第11話 第一回南野先生を褒める王選手権

 今日の一時間目は道徳。

 議題はずばり『褒める』。

 外国人男性と比べ、女性を褒めることが苦手とされている日本人男性が、どうすれば照れることなく褒めることができるのかを話し合うという。


「そもそも、褒める側が照れるというところがおかしいんです。これは褒めることに慣れていないから起こる現象で、慣れさえすればなんの躊躇もなく女性を褒めることができるようになると思うの。というわけで、今から一人ずつ指名していくので、当てられた人はどこか一つ私を褒めてください。その中で私を一番キュンとさせた人は、後でご褒美をあげます」


 南野先生の突拍子もない発言に、教室内はたちまち騒然となった。


(この人、正気なの? どうしたら、そんな発想が出てくるのよ)


 そんなことを思っているうちに、じゃんけん大会以来のくだらない戦いが始まった。


「じゃあ、まずは赤城君」


「はい。先生は褒めるところがいっぱいあるけど、その中でも僕が一番好きなのは、やっぱり顔かな。文字通りその辺のアイドル顔負けのその美しさに、僕は毎日、目の保養をさせてもらってます」


「へえー。最初にしては、なかなかいいじゃない。この調子でどんどんいこう。じゃあ、次は石田君」


「はい。自分が先生の一番気に入っているところは声です。その耳触りの良い声に、いつも癒されています」


「なるほど。声を褒められることはあまりないけど、意外と悪くないわ。じゃあ、次は岡田君」


「俺は性格かな。まず基本的に優しいし、思いやりもある。あと、サービス精神旺盛なところがたまらなくいいな」


「外見を褒められるのも嬉しいけど、性格を褒められると、なんかまた別の喜びがあるわ。じゃあ、次は──」


 その後、頭がいいとか字がきれい等の回答を得た後、いよいよ三場君に回ってきた。


「じゃあ、次は三場君。お笑い研究部部長だからといって、笑いを取ろうとしなくていいから、素直に感じたままを言ってね」


「はい。僕が常日頃先生に感心してるのは、良い悪いは別にしてずっとキャラを貫いているところです。たとえすべての女子を敵に回しても、男子を喜ばせようとするところは、観ていて清々しささえ感じます。これからもずっと、そのキャラを守り通してください」


(おおっ! さすが三場君。他の男子たちみたいに媚びることはせず、堂々と本音をさらけ出してるわ)


「なんかあまり褒められてる気がしないんだけど……まあいいわ。じゃあ、次は──」


 その後も、スタイルがいいとか髪型が似合ってる等の回答を得て、男子たちの戦いは終了した。

 ちなみに福山君は、肌が白いと褒めていたけど、先生にはピンときていない様子だった。

 

「では発表します。私を一番キュンとさせたのは──」


 南野先生はこの後、十秒くらい間を置いた。

 そんな演出はいいから、早く言ってよ。


「顔を褒めてくれた赤城君です!」


「やったー!」


 よほど嬉しかったのか、赤城君はバンザイしながら喜びを表している。


「じゃあ約束通り、ご褒美をあげる。赤城君が私に言ってもらいたいことを、耳元で囁いてあげるわ」


 途端、騒ぎ始める男子たち。

 そんな彼らに、私たち女子は冷めた目を向ける。

 

「じゃあ、『赤城君、勉強頑張ってね』でお願いします」


「分かった。じゃあいくよ」


 男子たちの嫉妬の目が向けられる中、南野先生は赤城君に近寄り、「赤城君、勉強頑張ってね」と、耳元で囁いた。

 すると、赤城君は恍惚の表情を浮かべながら、へなへなと崩れ落ち、そのまま床に横たわった。

 私は衝撃の光景を目の当たりにし、改めて南野先生の破壊力を思い知らされた。




 今日の部活のテーマはコント。

 漫才ほどではないにせよ、みんなが興味を持っていることは間違いない。


「コントって演技力が重要だから、ある意味漫才より大変だよな」


「そうね。演技が下手だと、コント自体も面白くなくなっちゃうもんね」


 福山君の意見に透かさず吉田さんが乗った。


「コントって、普通のコントとショートコントがあるけど、私はどっちかというと、ショートコントの方が好きだな。短い時間で笑わせるショートコントは、今の時代に合ってると思うし」


「確かに、現代人は昔の人と比べて集中力が減ってると言われてるから、ショートコントの方が好きという人は多いだろうな。でも、作り込んだコントは味があって面白いし、僕はそっちの方が好きだな」


 漫才に続き、またしても三場君と意見が分かれてしまった。

 

「あたしはショートコントの方が好きだな。普通のコントだと長過ぎて、途中で飽きることがよくあるから」 


「それは集中力が足りないからだよ。コントなんて長くても十分くらいのものだから、それくらい我慢しろよ」


 せっかく吉田さんが賛同してくれたのに、福山君はそんな彼女にダメ出しをする。

 私たちは我慢ができない女なんだよー。


「まあ結局、ショートコントと普通のコントの両方をこなせないと、生きていけない世界なんだろうな」

 

 まとめに入った三場君を観ながら、私はショートコントの方が好きと言ったことを強く後悔していた。

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