第24話 ネタ作り開始

 昼休み、私たちお笑い研究部のメンバーは、飽きもせず紙マージャンに勤しんでいる。

 そんな私たちに、周りのクラスメイトたちは相変わらず好奇の目を向けている。

 まあ、それは無理もない。

 ほとんどの者がスマホ片手に友達との会話を楽しんでいる中、こんな時代遅れのゲームをしているのは私たちぐらいのものだから。

 私はこの名前のせいで、小学校の時から浮いてたからまだいいけど、他の三人はこの状況をどう思っているのだろうか。


「ねえ、私たち周りからどう思われてるんだろうね」


 私は誰ともなく訊いてみた。


「そりゃあ変に思われてるに決まってるだろ。ていうか、なんで今頃そんなこと訊くんだ?」


 福山君が不思議そうな顔を向けてくる。


「福山君はそれで平気なの?」


「平気じゃないけど、今更どうしようもないだろ。俺たちはお笑い研究部に入ってるというだけで、そう思われてるんだからさ」


「それは言えるね。あたしは女だから、特にそう思われてるんだろうね」


 ヨッシーがそう思われているということは、同じ女である私もそうだってこと? 


「まあ、元々無かったものを立ち上げたんだから、それに対しての反発みたいなものがあるんだろうな」


 三場君が新たな見解を示す。

 それって、自分たちにはできないことをやったことに対する嫉妬みたいのもの? 


「あいつら、俺たちが好き勝手やってると思ってるんだよ。要するに、先駆者である俺たちのことを妬んでるんだ」


 福山君が私の思っていたことを代わりに吐き出してくれた。

 けど、先駆者である私たちが、こうして時代遅れの紙マージャンをしているのもおかしな話だ。


「彼らの思考を変えるには、僕たちが日々研究したことで得られた成果を見せるしかないよ」


 三場君がまたも新たな見解を示す。


「成果って?」


「具体的に言うと、僕たちの漫才を彼らに観てもらうんだよ」


 突拍子もないことを言う三場君に、私たち三人は一瞬言葉に詰まった。


「今日からそれぞれのコンビでネタ作りとネタ合わせに励んで、何日か後に彼らの前で漫才を披露するんだ。大会の予行演習にもなるし、まさに一石二鳥じゃないか」


 楽しそうに語る三場君に、ヨッシーが怪訝な目を向ける。


「漫才をするのはいいけど、もしスベッたら益々変人扱いされるんじゃない?」


「だからそうならないように、今日からしっかり練習するんだよ。後、学校ネタは鉄板だから、いくつか入れるといいよ」


「よし、じゃあやるか。俺たちが本気でお笑いに取り組んでるってところを、見せてやろうぜ」


 福山君は俄然やる気になっている。

 じゃあ、私もやるしかないか。


「ねえ、ヨッシー。竹本先生をネタにしたら間違いなくウケるから、それを掴みにして、いろいろ作っていこうよ」


 笑顔で呼び掛けた私に、彼女は観念したような顔を向けてくる。


「仕方ないな。じゃあ、絶対スベらないネタを作ろうね」


 こうして私たちは、自分たちの存在意義を知らしめるために、何日か後にみんなの前で漫才を披露することになった。





 放課後、私たちはそれぞれのコンビに分かれ、早速ネタ作りに取り掛かった。


「さっき言ったように、竹本先生のネタは外せないわ。問題はどうネタにするかだけど」


「そんなの簡単じゃん。生徒に当てる時、日付の数字をこねくり回して喜んでる変態っていじればいいのよ」


 ヨッシーが平然とした顔で言う。


「さすがにそれはやりすぎだよ。せめて変態というワードは使わないであげようよ」


「えー。それ使った方が絶対ウケるのに」


「ウケればいいというものじゃないでしょ? 私たちは正統派の漫才を目指してるんだから、下ネタとか強烈なワードはなるべく使わないでおこうよ」


 それらを使えば、簡単に笑いが取れるのは分かってるけど、それだと進歩がない。


「分かったよ。じゃあ、そのネタはそれでいいとして、後どんなネタを使う?」


「私的には南野先生もネタにしたいんだけど、それをやると男子たちが黙ってないでしょうね」


「ネタをマイルドにすればイケるんじゃない?」


「例えば?」


「もう大分前だけど、南野先生が男子たちに自分の良いところを褒めさせたことがあったでしょ? あの時、あたしたちも参加したかったって言えばウケるんじゃない?」

 

 そういえば、そんなこともあったな。

 

「うーん。確かにそれだと、男子たちの反発は免れるだろうけど、ネタ的にちょっと弱いかも」


「そうかな? いろいろ工夫しながらやれば、結構面白くなると思うんだけど」


「じゃあ、これは一旦保留ということで、後一つくらい学校ネタを入れたいね」


「変わってる教師はこの二人くらいのものだから、教師以外のネタを考えないといけないわね」


 その後、二人でしばし考えてると、不意にヨッシーが立ち上がる。


「いいこと思い付いた! あたしたち自身をネタにすればいいのよ!」


 興奮しながら捲し立てるヨッシーに、私は怪訝な目を向ける。


「どういう事?」


「いわゆる、自虐ネタってやつよ。普段あたしたちって、クラスで浮きまくってるでしょ? それを面白おかしく表現すればいいのよ」


「なるほど! それだと、普段の学校生活を喋るだけでウケそうね」


「ウケそうじゃなくて、間違いなくウケるよ。ああ、なんか漫才を披露する日が待ち遠しくなってきたわ」


「浮かれ気分のところ悪いけど、学校ネタはこれでいいとして、その後はどんなネタにしようか?」


「せっかく名案を思い付いたんだから、もう少し余韻に浸らせてよ」


 そう言うヨッシーを尻目に、私は家族のことをネタにしようかと考えていた。 

 


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る