第10話 リジョイン パート2
統一暦4057年4月14日
現在の銀河では多数の種族や国家が存在し、宇宙航行をはたしている。そして現在の「人間」の定義は「一定の文明があり、思考力、コミュニケーションがとれる存在」としている。異星種族同士がコミュニティを作るのも当たり前の時代となった。
ヴァイタル・アームズ・テクニクス社(通称:
一部のライバル企業達からは「
ユーリシア連邦に本部を置く業界最大手の民間軍事会社、顧客達には「大手兵器ディーラー兼危機管理コンサルタント企業」と銘打っている。
元々VAT社の前身は統一暦4000年頃に発足した名もなき小規模な傭兵達の寄り合い所帯程度の規模だったのだが、4011年に突如一人のドラゴニュート族が傭兵達の指揮官兼CEOとして君臨、その直後に「ノイ・オストーパ・セキュリティ」という名で法人化の登録と株式上場が行われる。その後ライバル傭兵部隊の吸収や中小の兵器製造メーカーとのM&Aを繰り返し、銀河でも有数のグループ企業へと成長した際、現CEO"ヴァイル・ドラゴフ"の名をとって"ヴァイタル・アームズ・テクニクス"へと社名を変更した。
最大手兵器ディーラーとして軍需産業関連を手広く掌握しており、兵器開発・製造・流通を一手に担っている。特に歩兵用装備・無人兵器・軍用ソフトウェア並びハードウェアは他の追随を寄せ付けず、その高い技術力は多くの軍・警察果てにはISIAまでもが、VAT社の装備を高く評価している。
もう一つの稼ぎ頭「傭兵斡旋」・・・傭兵達の中には戦争を望んで雇われる者も居るが大半の者は治安維持活動、物資護送、法人・個人向けセキュリティ、警察・法執行機関の業務委託等を引き受ける"民間警備部門"に配属されるのがほとんどである。数十年前までは連邦出身が大多数を占めていたが、ある時を境に銀河中の国軍、傭兵、民間、出自を問わず受け入れている。
~2週間後 カルパステーション 実験棟 B-21実験室~
この無機質で巨大な実験室のど真ん中で大量のPCやサーバー、工具やら部品やらに囲まれている"RE21"ー"ウォーハウンド"が四脚の足を折り曲げ、鎮座している。
そのウォーハウンドの周辺で
「うーん・・・やっぱり、モーターの発熱をどうにかしないと、実戦投入どころか実地試験もままならないね」
「モーターは我が社の"NEC24-C"を試してみましょう!砂漠や火山地帯等の酷暑環境での利用を前提に設計されてるので、発熱を可能な限り抑えられます。排熱の問題は・・・」
「背面武装近くにもう一つ空冷却用の排熱口を増設すればイケるかな?一度オルカと相談してみるよ」
リコが多数のエンジニア集団と共に、壁一面に張り付けられたウォーハウンドの設計図、仕様書の前に立って議論を重ねている。
そこに、このプロジェクトを主導している人類の女性”レジーナ・マリン・ガルシア”が金庫を思わせるような厳重な施錠された箱を両手に抱えながら「はーい!皆んな!スミスから"例の試作品"が届いたわよー!」と声を張り上げながら近づいてくる。
リコ達が囲む無機質な長テーブルの上に慎重にそっと箱を置くレジーナ。
「よく聞いて!スミス曰く、"コレはまだ試供品だから火気厳禁は勿論、荒っぽく扱うのも御法度"って言いつけられてるから、ちゃんと守る事・・・イイわね!」
レジーナが箱の上部にある指紋認証式の電子ロックを解除すると、プシューという音と共に内部から現れたのは、片手に収まる大きさで砲弾にも似た形状、それが5つほど存在し、それぞれ分かりやすく色分けされていた。
これはスミスが開発したウォーハウンドに搭載するグレネードランチャーで利用する専用の弾頭である。
「熱暴走の問題を解決次第、運用試験を再開するわよ!さぁ!作業を始めましょう!」
「「「了解!」」」エンジニア達が一斉に散会する。
「ねぇリコ!これからISIA技術部門への定期報告があるから一緒に来てちょうだい。あなた達に任せてる武装と一部ハードウェアについて報告して欲しいの」
「オッケー・・・っと噂をすれば向こうから・・・」
リコの視線の先から淡い青色としっとりとしたクラゲにも似た感触でコーティングされた肌、その上に白衣を羽織り、左手にタブレットを持ったアサリの女性が1人近づいてくる。
「どうもレジーナ、プロジェクトについて"チョットした"質問がしたくてね・・・電話を3回もかけたのに出ないからコッチから出向いたわけよー」
「この時間帯は忙しくて対応できないって言わなかったかしら?それに、その"チョットした"質問が今週何回目なのよ?まぁちょうど良いわ定期報告のついでに聞いてやろうじゃない」
「あら?そちらにいるのは、キーパーズのリコですか?」
「あっ!ハイ、どうも・・・」
「レジーナと仕事するのは大変じゃないですか?」
「いえ、そんな事は・・・ハハ」(もしかしなくてもコレ、結構な修羅場に巻き込まれたヤツだよね・・・ツイてないねー)
リコは目の前で繰り広げられるバトルにただ黙って空気になるしかなかった。
~同時刻 カルパステーション 屋内訓練所~
「いいですか?ただ正確に狙う事だけに集中するのはもう時代遅れです。これからは動きながら、早く、正確に撃つ技術が求められ・・・」ギャレスが大勢の兵士達相手に射撃に関する知識と技術を教え込んでるのをアーセルス、フルーム、オルカが離れた場所から見守っている。
「ギャレスの奴、意外と教えるのうまいんだな・・・」「射撃の技術はチームイチですからね。安心して見てられます」
オルカが手すりに腕をついて寄りかかり、フルームが腕を組んで周囲を見渡す。アーセルスは小さなコンテナに腰を下ろし、ゴクゴクと(見たこともない味の)ジュースを飲んでいる。
「ぷはぁー・・・なぁオルカ、あの訓練を受けてる傭兵連中にアンタの顔見知りがいたりするのか?」ジュースを飲み終えたアーセルスがギャレスの指導を受けているヴァイタル・アームズ・テクニクスの社員達を横目で見ながらオルカに尋ねる。
「いや、知らない連中ばかりだな・・・大方この”コヴナント領域にいる民間警備部門の社員を連れてきた”ってところだな。俺は連邦領域とその周辺の依頼を請け負うことが多かったから、ここら辺に知り合いはいないはずだ」
「民間警備部門?・・・なんだそれ?」
「おっと説明してなかったか、ヴァイタル・アームズ・テクニクスは軍産複合体の集大成って話しは前にしたよな?兵器の製造・開発・卸売り、傭兵の斡旋、中小国に対する軍事指導、輸送網の貸与まで手広く携わっているんだが、傭兵斡旋業務の中でも戦争・紛争地に派兵される”戦闘部門”と民間の警備や国からの警察業務を請け負う”民間警備部門”の二種類ある。あの連中の装備と部隊徽章を見てみろ」
アーセルスは紺色のアーマーとバトルギア、"黒く塗りつぶされた狼"の徽章を装備した様々な種族の傭兵達を見てみる。
「連中の多くは元警察や軍人、多少腕の良い民間人上がりがほとんどだ。そう言う俺も昔は民間警備部門に所属してたんだがな」
「なら戦闘部門はどんな連中が所属してるんだ?」
「さぁな・・・全身を真っ黒なフルフェイス型の最新バトルアーマーを装備してたうえ、ボイスチェンジャーやコードネームを用いて個人情報の秘匿を徹底していたから、見た目から種族の推測をするのがせいぜいだったな。ただ・・・」
オルカが一瞬黙り込む
「妙に腕がたつ奴が多かった、恐らく元特殊部隊上がりばかりだろうな」
「あんたもそこにいたんだろ?」
「まぁな」オルカが少し俯き暗い表情に変わる。
それを見たアーセルスはそのもったいぶった態度に対して、より興味をそそられたのか、勢いよく立ち上がるとオルカの横に立ち並ぶ。
「なぁ!オル」アーセルスがオルカに声をかけようとした瞬間、突然ダダーン!ダダーン!といくつもの激しい銃声が屋内訓練所全体に響く。音の出所を見てみると、大勢の銃を持った兵士達が、ギャレスのアドバイスを受けながらの射撃訓練を始めていた。
(チッ!タイミングが悪いな・・・イヤ、むしろ絶好のタイミングか・・・)
「なぁフルーム!ジュース買ってきてくれよ」
「自分で行きなさい!・・・と言いたいですが、ちょうど私も喉が乾いて何か買ってこようかと思ってたところです。テキトーに何か持ってきますが文句は言わないように!」
「あいよ」
「全く・・・最近の若者は」と小言を漏らしながらジュースを買いに行くフルームを見届ける2人。
アーセルスはオルカと2人っきりになったことを確認すると、オルカの耳に顔を近づけ、「なぁVATに居た時に何があったか教えてくれよ」とヒソヒソ囁くように話しかけると、オルカは一瞬驚きの余り目を見開いたが、すぐさま平静を取り戻す。
「それを聞いてお前に何の得がある?」
「リーダーが気にしてそうだったからついな」
「ギャレスがお前に喋ったのか?」
「いや、ここに来た初日、バラン?アレ、バレン管理局長だったか?との謁見を終えた後、リーダーとアンタが2人っきりでどっか行ってただろ?その後からリーダーが妙にアンタの事をチラチラ見て気にしてそうだったからもしかしてと思ってな」
「はぁー・・・」大きなため息を吐きながら顔を俯かせるオルカ
「良いか?アイツにも言ったことだが、VATの連中と個人的なゴタゴタがあるのは事実だ!だがなそれでお前らに迷惑をかけるような真似はしねーよ!」訓練所全体に響くであろうオルカの怒声は、多数の銃声によってかき消される。
オルカは更に話しを続けようと、僅かに口を開くがそこで動きが止まる。視線の先には両手にジュースを持ったフルームがこちらに歩み寄ってきているのがわかった。
"ゴホン"と軽く咳き込むと"コレで話しはおしまいだ"と伝えるかのように、オルカはそっぽを向いてしまう。
(流石に話してくれないか・・・)寄り付く島もない様子に一度手を引くことにしたアーセルスはフルームの方に体を向ける。
「ハイ、どうぞ」フルームから渡されたジュースをマジマジと見つめるアーセルス
「えっ・・・この味あんまり好きじゃ無いんだが」
「文句いうなって言いましたよね!」パーン!と小気味良い破裂音に似た音が響くのと同時に、フルームのローキックがアーセルスのくるぶしに見事クリティカルヒットした。
〜 実験棟 B-21実験室 ~
健気に動く働きアリのごとく、"ウォーハウンド"の周囲をエンジニア達が忙しなく動き回るのを横目に、リコは未だ女同士の静かな争いに巻き込まれていた。
「ねぇレジーナ、ここの予算と工数ってちゃんと計算できてるの?モーターやら排熱の問題が発生してるみたいだけど?」
「その問題はウチの技術チームとリコ達のお陰で解決の糸口が見えたばかりなの!1週間以内に再計算したモノを渡すから少し待っててちょうだい」
(あー・・・誰か助けてちょうだい)リコは心労のせいか、頭上にある三角の耳はぺしゃりと潰れ、陰鬱とした表情を醸し出している。
あまりの白熱っぷりに周囲の人々はリコに同情の眼差しを送るしかできなかった。
(あぁ、そろそろ限界・・・)
この場からコッソリ抜け出そうとしたその時、「リコ!レジーナ!何してんだ?」聞き馴染みのある声がリコの耳に届き、嬉しそうにピクッと耳を動かす
三人が一斉に声のする方を見ると、そこには呆れた表情でコチラを見ているスミスがいた。
「スミス!!」
リコは先ほどまでのどんよりとした表情が一変、水を得た魚のように生き生きとした様子を見せるが、彼女たちへの恐怖心は薄れないのかサッとスミスのそばに走り寄る。
「お前ら・・・リコに何した?」目の前にいる二人の女性に対して、ゴーグル越しからでもわかる程の鋭い眼光を浴びせるスミス
レジーナがニコニコと笑顔を見せながら「何でもないわよ、ただ・・・ちょっとこのアサリの女と"話し合い"をしてただけよ」と答えるが、冷たい目線だけはアサリの女性に向けられていた。
「はー・・・ったく俺はもう慣れたが、リコはこの状況に初めて遭遇してるんだぞ。少しは気を使ってくれ」
「あらゴメンなさい。ところで何でここにきてるの?アナタ別室で自作の爆弾を点検してたはずじゃ・・・」
「おっと忘れてた。ちょっと前に"ウォーハウンドに搭載するグレネードランチャー弾"の試作品を渡しただろ。あれの設計図の共有とスペアをどれだけ作ればいいか聞いてなかったことを思い出してな、チャットも電話もずっと返答がなかったからわざわざここに足を運んできたってわけだ」
「そんな事だったの、じゃあ後で諸々の詳細を送っておくわね」
「頼むぞ、じゃあ俺はこれで・・・」要件を終えたスミスはクルリと体を反転させ、一歩を踏み出そうとしたその瞬間、「待ちなさい!スミス!」と甲高い声が響く。
「アナタにも言いたい事が山ほどありますよ!」アサリの女性がドスドスとスミスに歩み寄る。
「なにか?」当のスミスはめんどくさそうな雰囲気を隠そうともせず振り返る。
「アナタの発案したグレネードランチャー!本来は催涙ガス弾専用だったはずでしょう!?それなのに、可燃性の燃料を射出する"ナパーム弾頭"に、鋼鉄の矢を炸裂させる"フレシェット弾頭"だなんて・・・リヒテンディッド平和条約に違反するスレスレよ!」
ヒステリック気味に喚き散らすアサリの女性に言葉を遮るかのように、沈黙を保っていたリコが「はー」と分かりやすく大きなため息を吐く。
「じゃあ聞くけど、その条約を作ったのはどこどいつなの?僕達と同じ技術者なの?違うよね?大抵は本物の戦場を見たことない政治家や扇動家・・・いわゆる"活動家"って連中でしょ?!ソイツらのせいでいくつの技術革新の芽が潰されてきたと思ってるの?」
リコが鼻息を荒くさせながら、捲し立てていると、スミスの手がリコ肩に触れる。チラリと目線を向けると"落ち着け"と言わんばかりに、フルフルと頭を左右に振るスミスが目に入った。
不服そうに口を尖らせながらも押し黙るリコに変わって、スミスが口を開く。
「今更何だ?俺達がモノを作って、お前らが成果物を受け取る。それだけじゃないのか?道徳やら人道やらそんな"くだらない事"後でいくらでも話し合えるだろ?」
スミスの言い分に絶句してしまったアサリの女性。
「スミスの言う通り、我々は問題解決のため一致団結しなきゃならないの、アンタの個人的な信条に結果を左右される訳にはいかないのよ!・・・あぁシステムの必要要件やリヒテンディッド平和条約の抵触、後コストの面を気にしてるの?それなら安心して良いわ、ウチのチームが"キッチリ"仕上げるから」
レジーナの言葉を聞いてたアサリの女性は途中からワナワナと体が震え出す。
「あなた方の言い分はよく分かりました。この事は上層部に報告させていただきます!」
そう言い残し、アサリの女性はズカズカとその場を立ち去っていく。
「あーらら・・・怒っちゃいましたね」と心配そうな口ぶりをしているが、冷めた眼差しをアサリの女性の背中に送るリコ
「大丈夫よ!あんな女にどうこうできる権限はないのよ!」
「"既にISIAとVATで密約をかわしてるから"・・・だろ?」
スミスがニヤリと笑みをこぼしながらレジーナに視線を送る。
当のレジーナは「さぁ何のことかしら」とシラを切るつもりのようだ。
「酒の席で聞いた話しなんだが、この"ウォーハウンドプロジェクト"を含め、VATが協力している兵器開発プロジェクト・・・出資金の8割をVAT側が負担してるらしい。普通"企業"ってヤツは支出を抑えようしたがる筈なんだ、ISIAのような"慈善団体"とは違ってな。なら何でこんなに金を払うのか・・・」
「それ以上にリターンがあるから?」リコが首を傾げながら答える
「例えば、"民間軍事会社VATが作った兵器です!"より、"銀河全域で治安維持活動家を行うVATとISIAが共同で開発した警護ロボットです!"の方が口触りが良いだろ?」
「なるほど・・・でもたったそれだけの為に何千万・・・イヤ、他のプロジェクトを含めれば何億コームって大金をかける意味あるの?VAT社製ってだけでも結構な拍がつくのに?」
「ならこう考えてみろ"金が欲しいわけでは無いが、技術と戦力が欲しい勢力"と"多少の出費は厭わないが、自分達の正当性や知名度、ついでに人材が欲しい勢力"・・・ってな」
「でもそれはアナタの勝手な思い込みでしょ?」
「まぁな、だがウォーハウンドを含めた"共同開発した兵器の販売許諾"の件はどう説明するんだ?」
「チッ!?」突然レジーナの表情が険しいモノになる。
「おや?図星だったか?」スミスが余裕の笑みをこぼす
「ISIAが製品の販売許諾?そんな事できるの?」
「ISIAの販売許諾権が行使される事自体が稀で、ここ50年一度も行われていなかった。まぁ数千年ってISIAの歴史の中で二桁程しか行われていないからな、知らない奴も多い。」
「ほー・・・じゃあ利益はどうなるの?ISIAはあくまでも諸国家機関の傘下ではあるから資金関連の規則は厳格に定められていた筈だけど・・・」
「原則、私的な資金運用は禁止されているが、逆に利益を受け取ったりしなければ、違反にはならない・・・例えば"売り上げを全額協力企業に譲渡する"とかな」
「ワォ!それが事実ならとんでもない量のお金が動くんじゃない?!」
「ISIAが販売許諾権を行使した・・・コレだけで大ニュースとなってVAT社と関連製品のPRができるうえ、正当性も保証される。そんな状況から生み出される利益も独占できるときたなら数千万、イヤ、億単位の出費をするだけのメリットが生まれるわけだ・・・違うか?レジーナ?」
「・・・アナタ何処でそんな情報を?!」
「世の中の情報漏洩、その多くが"ヒューマンエラー"によるモノが殆どだ。この事をお前の上司に伝えとくんだな!」
平静を装っているが、心なしか自慢げな空気を醸し出すスミス。
「なるほど・・・確かに、ウチの会社にバカ野郎が混じっていたことは認めるわ、でもね・・・コレを見てもそんな態度でいられるかしら!」
レジーナは側にあったタブレット端末を手にして2人に見せる。
「コレは・・・俺がウォーハウンドに使うグレネードランチャー用の弾頭だな?」
「コッチは僕が組み込んだ駆動系のソフトウェアだね・・・で、コレがどうしたの?」
2人が揃って首を傾げる。
「このデータはね・・・何年か前に連邦のサイボーグ犯罪組織"シンタックス"の連中に奪われたデータなのよ!」
「ふーん・・・シンタックスか、うん!?」スミスが突然、目を見開き、大声をあげる。
「あら、やっと気づいたの?このデータはね、惑星サピエンツァ、ネオンシティにあったデータセンター"デンテン"に保管してたのだけどね、3年前にシンタックスの攻撃を受けたの、その際とある爆弾処理要員のお陰でデータの完全破損は免れたのだけど、奮闘虚しく一部データが抜き取られていたのよ・・・その抜き取られていたデータを何でアンタ達が持ってるのよ!」
((あのデータ!元々お前らの物やったんかい!!))
〜1週間程前 カルパステーション 解析室〜
ここは大量のデータ解析を行う事に特化しているサーバールーム。
この部屋にはほぼ全域に渡り、大量の量子サーバーが配置されており、その真ん中にはポツンと1人用のデスクとイス、そして解析用の高性能PCが一組ずつという殺風景な部屋。
そしてここに居るのは、件の高性能PCを操作しているリコと、その画面をかぶりつくように見ているスミスの2人だけ
カタカタカタとキーボードのタイピング音とサーバーの稼働音が鳴り響いている。
すると
「いやーすんごいね!技術の宝庫だよ!」リコが歓喜の声をあげる
「確かに!使えそうなデータが山ほどあるな!やっぱり"シンタックス"の連中が持つテクノロジーは一味違うな!」スミスもまた同じようにハイテンション気味に声をあげる
「リコ!"あの時"サーバーを探るのは良い判断だったな!」
そう彼等が閲覧しているデータは2ヶ月前に起きた、「キーパーズによる惑星ギャター内にあるシンタックスの物流の要所、フラック襲撃」の際リコが隙を見つけてダウンロードした違法なデータ群である。
「いやーこの大量のデータを処理できる機会がやっと訪れたんだから、見るなら今しかないよね!」
「リコ、ちゃんとログは消しとけよ!後から見つかったら面倒だ」
「わかってるよ!・・・お!この爆薬のデータ、スミスなら使えそうじゃない!?」
「コレは・・・後でじっくり精査する必要があるが、ウォーハウンドのグレネードランチャーの弾頭に使えるかもな!」
「コッチの"四脚犬型用戦闘ロボ"の駆動系・・・コレも応用出来るかも!」
〜現在〜
この場には
高圧的な態度を崩さない人類の女性レジーナ
「アナタ達が渡してきたデータが既存のモノに適用できすぎていたから本社の連中に頼んで調べてもらったのよ、そしたら3年前に盗まれたデータとほぼ合体・・・さらに残されていたログやコメントから当時、ウォーハウンドの試作機を作っていた技術者の名前が出てきたの、コレが決め手よ!まさかとは思うけど・・・アナタ達シンタックスのメンバーじゃないでしょうね?義体の中には生身の体と見分けがつかない製品も出回ってるからね!」
そして
((メッチャピンチ!))顔面蒼白、冷や汗がダラダラと滝のように溢れ出ている2人の人間、スミスとリコがそこに居た。
(考えろ!僕!この場を打開する方法が必ずある筈だ!いつだって工夫と技術!そして論理的思考で過酷な環境を生き残ってきたバルドクニアンの1人なんだ!・・・ハッ!一か八かこの手に賭けるしか無い!)
リコはオドオドした表情から、背筋を正しキリッとした顔つきに変わる。
「ちょっと待って!この技術はシンタックスのアジトを襲撃した時に見つけたデータでね!つい1週間前に解析したばかりで、出所を調査する暇が無かったんだよ!」
コレを聞いたスミスは一瞬ハッと驚いた表情を見せるが、すぐさま平静を取り戻し、自然な態度を装う。
「任務についての詳細とレポートはISIA内に公開されてるから調べてみると良い、協力企業の立場であるお前らなら・・・少なくとも概要くらいは提示してくれる筈だ」
「ふーん・・・わかった、一旦アンタ達のいう事を信じてあげる」
2人に対して懐疑の目を向けながらも、渋々思いを飲み込むレジーナ。そこにレジーナの部下がやって来る。
「レジーナさん!少しお話が!」
「わかった!すぐ行く!」
自身の部下と共に、急ぎ足でその場を後にするレジーナ
「なぁリコ」
「何?」
「お前・・・どこか危険物取扱資格を保有している人類を募集してる仕事を知らないか?」
「イヤな事言わないで・・・」
〜2週間後 実験室 B-21~
物々しい重厚な扉によって閉じられた実験室、その中では防爆性のアーマーとフルフェイスマスク、ヘルメットを着込んだスミスが一人ポツンとたたずんでいた。
「録画できてるか?」スミスが大きなガラスに向かって声を上げると、「オッケーいつでもいいよ」スピーカーからリコの声が大きく響く。
スミスが腕に着けている小型マイクに向かって「これより"RE21"ーコードネーム"ウォーハウンド"、バージョン9-3のテストを開始する」と語ると、腰につけていたタブレットを操作し始める。すると背後にたたずんでいた1.6mはありそうな四脚ロボットが動き始める。
ウォーハウンドは以前のテストと同じ動きを繰り返す。
(さて、最後のテスト、コレさえクリア出来れば晴れて実地試験に移れるが・・・)
「最後、"フェリックス"迫撃砲のテスト開始」
スミスがタブレットを操作すると、ウォーハンドは前脚を折り畳み。犬や猫が伸びをするような姿勢でピタッ動きが止まる。
ポンッ! という音と共に発射された弾頭が彼方を飛んでいく。
そして、以前と同じように260m先にある人形の密集地帯に球体が着弾すると、その周囲一帯が炎で包まれる。
一つ違う点は、リコの警告がない事だろう。
〜 しばらくして 〜
ガチャ
実験室から出てきたスミス
「お疲れ様」リコが笑顔で出迎える
「その様子だと上手くいったようだな」
「いくつか調整は必要そうだけど、僕達が出張る必要はもう無いかなって感じ」
「改めて協力に感謝するわ、お二人さん」
何処からともなく現れたレジーナにビクッ!と驚き、背筋を凍らせる2人
「早速、"アノ件"についてISIAに問いただしたのだけど・・・」
((終わったー!!))2人の顔から生気が徐々に失われていく。
「本当に感謝してるわ!疑ってごめんなさい」深々と頭を下げるレジーナ
「フラック襲撃だけでなく、デンテンの爆弾解体を行った張本人がスミス、アナタだとは思わなかったわ!何で言ってくれなかったの!」
「あっ!いや別にいう必要も無かったからな・・・ハハハ」パッと聞くとただ謙遜してるだけだろうが、スミスの乾いた笑いと、どこか遠くを見つめる目線が別の思いを持っている事を伝える。
「とにかく!私が代表して礼を伝えるわ!じゃあウォーハウンドの実地試験の要請を上に伝えて来るから失礼するわよ!」
そう言ってレジーナは駆け足気味に去って行った。
「ひとまず・・・危機は去った感じだね」
「リコ・・・今度一杯奢る」
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