第8話 レスト
統一歴4057年2月20日
現在の銀河では多数の種族や国家が存在し、宇宙航行をはたしている。そして現在の「人間」の定義は「一定の文明があり、思考力、コミュニケーションがとれる存在」としている。異星種族同士がコミュニティを作るのも当たり前の時代となった。
統一歴300年頃には異星種族同士がコミュニティを形成することも当たり前となっていたが長年にわたり悩まされてきた”言葉の壁”というのは大きな問題となっていた。統一歴500年頃に開発された高度なAIやゼロレスポンスデータベースを組み込んだ翻訳機”ピリーブド”は銀河全体に大きな影響を与えた。語学の勉強をすることなく相手が話している言葉がそのまま変換されるため、外交・経済・軍事などに新たな常識を与えた。現在もこの翻訳機は改良を続けられており、今ではスマホ等へダウンロードする以外にも服、アクセサリーのように違和感なく装着するタイプの需要も増えてきている。
現在、キーパーズは2月15日から始まった休暇を満喫している最中である。
~連邦領域 人類の母星 地球~
地球のメガロポリス”トーキョー”・・・とある酒場にて仕事終わりの人間達でガヤガヤと騒がしい店内のある一角にキーパーズの6人が酒盛りをしていた。
ダスクがジョッキに注がれていたビールを一気に飲み干し「ぷはー!やっぱり仕事終わりはアルコールに限るな!」と上機嫌に声を上げる。
「ほんと・・・ゴク・・・何で仕事終わりのアルコールってこんなに美味いんですかね?・・・ゴク」リコがカクテルをチビチビ飲みながら賛同する。
「それでスミス・・・アナタはジュースしか頼まないつもりですか?」フロートが酒では無くジュースしか飲んでいないスミスに目をとめる。
「あー・・・そういえば言って無かったか?俺はアルコールアレルギーでな、酒なんか飲んだらアナフィラキシーショックでぶっ倒れちまうんだよ」そう言ってスミスは羨ましそうに酒を眺める。
アーセルスが哀れみの眼差しを向け「そうか、それはツライな」とアーセルスらしからぬ優しい声で同情した・・・と思いきや「よし!追加で頼むか!」と提案し、更に酒を注文し始めた。
「コイツ、舌の根も乾かぬうちに・・・はぁ」スミスが諦めたようにため息を吐く。
ギャレスが仲裁に入る「まぁまぁ今回は任務達成のお祝いとダスクやフロートとの親睦会も兼ねてるんだから、楽しく飲まないと」
「その通りだな」アーセルスがバーボンを飲みながら同意するが、「誰のせいだと思ってるんだ?」とギャレスが咎める。
「オイオイ・・・大丈夫かよこのチーム」
「ISIAの人事部は優秀なチームだと太鼓判を押していたんですがね・・・」
ダスクとフロートは今後の不安と心配でアルコールが抜けてしまった気がした。
〜しばらくして〜
アーセルスが初任務時の話しを思い出し、「そういえば、スミスとリコはここ地球出身何だろ?」と問いかける。
「僕はここからかなり遠い場所だから"地元"とは言えないけど・・・」
「俺はここトーキョー出身だな」
ギャレスが羨望の眼差しを向け「良いな・・・俺が生まれ育ったソヴェールの田舎町とは違って何でも手に入りそうだ」
「まぁ地球にある都市、その中でも5本の指に入るくらいには発展してるからね」とリコが語る
ギャレス、アーセルス、リコ、スミスが先ほどのいざこざはどこへやら、普通に仲良く雑談しているのを見て、ダスクとフロートは(あぁコイツらは何やかんや落ち着くところに落ち着くのか・・・)と何故キーパーズがチームとしてまとまっていられるのか理解した。
「ということは、ここにスミスの家族がいるのか?」フルームの疑問にスミスは「あぁ、両親と姉がな」と返答する
「そういえばスミスのご家族の事聞いた事なかったけどどんな人達なの?」リコが興味津々に聞く
「父は爆薬・危険物質専門の科学者、母は爆破解体技師、姉は軍属の地雷解体部隊所属、そんな環境で育った俺が爆薬の専門家で
「ダスク、アンタの本名が気になるんだが?」
「確かにまだ言ってなかったな。俺の名前は"アルフレッド・オルカ"、"オルカ"で良いぞ」
「オルカさんも連邦軍にいたのですか?」フルームが質問する。
「あぁ連邦軍にいた時は第13機甲師団の砲兵大隊にいたぞ」
「第13機甲師団って・・・マニケアド共和国の内戦に支援目的で派遣されたと軍では教わったが、まさか!」
「もちろん!その紛争に俺も動員されていたぞ」
スミスが驚愕の声をあげるが、オルカは何とも無しにこたえる。
「どういう事だ?」アーセルスが話しについていけておらず、リコがある事を教える。
「4043年に連邦賛同国・マニケアド共和国で内戦が勃発してね。当時はテクノロジー革新と強力なバックアップが欲しかった政府側と古い宗教観に固執していた反政府側で争っていたんだけど、マニケアド共和国の良質な鉱物資源と人材、そして影響力の拡大を考えていたユーリシア連邦が人道支援の名目で軍事介入を行ったんだよ」
「その時に俺はいくつか勲章を貰ったがな」オルカが誇らしげに語る。
「で・・・その紛争が終わった後はどうした?」アーセルスが興味ありげに問いかける
「軍を辞めて
「ほーん、それは面白い話しだけど・・・それはそれとして、ギャレス君の様子おかしくない?」そう言ってリコがギャレスに顔を向けると他のメンバーもギャレスの事をみやる。
そこには机に突っ伏して気持ちよさそうに眠っているギャレスがいた。
「オイ・・・飲み始めてまだ30分も経ってないぞ」
「コイツ下戸だったのか」
「まぁでも、しばらくすれば起きるだろ」アーセルスが気にする事なく飲み続けると、「それもそうか」とスミスもアーセルスに続いて飲み始める。
〜地球時間 PM10時〜
「結局一度も起きなかったな」
「もう店出なきゃならんがどうするよ?」
スミスとオルカがどうするか悩んでいるとリコが「じゃんけんして負けた人がギャレスをホテルまで運ぼうよ!」と提案する。
「確かにここでゴタゴタしててもどうにもなりませんしね」
「乗った!」
フルームやアーセルスを筆頭に全員がグーにした手を出して、リコが合図する。
「行くよー!ジャンケン・・・」
〜ホテル〜
「何であそこでグー出して負けるんだ?」と眠っているギャレスをおぶってホテルに戻ってきたアーセルスが愚痴をこぼす。
宿泊している部屋の扉を開け、電気を点ける。その部屋は一般的なビジネスホテルと同じようなモノで、ベッドが2つ、テレビ、冷蔵庫、シャワー、トイレ等必要な物が一通りあるだけの部屋である。
「ホラ!そのベッドで寝とけ」
アーセルスがベッドにギャレスを放り投げると「・・・そう」とギャレスが小声で喋りかける。
「あん?なんだ?」「あーせ・・・は・・・そう」
「もうちょっと大きい声で言ってくれ」
「アーセルス・・・吐きそう」
そう言ってギャレスが口を手で押さえる
「は?」突然の事に一瞬固まるが、すぐさま我に帰り大慌てでギャレスを起こしてトイレに駆け込む。
「おまっ!まだ待てよ!」
「ゴメンもう無理・・・」
「えっ?!ちょっ!」
〜同時刻 トーキョーにある娯楽施設 バジリスク〜
スミス、リコ、オルカ、フルームの4人は「バジリスク」と呼ばれるトーキョーの歓楽街"カブキ"で最も巨大な娯楽施設に遊びに来ていた。
スミスとフルームが格ゲーの筐体で対戦しているのをリコとオルカが見守っている。
「そこで対空」
「あっ!」
スミスの攻撃がフルームに当たり、画面にKOと表示されてスミスの勝利が確定する。
「スミスのヤツ強くないか?」
「本当にゲーム上手いよね」
「コレで3連敗か・・・」
リコとオルカは感心し、フルームは悔しそうにしている。
「フルーム・・・1000コーム」
「はー・・・ホラどうだ」
「確かに」
スミスはリコ、オルカ、フルームから6000コームほど接収し、懐が潤い満足そうにしているが、「ヨシ!次はブラックジャックでもするか?」と"まだまだ金を回収してやる"と言わんばかりに勝負を吹っかける。
だがそんな楽しい空気がスマホの通知音でかき消される。アーセルスからのメッセージが全員に届いたのだ。内容は「助けが欲しい」とだけ書かれており何か問題が発生したことだけは伝わった4人はホテルへ急ぐ。
〜ホテル〜
「うん?・・・ここは?」ベッドで布団をかぶって眠っていたギャレスが目を覚ます
「やっと起きたか?」アーセルスがもう一つのベッドに腰掛けていたが、何故か"下着一枚だけ"しか着ていなかった。
「な!?・・・なんで裸?」とギャレスは驚くが自分の格好を見てさらに驚愕する。
「あれ!?俺も服が!・・・」自分にいたっては全裸だったのである。
「まさか?"覚えてない"とか言うんじゃねーよな?」アーセルスが怒気を含んだ様子で話しかける。
「確か・・・俺が部屋で吐いて自分とアーセルスの服を汚したことは覚えてるんだが・・・」
「その時に俺が服を脱がせて汚れた体をシャワーで洗ったり、服と部屋の掃除をホテルのフロントに頼んだりしたんだよ!」
「ゴ、ゴメン・・・ありがとう」ギャレスが申し訳なさそうに縮こまる。
「まぁ替えの服はあいつ等に持ってきてもらうとして・・・体調はどうだ?マシになったか?」
「今は大丈夫・・・」
「それなら良かった・・・」
~一方~
「なんでトゥーリアンとサンヘリオスの男物の服を買ってんの?」
「アーセルスが買って来いって言ってんだ。あいつに聞いてくれ」
少し前に「服を買って来てくれ」とアーセルスから頼まれたリコとスミスが異星人の男物の服が2着入った袋をもって店を出ると、オルカとフルームがガラの悪そうな連中に絡まれているを見かける。
「はー・・・何で俺達の休暇はこうも想定外続きなんだろうな?」スミスがため息を吐き、少し遠くを見つめるがリコがスミスの肩を叩いて「マズイよ!スミス、アレ!」と現実に呼び戻されたスミスはリコが指をさしている方を見ると、オルカが悪漢の一人をぶん殴り、文字通り大乱闘が始まったのである。
「もー何やってんの?!」「本当に平穏とは縁遠いよな・・・」そう言ってスミスはアーセルスに到着が遅れる旨を伝えると喧嘩の仲裁しようと彼らの元へ向かうのだった。
〜ホテル〜
相変わらずギャレスとアーセルスの二人は、気まずそうに服が届くのを待っている。だがアーセルスが持っているスマホにスミスから「到着が遅れる、ゴメン」とメッセージが届くと、チッ!と舌打ちを行い、内心では(クソ!この気まずい状態がまだ続くのか!)と辟易している。
「なぁギャレス、アイツら遅れるとさ」「ウン・・・」ギャレスはコクリと頷く。
「なぁアーセルス」「どうした?」ギャレスからの呼びかけにアーセルスは、スマホを閉じてギャレスと向かい合う。
「俺はリーダーとしてうまくやっていけてると思うか?」自信に満ち、確固たる意思と信念による不安や恐怖とは無縁そうな普段の様子とは全く違う様相に、違和感を覚えたアーセルスにはギャレスの言っている事に心当たりがあるようだ。
「あのヴェルンスキーの一件の事で悩んでんのか?」
「あぁ・・・あの時、オルカの機転や指揮が無ければあの任務は達成出来なかっただろうし、彼が仲間になっていなかったら誰か死んでいたかもしれない・・・俺が今まで相手してきた悪党達は小物で、自分もまだ未熟な存在なんだと知らしめられた気がしてな・・・」
はぁ・・・とギャレスの口からため息が漏れ、俯いてしまう。
「確かにあの時のお前は少し心もたなかったが、その程度で折れるのか?なら心底ガッカリだな!お前は俺と同じかそれ以上に優秀なハズなんだがな?!」アーセルスがギャレスに対してハッパをかける言葉を投げかける。
ギャレスは驚いた様子で顔をあげ、「・・・何で?」と呟くとアーセルスがベッドから立ち上がり、ギャレスが寝ているもう一つのベッドに腰掛ける。
「何でだって?俺に勝ったお前が無能だと俺も無能扱いされそうで、それが許せないのが一つ。もう一つは"お前がいる"このチームのいどころが良いから・・・だな」アーセルスが少し気恥ずかしそうにしている。
「それは・・・ありがたいが、お前にも軍にいた仲間がいるんじゃ無いのか?」ギャレスが首をかしげながら質問するが、アーセルスが顔をしかめ難色を示しながら「それについては・・・」と語り始める。
〜アーセルス コヴナント軍時代〜
あるコヴナント軍の訓練所にて、多数のサンヘリオスの軍人達が訓練している中のある一角に、アーセルスが居た。
多数のサンヘリオス軍人達に囲まれている中にあるプロレスで使うリングのような場所で、訓練用の軽装アーマーを装着しているアーセルスと同僚のサンヘリオスが向き合いながらファイティングポーズをとっており、実戦に近い格闘訓練を行うところだった。
突然相手からの右ストレートがアーセルスに向けられるが、体を左に逸らして回避するとお返しとばかりに相手の右脇腹に向け左フックを当てる。相手は「うぐ」と苦しそうにうめくとアーセルスは隙を見逃さず、相手の首と右脇を巻き込むように右腕を回して相手の背後に回りながら、残った左腕で右腕を完全にロックする。さらに相手の背後に回ったアーセルスは相手の右膝裏を蹴り落とす。相手は右腕を頭上に挙げ、片膝を着いた状態でアーセルスによって首をキメ技で締め落とされて意識が朦朧としていく。
すると軍の教官らしきサンヘリオスが「そこまで!アーセルスの勝利!」と宣言すると、アーセルスが相手を解放する。
アーセルスの勝利に対してオーディエンス達は祝うどころか、ヒソヒソと「アイツが勝ちやがったよ」「クソが」等と陰口を叩かれる始末である。
また、ある遠征サバイバル訓練では訓練生達に水や食料等が入ったサバイバルキットが支給されるが、アーセルスの物だけは意図的に食料や水を抜かれているのが"教官"から支給されるなどしていた。
同僚だけでなく教官達からも嫌がらせを受けていた時、ISIAからのヘッドハントを受けた。
〜現在〜
「あの時はISIAの訓練を口実にそのまま軍を辞めてまたギャング達の仕事を請け負おうかと思っていたんだが・・・世の中何があるかわからないな」衝撃的な過去をアーセルスが懐かしむように語った。
「そんな事があったのか・・・」ギャレスは口に手を当て少し気まずそうにしている。
「まぁ何処の馬の骨か分からない元犯罪者が訓練所でトップクラスの実績を出してるんだ。快く思わない奴は一杯いただろうな。だがお前が気にするようなことでも無いだろ?」以外にもアーセルスはあっけらかんとしている。
「そんな事よりお前は軍や警察じゃ何をしていたんだ?」今度はアーセルスからギャレスに対して質問する。
「俺は・・・」とギャレスは簡潔に自分の経歴を語る。
「ほーん、軍では狙撃部隊にいて、C-CEBではタスクフォースの隊長か・・・改めて聞くと凄い経歴だよな」アーセルスが感心している。
「なぁアーセルス、ギャングだった時の話しは何か無いのか?」ギャレスが興味津々に尋ねると、アーセルスが嬉々として話し始める。
「そうだな・・・あれは駆け出しの頃の話しになるんだが・・・」
〜しばらくして〜
「・・・って事があってだな!」とアーセルスが楽しそうに語っている。「確かに!」ギャレスも笑みが溢れる。
「面白い話しが聞けたよ・・・すごい経験をしてるんだな!」とギャレスが目を輝かせている。
するとアーセルスが「なぁギャレス」と先ほどまでの上機嫌な雰囲気が一変、ギャレスの事を真っ直ぐ見据え、低く唸るよう声を出しながら呼びかける。
(マズイこと言ったか?)と不安になるギャレスだがアーセルスから思いもよらない言葉が投げかけられる。
「こんなロクでもない俺を認めてくれたのは、このチームが初めてなんだが、その・・・チームに誘ってくれてありがとな」アーセルスは気恥ずかしいそうに目を逸らす。
ギャレスもはにかんだ笑顔を見せながら「最初の出会いは最悪だったけどさ、今の俺にとってなくてはならない存在なんだよ」と答える。
「だから・・・その・・・いざって時は頼っても良いよな?」「もちろんだ。ギャレス・・・何かあったら頼ってくれよ」二人はお互いの拳を軽く突き合わせ、ギャレスとアーセルスは朗らかな笑顔を見せる。
すると
ガチャ 「オイ!替えの服持ってきたぞ!」「大丈夫かーい?」
突然部屋に替えの服を持ったスミスとリコ入ってきた。
「ふぇ!」「うお!」ギャレスとアーセルスは驚きのあまり、素っ頓狂な声をあげる。
対してスミスとリコは顔を引きつらせながら「あー・・・うん・・・服ここに置いとくな」「ゴメンねー・・・ごゆっくりー」と服を置いて、気まずそうにそそくさと出ていってしまった。
「何なんだ?」「さぁ?」ギャレスとアーセルスは疑問に思いながらお互いに顔を見合わせる。
一方・・・廊下で歩みを進めるスミスとリコ
「なぁリコ」「スミス、言わなくても分かるよ」
((絶対ヤってたよね!))
彼らからすれば「(スミスとリコ視点)裸の二人」「部屋に入った時の驚きよう」「ホテルスタッフから苦言を呈された部屋と服を清掃した事」この状況を鑑みれば盛大な勘違いを引き起こすのも無理はない。
「はー・・・明日からどんな顔すれば良いんだ?」
〜翌日 PM17時 バジリスク〜
大勢の若者達で盛り上がりを見せるダーツ会場の一角、ここでは昨日遊び足りなかったスミス、リコ、オルカが再度バジリスクに遊びに来ていた。
「結局ギャレスとアーセルスはホテルで休んでて、フルームはトーキョー郊外へ観光にでたと・・・」「そうみたいですねー」オルカとリコが雑談していると ダキューン という大きな音が3回連続で鳴り響く。
スミスがブルを3連続でヒットさせ、意気揚々と二人の元へ歩んでくる。「相変わらず絶好調だね」リコが少し呆れているが、スミスは「いつもの事だ」とさも当然の様に語る。
「さて次は僕の番だね」リコがダーツを持って投擲位置に向かう。
「なぁスミス、お前は連邦軍だった頃の所属は?」
「第32機械歩兵師団のゲイツ小隊」
「32機械歩兵師団・・・俺の記憶通りなら警備やパトロールが主任務の部隊だったか?」
「それに加えて海賊討伐や法執行機関と連携する事がかなり多かったな」
「なるほど、リコも同じだったのか?」
ダーツを投げ終えたリコが二人元へ戻って来る。
「小隊は違うけど、同じエンジニアとして一緒になる事は多かったね」
「ほーん・・・じゃあ、お前達が1番ヒリついた任務は何なんだ?」オルカがニヤつきながら聞いてくる。
スミスとリコが目を合わせる。
リコが顎に手をつけて一考すると「やっぱり"アノ"任務じゃ無い?」
スミスは「あぁ!あのネオンシティの・・・」と懐かしむように語る。
〜3年前 惑星サピエンツァ 惑星首都ネオンシティ〜
惑星サピエンツァの惑星首都ネオンシティにある「デンテン」と呼ばれる大規模データセンター
普段は企業向けのデータセンターとして鎮座しているのだが、今日に限っては激しい銃撃音が鳴り響いている。
「ここで食い止めろ!」
「お前らサツに邪魔されてたまるか!」
デンテンを襲撃しているサイボーグ集団"シンタックス"と「アルファ前進!ブラボー!メックを盾にして側面に回れ!」"EFBI SWAT"・"第32機械歩兵師団"の混成部隊
"ハンマー部隊"による銃撃戦が繰り広げられている。
訓練と実戦を経験してきたハンマー部隊とただの犯罪集団のシンタックスでは装備の質・練度どれをとっても叶うわけが無く、確実に追い詰めていくハンマー部隊。
地下のサーバールームに突入する。そこには大量の爆弾が存在しておりタイマーが進んでいるのが確認できた。すると施設全体にアナウンスが流れる。「お前らの為にプレゼントを用意したんだが気にいるかな?」とハンマー部隊を煽るように語りかける。
「ハンマー部隊指揮官へサーバールームに大量の爆弾を確認した!指示をくれ!」
「了解、そちらにスミスを送る。後は彼に任せよう」
数十秒後、スミスの所属するデルタチームがサーバールームに到着する。
「こちらデルタチーム、サーバールームに到着。これより処理を開始する」チームメンバーが無線で報告するのをスミスが咎める。
「切れ!通信で爆発するかも・・・」
早速スミスは爆弾の解析を始める。
「さてさてー・・・なるほど、振動爆薬に大量のブービートラップ、1次システムから3次システムまで高度な連動をしていて非常に巧妙・・・コレを作ったやつは相当な腕を持ってるな」
この言葉を聞いたメンバーの一人が不安そうに尋ねてくる「なぁお前の事だから解除は出来るんだろ?」
「どうかな?"絶対解除できる爆弾"はこの世には無いんだ。怖いなら逃げても良いぞ」スミスは作業を進めながら淡々と話す。
〜同時刻 デンテン屋上〜
一方リコが所属するブラボーチームとアルファチームは、屋上でシンタックスとの激しい戦闘が勃発している。
「こちらアルファチーム!敵ドローンからの攻撃が激しすぎる!EMP攻撃を要請する!」敵が操作している数十機のドローンからの集中攻撃を受けているアルファチームはEMP(電磁パルス)によるドローンの無力化を要請するが指揮官からは「ダメだ!データセンターのサーバーを破壊しかねない!」として拒否された。
「アイツら・・・この状況わかってるのか?仕方ないリコ!ドローンをハック出来るか?」
「もうやってますよー」リコは軍用タブレットで敵ドローンの支配権を奪い取ろうとする。
すると敵ドローンの一機からロケット弾がリコに向けて射出される。
「リコ!避けろ!」仲間からの指示に反応して、とっさに回避行動をとるリコ。
ドカーン と爆風でリコは吹っ飛ばされる。「大丈夫か?」
「うん・・・なんとか!」痛みをこらえて立ち上がると、一緒に爆風で吹き飛ばされたタブレットを拾いなおし急いで物陰に隠れる。
「何があった?」ブラボーチームリーダーの問いかけに応える。
「逆探知とカウンターハックですよ。ただの犯罪者がドローンにこんなシステムをインストールしてるとは・・・しかも軍用のモノを流用してるのか?逆探知用のアラートが反応しなかった。気を付けて!あのドローンそこら辺のモノよりはるかに高性能ですよ!」
ハンマー部隊とシンタックスの戦闘は苛烈を極めていく。
〜デンテン 地下サーバールーム〜
大量の爆薬に囲まれ、ピッピッとタイマーが進んでいく電子音が響くサーバールームにてスミスは解体作業を進めている。
「スミス、ジャミングを起動して通信を妨害してるが良いんだよな?」仲間の一人が不安そうに聞いてくる。
それもそのはずこのジャミングによって全ての通信が妨害されてしまうのだ。現在のデルタチームは指揮官や他チームの状況が一切不明な状態なのである。だが裏を返せば敵からの遠隔通信による起爆を防げるということでもある。
「あぁ今遠隔で起爆されたらこのデータセンターもハンマー部隊も全部吹き飛ぶんだ。それを防ぐにはコレしか方法は無い」と返答している間にもまた一つ爆弾の制御装置に繋がっているワイヤーを切っていく。
スミスはチラリと爆弾のタイマーを確認する(タイマーは後12分15秒・・・)
〜デンテン 屋上〜
「俺のカワイイ子供達には敵わないようだな!」
シンタックスからの挑発がアナウンスによって鳴り響くと同時に、大量のドローンが現れる。
「クソ!落としてもキリがない!」ハンマー部隊の一人が悪態をつく。
「口を動かす前に手を動かせ!・・・何だ?ドローンが近づいてきて・・・」 ドカーン!
「マズイ・・・気を付けろ!自爆ドローンが紛れ込んでいるぞ!メック部隊はどうだ?」
「コチラ、メックチーム!ロケットランチャーを装備したドローンに集中砲火を受けて半分以上のメックがやられました!」
「仕方ない・・・"アレ"を出すか」リコがハンマー部隊の窮地を打開する為あるドローンをバックパックから展開する。
「リコ、まさか・・・それを使うつもりなのか?」「そうだけどそれが?」リコがドローンの展開準備を進める。
「それはエンジニアチームから禁止されてたはずだろ!」
「なら君はこの状況の打開策があるのかい?EMPを使う以外で頼む!」
リコに苦言を呈した仲間が黙ってしまう。
「決まりだね」リコがドローンを上空に放つと一気に高度を上げていく。
(さてどこにいるかな?)未だ多数のシンタックスが存在しており、闇雲に攻撃する訳にはいかない。
(こういう時こそ"ピジョンドローン"の出番だね)
あらかじめ展開しておいたピジョンドローンを用いて周囲を確認する。
(さて、この手のドローンオペレーターはまず直接撃ち合うのを避ける傾向にあるが、全体の状況を把握したいはずだから高所等の見晴らし良い場所に身を置いているはず、何より数十機のドローンを同時に操作してるんだ。どんなモノでも強力なパワーで動かし続ければ熱を持つ、サイボーグも例外じゃ無い。体が異常な温度まで温まっている、あるいは熱暴走を抑える為に冷却装置で冷やされている者・・・アイツだな)
高台を陣取り、他の敵に比べ明らかに高温なシンタックスに目星を付けた。
ターゲットであるシンタックスの頭上、遥か上空にドローンを進ませると、ドローン下部に取り付けられている小さな長方形型の箱の底が開くと小さな球体が落ちていく。
(僕とスミスが開発した最高傑作の一つだ。無事で済むと思うなよ)
ボカン! ドカン!
球体の落下地点が突然爆発し、炎で包まれる。
「ぐわーー!熱い!何だコレ!」火の手から逃れようとアルゴニアンのサイボーグが高台から転落する。
するとつい先ほどまで攻撃してきたドローンが停止した。
この隙をついてハンマー部隊はドローンを撃ち落としていく。
「オイ!起爆しろ!今ここでやるんだ!」ヤケになったシンタックスが電話を取り出し、サーバールームに存在する爆弾に起爆コードを送る。
「オイ!何してる?!」「爆発しねー・・・何でだよ?」
〜デンテン 地下サーバールーム〜
(後7分45秒か・・・)スミスはチラリとタイマーを確認し、ガチャ バチン! とまた一本コードを切っていく。
「なぁお前ら、そろそろ脱出した方が良いんじゃ無いか?」
スミスが爆弾の解体作業を行いながら語りかける。
「何言ってんだ!そんな簡単に見捨てられるかよ!」仲間の一人が怒鳴り声をあげる。
「別に英雄になりたいわけじゃ無い。ただ時間内に解除できるか分からなくなってきただけだ」
スミスの口から驚愕の情報が語られる。
「じゃっ・・・お前はどうすんだよ!」
「やれるところまでやってみる。大丈夫、俺も死ぬつもりはないさ。いざって時は逃げられる準備くらいしてる」
デルタチームのリーダーは数十秒程、熟考した後「わかった、頼むぞスミス。デルタチーム撤収」
この指示を聞いたデルタチームはスミスを残して脱出していく。
〜デンテン 屋上〜
「こちらアルファチーム。敵の殲滅は間近、繰り返す、敵の殲滅は間近」
「了解した。そのまま作戦を続行し・・・何?・・・アルファチーム、ブラボーチーム!直ちに離脱しろ!」先程までの冷静さはどこへやら、慌てて撤退を指示する指揮官に「何か問題でも?」アルファチームのリーダーが尋ねる。
「デルタチームから情報だ!"爆弾のタイマーが迫っている為スミスを残して撤退して来た。他のチームも撤退指示を出して欲しい"との事だ!」
「タイマーの残り時間は?」「5分も無いそうだ!」
(余りにも時間の猶予が無さすぎる、考えてる暇はないな)
「ハンマー部隊!直ちにココを脱出するんだ!無傷な者は負傷者の手助けを、死んだ者は・・・仕方無いここに置いて行くぞ!」
〜デンテン 地下サーバールーム〜
(後3分か・・・) ガチャガチャ バチン
未だ解体作業を続けているスミス、そこに一人の人間が近づいてくる。
「はー・・・何で撤退しないの?スミス」「リコ!お前何でココに・・・」
リコが二本のジュースが入ったペットボトルを持ってサーバールームに入ってきた。
「どっちが良い?」「何味だ?」
「イチゴかオレンジ」「・・・イチゴ」「だろうと思った」
「よっこいしょ」と言いながら適当に目に付いたテーブルに座る。イチゴジュースのペットボトルを傍に置き、地面についていない足をぶらつかせながら、オレンジジュースを飲み始める。
「何で逃げないの?」「自分の限界を試したくなっただけだ。逆にお前は何で撤退しなかった?」
「友達が命かけてるんだよ?それ以外に理由なんてある?」
「・・・死んでも文句言うなよ」「もちろん!」
スミスが黙々と解除作業を、リコはそれを見守っている状況が続く。
「後1分だよ」爆発する時間が迫ってきているためか、リコがソワソワし始める。
「なぁリコ、手を貸してくれ」「何だい?」リコがスミスの元に駆け寄る。
「良いか、この2本の赤いコードを同時に切断する。俺はコッチを、リコはもう一方のコードを切ってくれ」
「了解」リコはナイフを取り出し、スミスに指示されたコードにナイフを近づける。
「いくぞ?3.2.1 カット」ブチ、ブチとほぼ同時に2本の赤いコードが切断される。
「ふぅー・・・ヨシ、コレが最後の作業だ。良いな?」
スミスは、緊張と疲労で荒い息が止まらない。
「まずこの黒いコードを切った後、すぐに黒いコードが繋がっている基盤を引き抜くんだ。コレでタイマーは停止するはず」
リコはタイマーを横目に見る「後42秒・・・コレがラストチャンスだね」
「そうだな、俺がコードをカットする。リコは基盤を引き抜いてくれ」「了解」
二人は息を整え、お互いに目を合わせて"準備ができた"と暗に示し合う。
「行くぞ?3.2.1 カット!」「よいっしょー!!」
スミスが黒いコードを切ったとほぼ同時に、リコが雄叫びをあげながら基盤を思いっきり引き抜く。
すると先程まで鳴っていた電子音が消えたため、スミスがタイマーを確認すると"29秒"の時点で停止していた。
スミスは緊張が抜けたのかドサリと尻もちをつき、まともに動く事もできそうに無いが、防爆フェイスシールドと防爆ゴーグルを外した彼の素顔は明るく、口角があがりきっており満足げな様子だ。
「ハイ!お疲れ様」リコがイチゴのジュースをスミスに渡す。スミスが差し出されたジュースを受け取ると、ゴクゴクと飲み干していくのを尻目にリコは「サーバールームにある爆弾ですがタイマーは無事停止しました。・・・スミスも一緒です。コレからスミスを連れて撤収します」と指揮官に一報をいれる。
「よし!じゃあいこっか」「おう!」リコがスミスに手を刺し伸ばし、スミスを立ち上げる。二人はそのままサーバールームを後にするのだった。
〜現在〜
「って任務があったんだよね」
「なるほどな・・・意外と修羅場は経験してるんだな」リコの話しに感心を示すオルカ。
「まぁアンタ程じゃないがな・・・」ダーツを投げ終えたスミスが戻ってくる。
「結果は・・・ウン、まぁ目に見えてたよね」
ダーツ勝負の結果を手元のタブレットで見てみると、スミスの記録が他二人より圧倒的な大差をつけて上回っていた。
「次はバックギャモンで勝負するぞ!」「望むところだ、かかって来い!」オルカがスミスに別の勝負を挑む。
その後、丸一日スミスに勝負を仕掛けたがことごとく敗北していき、気づいた時には笑えない程のコームを支払っていたという。
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