第13話 コンビは仲の良さが大事
昼休みに弁当を食べた後、私たちお笑い研究部メンバーは福山君の席に集まり、いつものように紙マージャンを始めるのかと思っていると、三場君が改まった顔を向けてきた。
「みんな、ちょっと聞いてくれ。昨日ネットで見たんだけど、七月に18歳以下の中高生を対象とした漫才大会が開催されるんだ。その大会はまず地方予選があって、それに勝ち抜いたコンビが東京で行われる決勝に行けるんだけど、そこで優勝したら、なんと賞金百万円がもらえるんだ」
三場君はいつもより少しテンション高めでそう言った。
「お前、もしかしてその大会に出ようと思ってるのか?」
「ああ。大会が始まるまでまだ二ヶ月あるから、今からコンビを組んで練習すれば、十分間に合うよ」
「そうかもしれないけど、優勝はさすがに無理だろ」
「そんなの、やってみないと分からないじゃないか。参加するのはみんな学生なんだからさ」
後ろ向きな福山君に対し、三場君はやる気満々だ。
「あたしは参加したいな。なんか楽しそうだし」
参加を表明する吉田さんに、私は透かさず賛同する。
「私も昔からお祭り好きだから、参加しない手はないわ」
三対一の図式が出来上がり、福山君は一気に形勢が不利になった。
「仕方ねえな。じゃあ、俺も参加するよ。その代わり、やるからには優勝を狙って、とことん練習するからな。誰が俺とコンビを組むのか知らないけど、その覚悟はしとけよ」
「そういえば、どうやってコンビを決めようと思ってるの?」
吉田さんが三場君の方に顔を向けながら訊ねる。
それは私も気になるところだ。
「そうだな。まあ同性同士で組むのが無難だけど、もし男女コンビの方がいいと言う人がいれば、意見を聞くよ」
「前も言ったけど、俺は男女コンビより同性コンビの方がいい」
「あたしはぶっちゃけどっちでもいいかな。どっちのコンビにもメリットとデメリットがあるし、どちらがいいとは一概に言えないから」
「私は男女コンビの方がいいかな。大会に参加するのは同性コンビが圧倒的に多いだろうから、男女コンビだと審査員の印象に残りやすいと思うの」
それが実現できたら、ネタ作りやネタ合わせを一緒にすることができ、今よりずっと距離が縮む。
「なるほどね。まあ池本さんの言うことも分かるけど、目立つだけで面白くなかったら、結局勝ち進むことはできない。だからここは、同性コンビでいった方がいいんじゃないかな」
「……そうね」
男女コンビを推しているのが私だけだったため、どう考えても旗色が悪く、私は三場君の言葉を受け入れるしかなかった。
今日の部活のテーマは漫才コンビ。
昼休みにそれぞれコンビが決まった私たちは、ネタ作りとネタ合わせを始める前に、今一度漫才コンビとはどのようなものかを話し合うことになった。
「まあ分かりやすく言えば、ボケとツッコミだよな。たまにダブルボケとか、特殊な漫才コンビもいるけど」
「あたし、前から気になってたんだけど、漫才コンビってボケとツッコミをどうやって決めてるんだろうね」
福山君の言葉を皮切りに、吉田さんが以前から疑問に思っていたことを訊いてくる。
「それは性格的なことだと思う。大きく分けると、人にはボケに向いてる性格とツッコミに向いてる性格があって、それぞれ自分がどちらなのかを判断して決めてるんじゃないかな」
「じゃあ例えば、どちらもボケに向いてる性格だったら、どうやって決めるんだ?」
私の意見に、透かさず福山君が疑問を呈してきた。
「……その場合、じゃんけんで決めるとかしてるんじゃないかな」
よく分からなかったので適当に答えると、三場君の豪快に笑う声が聞こえてきた。
「はははっ! 案外、そんなものかもしれないな。無理やり、どちらかをツッコミにするより、その方が後々揉めなくて済むからな」
三場君はそのまま笑顔を向けてくる。
もしかして私を助けてくれたの?
「今は仲が良い漫才コンビがもてはやされてるけど、それってどうなんだろうな? 本当は仲が悪いのに、それだと番組に呼ばれにくいから、仲が良い振りをしている漫才コンビって結構いると思うぜ。あと昔は、仕事以外はいっさい口を利かない漫才コンビが結構いたみたいだけど、それでも人気はあったらしいんだ。今とはえらい違いだよな」
福山君がさらりと衝撃の言葉を吐く。
どのコンビのことを言ってるのだろう。
「昔は実力さえあれば、二人の仲なんてどうでもよかったんだよ。でも今はそうはいかない。実力プラス仲良しでないと、真の人気コンビにはなれないんだ」
三場君の言うことに私は深く頷く。
いくら面白くても、仲が悪いコンビの漫才は観たくない。
「じゃあ、あたしたちも、もっと仲良くしないといけないね。カアちゃん」
吉田さんがそう言いながら微笑みかけてくる。
私的には、そこまで深く付き合いたくはない。
「今のままでいいよ。だって私たち、十分仲良しじゃない」
言葉とは裏腹に、私はこの先彼女とコンビとしてうまくやっていける自信はなかった。
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