第5話 お笑い研究部発足!
福山君の方も三場君がうまく説得したみたいで、とりあえずこれで四人揃った。
放課後、再び岡部先生と交渉するため、私たちは四人揃って職員室に向かった。
「先生、四人集まったので、お笑い研究部を立ち上げてもいいですよね?」
私たちを代表して三場君がそう言うと、岡部先生はなぜか不機嫌そうな顔を向けてくる。
「ところで、そのお笑い研究部って、どんな活動をしようと思ってるんだ?」
「基本的には、それぞれがお笑い全般に関するものを研究し、それについてディスカッションしようと思っています」
「それって、やろうと思えば一人でもできるよな? わざわざクラブを作る意図がよく分からないんだけどな」
今更そんなことを言う岡部先生に、私は怒りの目を向ける。
「三場君が言ったことを聞いてなかったんですか? ディスカッションは一人ではできないですよね?」
「なんのためにディスカッションするんだ?」
まったくやる気を見せない岡部先生に、今度は吉田さんが噛みつく。
「先生、本当は顧問なんかやりたくないんでしょ? だから、そんなことばかり言って、逃げてるんだよね?」
「ほう、なかなか鋭いな。まあ本音を言えば、君の言う通りだよ。南野先生に頼まれたから嫌と言えなかっただけで、本当は顧問なんて面倒なことはやりたくないんだ」
およそ教員とは思えないようなことを平然と言う岡部先生に、今まで黙っていた福山君がおもむろに口を開く。
「先生、そんなこと言わずに、やってくださいよ。部活動は俺たちだけでやりますし、先生の手を煩わすことはありませんから」
「だが、クラブを立ち上げるとなると、予算とかも決めないといけないからな」
「予算なんていりませんよ。部室さえ提供してくれれば、それでいいです」
煮え切らない岡部先生に、三場君が思い切ったことを言う。
本当に予算がなくていいの?
「うーん。君たち、どうしてもやりたいの?」
「はい」
吉田さんが真っ先に返事をする。
さっきまで、あまり乗り気じゃなかったのに。
「分かった。じゃあ、顧問を務めることにするよ。但し、俺は活動には関与しないから、君たちも俺を頼るなよ」
「はい! ありがとうございます!」
三場君がお辞儀しながら礼を言う。
私たちもそれに倣い、頭を下げた。
「じゃあ、この校舎の四階の角に空き部屋があるから、そこを部室にすればいいよ」
岡部先生はキーボックスから鍵を取り出し、三場君に渡した。
私たちはすぐさま四階まで階段を駆け上り、今日からお笑い研究部の部室となる空き部屋の前に立った。
「じゃあ開けるよ」
三場君が右手に持った鍵を鍵穴に差し込み、ゆっくりとドアを開けた。
すると──。
「ゲホッ! ゲホッ!」
中に溜っていたホコリが、ドアを開けた瞬間一気に外に押し出され、三場君は激しくせき込んだ。
「うわあ、これはとても部活動どころじゃないな」
「とりあえず、みんなで掃除しようか?」
「賛成!」
私たちはロッカーから、ほうきと雑巾、バケツを取り出し、部屋を掃除し始めた。
「ここ、絶対何年も掃除してないよな」
福山君がホコリまみれの大机を雑巾で拭きながら、誰となく言う。
「多分、何年か前までどこかのクラブが使ってて、廃部かなにかで使わなくなったのよ」
吉田さんがそれに答える。
私もそれと同意見だ。
やがて掃除が終わると、私たちはそれぞれ男同士、女同士でペアを組み、大机を中心に対面する形で座った。
「じゃあ、部活動を始めるにあたって、軽く自己紹介しとこうか」
三場君はそう言うと、前にしたのとまったく同じ挨拶をした。
でも、さすがに小話はやらなかったけど。
挨拶を終えた三場君は透かさず仕切りに回る。
「じゃあ、次は福山君どうぞ」
「福山智弘です。俺は三年間帰宅部で過ごすつもりだったんだけど、三場に説得されて、泣く泣く入部しました。……というのは冗談です。説得されたのは本当だけど、入部は自分の意志で決めました。元々お笑いが好きで、今はやる気に満ちているので、よろしく」
「じゃあ、次は吉田さんどうぞ」
「吉田恵美です。あたしは昔から『ヨッシー』と呼ばれているので、みんなもそう呼んでね。あと、あたしもお笑いが好きなので、ゆくゆくはこの中の誰かとコンビを組んで、漫才かコントをしたいな」
「じゃあ、最後に池本さんどうぞ」
「池本カラスウリです。私もみんなと同じくお笑いが好きで、お笑いのことをもっと知りたくて入部しました。これからみんなで一緒に頑張りましょう」
私の言ったことは半分は本当で半分は嘘だ。
お笑いが好きなのは本当だけど、お笑いをもっと知りたくて入部したわけじゃない。
三場君と少しでも長くいたいから、そうしたんだ。
「じゃあ次に部長を決めたいんだけど、誰か立候補する人はいますか?」
「それは言い出しっぺの三場がやればいいんじゃないか?」
福山君がそう言うと、私と吉田さんは共に大きく頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えて部長は僕がやります。次に副部長を決めたいんだけど、誰かやりたい人はいますか?」
途端、福山君と吉田さんがソッポを向く。
これは願ってもないチャンスかも。
「じゃあ、私やろうかな。元々、二人だけで立ち上げる予定だったし」
私は変な言い訳をしながら立候補し、それは当然のごとく認められた。
こうして我がお笑い研究部は本日発足し、明日から本格的に活動することになった。
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