないようにしような」
三場君がそう言うと、私たち三人は大きく頷いた。
その後私たちは、今日のリベンジを果たすべく、大会用のネタ作りに励んだ。
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