第6話 掃除屋 パート3

統一歴4057年2月2日


現在の銀河では多数の種族や国家が存在し、宇宙航行をはたしている。そして現在の「人間」の定義は「一定の文明があり、思考力、コミュニケーションがとれる存在」としている。異星種族同士がコミュニティを作るのも当たり前の時代となった。


星間航行が当たり前となっている現在では"紙幣"や"貨幣"にとって変わり「コーム」と呼ばれる電子暗号通貨が銀河全体で共通の資産価値となっている。

 「コーム」は統一歴420年のシタデル評議会で発足した。当時、自分達の経済的な恩恵を最大限手に入れるため(そして資産価値が異なる国の為替を無くすため)にシタデル評議会傘下の国に参画を(強制的という言葉が付くが)促した。次第にコームに切り替える国が多くなり、新参のユーリシア連邦はもちろん。コヴナント連合もコームに切り替えなければ多大な経済的な損失が発生し、貿易・商取引に悪影響を受ける可能性が高まったため最も遅くコーム制度に切り替えた。


〜ヨーリフェントグランドホテル 3622号室〜


居間にはキーパーズ4人が集っており、件のメディックを待っている。


するとインターホンの音が鳴り響き、アーセルスが確認する。


「誰だ?・・・あぁ・・・待ってたぜ」


ISIA人事部門から聞かされていた「メディック」なのを確認して部屋に招き入れる。


「初めましてキーパーズの皆さん」


そう言って現れた"ゲルコニアン"の男は礼儀良く挨拶をして自己紹介を始める。


「私の名前は"フルーム"。メディックとして専門訓練を受けていますが、毒物・危険物質にも精通しています。皆様のために全力を尽くしたいと思います」


フルームは行儀良く丁寧な印象を受けたが、顔や手に注目すると、完治してはいるだろうが大きな傷跡がいくつか見受けられる。


「初めまして、俺はギャレス、こっちの人類はスミスで・・・」


キーパーズの面々も自己紹介を始める。


〜しばらく自己紹介と雑談に花を咲かせ〜


「なぁフルームその傷跡はいつ着いたんだ?かなり大きな傷だが・・・」


ギャレスがずっと疑問に感じていた事を尋ねてみた。するとフルームは神妙な顔になった。


「昔の話しですよ・・・6年前までただの医者でして、戦いとは無縁の生活でした。でもある時テロに巻き込まれてたんですよ・・・その時に傷を負いました。」


フルームの口から語られる壮絶な過去に4人は驚いたが、フルームは話しを続ける。


「ですが軍の特殊部隊に救助された時に理解しました。"常に命の危機は現場で起こる事"そして"命を救うため命を奪う必要がある事"を・・・その後は医療のキャリアを捨てて、軍に入った後ISIAで訓練を受け、人事部門の推薦でココに配属というのが経緯です」


先ほどまでの温和で丁寧な口調とは打って変わって、信念と覚悟をもった様子をしている。


~ホテル 地下駐車場~


ホテル地下駐車場には大量の車が止まっている。その中にある黒いバンに工事現場作業員の服装をしている「ゴア・クリーニングの3人」が待機している。


「さてここからターゲットの車をさがしますか」


キングはやる気だがビショップとクイーンはこれから砂漠の中から一粒のダイヤを探すような作業が待っているのを感じて顔が引きつっている。何せ駐車場には数百台以上の車が存在するのだ。


「この中から目当ての車を見つけるの?」


「あー・・・これは大変だー」


〜10分後〜


ゴア・クリーニングの3人は手分けして探しているが一向に見つからず、(内緒でサボってやろうか)とビショップが内心愚痴っていると、突如眼前にライナスとキーパーズ5人が姿を現した。


ビショップは急いでキングとクイーンに連絡をした後、あえて堂々と歩いてすれ違う。


〜少し前 3622号室〜


寝室からライナスの嬉しそうな声で電話しているのが聞こえていた。数分ほどするとライナスが寝室から出てきて、ライナスが懇願する。


「妻と娘が近くまで来てるから会いたいんだ」


「あなたはご自分の立場をお分かりですか?」


フルームがライナスを咎める。


「ならば"違法商取引の証拠"を渡すのはどうだ?捜査の進捗は芳しくないのだろう?」


実際、捜査はかなり難航しており、長期化は確実だろうと連絡官から伝えられていた。ギャレスは(危険だが証拠も手に入れたい・・・)という思いから苦渋の決断をする。


「分かりました。ですがコチラも準備をさせてもらいます」


「僕のわがままに付き合ってくれてありがとう、証拠は必ず渡すと約束する」


〜現在 地下駐車場〜


ライナスとキーパーズは装甲車に乗り込むために移動しているのをビショップが尾行している。


(マズイよターゲットが情報とは違う車に乗ってる。フローメントミリタリー社製の装甲車でナンバーは・・・)


ビショップが2人に情報を伝えている目の前でライナスとキーパーズを乗せた装甲車は出発し、キングとクイーンは計画を切り替えるため急いで準備する。


スミスが運転する装甲車が駐車場を走っていると、突然目の前にスーツ姿のドラゴニュート族が現れ、咄嗟に急ブレーキを踏んだ。ドラゴニュート族を轢かずに済んだが、倒れ込み苦しそうに咳をしている。これを見たフルームはただ事では無いと感じ車を降りる。


ゲホゲホとスーツ姿のドラゴニュート族は今も苦しそうにしている。


「大丈夫ですか?」フルームが駆け寄り、アーセルスがフルームのそばで警戒する。


しばらく咳が続いた後ドラゴニュート族の男は立ち上がり、カバンの中から錠剤を1錠飲むと咳が治り「大丈夫です」と答える。


「生まれつき心臓が弱くて驚くと咳が出てしまうのです」


「申し訳ございません」フルームが謝罪する。


「私も音楽を聴いていたので気がつけませんでした。コチラの不注意でもありましたので」


そう言ってドラゴニュート族の男は立ち去った。


装甲車に戻ると「スミス!気をつけてくださいね!」フロートの声が響く。


一方スーツ姿のドラゴニュート族の男はそのまま黒いバンに乗り込む。


「お疲れ様キング」


ビショップが"キング"を歓迎している。


「クイーンどうだ?」


「GPSは無事作動してる」


クイーンが手持ちのタブレットからGPS情報を確認している。


何故装甲車にGPSが設置されているのか?理由は先ほど、キングが病人のフリで周囲の注目を集めているうちにクイーンが死角からGPSを設置していたためである。


「何で急に移動したんでしょうかね?」


クイーンが疑問を口にする。


「さぁな・・・だが一番の関門は乗り越えた。後はなるようになるさ」


「じゃ暇つぶしにボウリングでも行きましょうよ!」


「良いな・・・スコアが1番だった奴は残り2人から飯奢られる」


「「のった!!」」


キングの提案に2人は賛同する。


〜惑星ホォセリア フェルミド宇宙港 ロビー〜


ライナスが妻と娘に別れを告げている。


「お母さんの言うことはちゃんと聞くんだぞ」


この様子を見ているキーパーズは少し離れた場所から完全武装で待機している。


しばらくしてライナスの妻と娘が別れる時間になった。


「じゃあ元気でな」


妻と娘が搭乗ゲートを進み、姿が見えなくなるとライナスがキーパーズの元へ戻ってきた。


「終わりました。ホテルへ戻りましょうそこで証拠を渡します」


6人はフェルミド宇宙港を出て、装甲車へ向かおうとする。そこにSUVがやってきて眼前で止まる。中からサブマシンガンやアサルトライフルを持った人間が6人ほど現れた。


ギャレスが「エネミーコンタクト!」と叫び、6人は急いで遮蔽物に隠れる。


平和な空気が一辺、宇宙港前は銃声が鳴り響く戦場へと変化した。


まず安全な場所へ移動するため、スミスのグレネードランチャー「JACK-8」から放たれたスモークグレネードで視界を奪う。


なおスミスが使用したスモークグレネードには「赤燐」が含まれており、「赤外線」や「熱探知」を無効化させる。そのため銀河で最も普及しているスモークグレネードなのである。


スモークによって安全に移動できるようになった6人は近くの階段を上り、歩道橋に陣取る。


「歩道橋の上だ!」

「ぶっ殺せ!」

ガガガン!!


襲撃犯の怒号とフルオートの銃声が聞こえてくる。


アーセルス、スミス、フルームがアサルトライフルやサブマシンガンを使って応戦しているなかギャレスとリコは作戦を立てている。


「リーダー増援はいつ到着する!?」


「宇宙港の保安隊は空港の安全を守るので精一杯で援護は見込めない!警察も到着にあと数分はかかる!敵は何人いるかわからないからライナスを連れて装甲車に向かう!」


「了解!ならマシンガンタレットとホークドローンで足止めするよ!」「援護は俺たちに任せろ!」


アーセルス達が弾幕を張っている間にリコがバックパックからタレットを取り出し、慣れた手つきで歩道橋の手すりにセットした後、腕のデバイスを操作してタレットとドローンを作動させ、敵とその周辺をハチの巣にして動きを止める。


「今のうちにグレネードで吹っ飛ばしてやる」そう言いながらスミスがJACK-8に爆発型のグレネード弾を装填しているが、フルームが待ったをかける。


「ダメです!ここで爆発なんてさせたら民間人にも被害が出るかもしれません!コレを使いましょう」フルームがグレネードを敵に向けて投げ込むが爆発はせず、シューという音と共に煙が噴き出てきた。


すると襲撃犯たちはゲホゲホと苦しそうに咳をして倒れ込んだ。


「非殺傷の催涙ガスグレネードです。これで奴らはしばらくの間まともに銃を撃つこともできませんよ」


「弾幕とガスで動きを封じているうちに移動するぞ!」ギャレスから指示が出され、急いで装甲車に移動し、エンジンを始動させホテルへと向かうのだった。


~ヨーリフェントグランドホテル 3622号室~


ホテルに戻ってきた6人は一息ついていた。


「ライナスさん早速、証拠の方を提供してくれますか?」ギャレスがライナスに証拠提出を求めると、「もちろん」とライナスが寝室からPCと生体認証が必要な小型のケースを持ってきた。ケースには厳重に保管されたUSBがあり、PCにUSBを差し込む。ライナスがしばらくPCを操作していると「これです」とPCの画面を見せてきた。


キーパーズがその画面を見てみると、「インサイダー取引の計画」や「証券会社内での株価操作の証拠」に「政治家への裏金の送金証拠」などが確認できた。


「これだけあれば起訴は確実・・・いや数十年単位の禁固刑は確実でしょうね」と語っているライナスはどこか清々しい様子だ。


「アンタなんで正直にこれを見せようと思ったんだ?」アーセルスがライナスに問う。


「最初はね”僕の事を監視してるんじゃないか?”と思っていたんだけどね・・・こんな僕を命がけで守ってくれる上にわがままだって聞いてもらえたからね。それに妻と娘のことを思うとね・・・」ライナスがしみじみと語る。


「なら早速その証拠をホォセリア警備隊に送信しましょうよ」リコがライナスをせかすが、「それはできない」と答える。


「このデータはちょっとしたセーフティシステムがあってね、まずログインするだけでも生体認証と5重のパスワードロックがあるんだ。言っておくけどパスワードを5回間違えただけで内部のデータが完全に暗号化されるうえ複合も不可能になるほどデータが破壊されるんだ。あと内部から直接データを引っ張り出そうとしてもアウトでね、”スクリーンショットを撮った”これだけでデータどころか内部に潜ませてあるウィルスをデバイスに流し込んで、ハードウェアもろとも破壊してしまうんだ」


ライナスが話しを続ける。

「おそらくこのデータを閲覧できる方法はこのUSBしか無いと思うよ。なにせ証拠も証人も全部消されたからね」


「わかりました。ホォセリア警備隊のサリームに連絡しましょう」


~ホテル 地下駐車場~


ここにゴア・クリーニングの3人を乗せた黒いバンが戻ってきた。


「はぁーなんであのスプリット倒せるんだよ」


「キング、クイーン、今日の夕飯ゴチになります」


先ほどのボウリングで圧勝したため、ただ飯をもらえて上機嫌なビショップ。


「じゃ行ってくるわ」そう言ってクイーンはバックを肩にかけ車を出た。


(GPSによるとここらへんだが・・・おっ)クイーンが目当ての装甲車に近づき、車の下へもぐりこむ。


(ここをこーして、あーして)クイーンがもくもくと作業を続けること10分

(できた!)作業を終えたクイーンは急いで撤収する。


~3622号室~


ギャレスがサリーナとの連絡を終え、メンバーとライナスに伝える。

「今日中にライナスさんの拘束令状を発行し明日確保することが決まった。明日の10時まで守りとおすぞ」


「了解」


~PM8時頃 3622号室~


インターホンの音が鳴り響く。スミスが確認すると、「配達でーす」と聞こえる。


「こんばんは、ライナス様でございますか?」配達員の人類が問いかける。


スミスが扉を開けて直接対応する。

「いえいません」と答え、注意深く警戒していると運んでいる荷物の隅の部分に液体のシミを見つけると同時に独特なにおいが漂ってきた。


スミスは「少し待っててください」と伝えるとキーパーズとライナスに「爆弾の可能性がある急いで逃げるぞ!」と伝える。


スミスは爆薬の専門家だ。火薬から発する独特のにおいや液体火薬のシミのつき方は熟知している。


「俺があの配達員の拘束と爆弾解除を行う。みんなは先に装甲車で脱出しろ!」


~ホテル周辺のレストラン~


「そろそろっすねー」


「奇跡でも起きない限りは確実に殺れるな」


キング、クイーン、ビショップが食事をしながらホテルの地下駐車場の出入り口を確認している。


~3622号室~


配達員を拘束し、爆弾解除を試みるスミスは意を決して箱を開けるがそこにあったのはただの缶詰の束だった。


(偽物か?シミはまだしも、においは本物のはずだが・・・囮のためだけに?いや考えずらい。この囮は爆弾に詳しい奴がいて真価を発揮するがそんな不安定要素のためだけに・・・いや!別の主目的があるはず!・・・うん?そういえば今日の駐車場でいたあのスーツ姿のドラゴニュート族・・・咳・・・まさか!)

「みんな今どこにいる!?」


「もうすぐ地下につく!」フルームからの応答だ。


「地下に行くな!地上の出入り口を使って逃げろ!」


スミスからの指示を聞いた5人は地下駐車場ではなく、地上から脱出することになった。


~ホテル前 レストラン~


ライナスとキーパーズ4人が地上の正面入り口から脱出し、ホォセリア警備隊のパトカーに乗って走り去っていった。


「マジか!・・・奇跡起きちゃいましたねー」


ビショップが驚き、2人に話しかけるが、ビショップにこたえることなく不機嫌そうに無言で店を出るための会計をし始めた。


「あっちょ待ってくださいよー」


ビショップが2人を追いかける。


~次の日AM9時 ホォセリア警備局~


ホテルを脱出した後、念のためとここホォセリア警備局で一泊したキーパーズはライナスを警備隊に預けて、キーパーズ5人で雑談していた。


「まさか装甲車に爆弾を仕掛けられていたとは・・・なんでわかったんだ?」ギャレスがスミスに問う。


「まず火薬のにおいが確実に本物なのに爆弾が無かったこと、そして例のスーツ姿のドラゴニュート族が前に見せてもらったマンションの監視カメラで映っていた奴に似てると思ってな」


「任務は無事にやり遂げましたけどこれからどうなるんですかね?」フロートが疑問を口にする。


「さぁな・・・まあライナスの奴は何十年かは刑務所行きだろうな」

アーセルスは歯切れが悪そうに答える。


「みんなこの任務も無事終了した。撤収するぞ」


ギャレスの指示でキーパーズは撤収を始めた。


~その後~


ライナスの提供した証拠によって汚職公務員や政治家を捕縛、または強制捜査が開始された。

当のライナスは証拠提供により多少の恩赦が与えられたが、数十年の間刑務所に行くことは確実とみられる。

殺し屋ゴア・クリーニングは完全に姿を消した。連邦かコヴナントの領域に逃げ込んだとされるが行方を完全にくらませた。

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