第13話 閑話 とある世界樹の物語・2
――私は、気がついた。
死んだと思ったのに、意識がある。
地面が近い。
目はないけど超パワーで周囲を確認。背後には私の死体(いや、死木?)が横たわっていて、葉っぱの様子からさほど時間は経っていなさそう。
地面は私が生きていた頃より明らかに乾燥しており、まるで荒野。根っこにいたはずの動物や魔物、人間たちはどこにもいない。邪神が去ったから戻ってきてもいいはずなのに。
いや、無理な話か。
周りに生い茂っていた木々は枯れ果てて、咲き乱れていた花々は影も形もない。そしてオアシスの水が枯渇しているとなれば戻ってくる理由がない。もし帰ってきても生き抜くことはできないだろう。
どうやら、私は最後の力を振り絞って生み出した『種』の一つであるようだった。
周りにも種があるはず。何とかして私は意思疎通を試みたけれど応答はなし。まだ自我が芽生えていないだけならそれでもいいけれど、落ちた場所がこの荒野だ。枯れてしまったと考えるのが自然だろうか。
カンカンに照りつける太陽。水気の一切ない地面。暖められた空気は熱風としてこの身を襲い、かといって夜になれば凍えるような寒さとなる。
こりゃ無理だ。
芽を出すのは無理。
幸いにして私自身は死木の陰に落ちたようだから直射日光は避けられるし、時々降る雨のおかげで干涸らびもしなさそう。
すぐすぐ死ぬことはないだろうけど、かつてのように枝葉を伸ばせる可能性は無に等しい。
種だから動くこともできないし、これはちょっとした拷問だろう。
それから。
どれだけの月日を過ごしたかは分からない。
何度も雪に埋もれたし、風に吹き飛ばされて直射日光の洗礼も受けた。暖かな春を迎えても周囲に草木が芽生える気配すらなく、秋の実りなど、遠い遠い昔話になってしまった。
――寂しい。
今になって実感する。
魔物に囓られていたあの日々は。人間に葉っぱを毟られていたあの日常は。辛いことも多かったけれど、それでも、とても幸せな毎日だったのだと。
――誰か。
誰もいないのに
――助けて。
魔物でも。
人間でも。
神でもいい。
誰か。
助けて。
このまま死ぬのは嫌だ。
このまま生き続けるのも嫌だ。
もしもこの状況から抜け出せるなら。今より少しでも幸せな状態になれるのなら。
私は、悪魔と契約してもいい。
魔王に与してもいい。
だから。
だから。
誰か。
助けて――
――空から、水が降ってきた。
いいや、水じゃない。
とても神聖な液体。
不思議と幸福感に満たされる。
今までの恨みも、悲しみも、絶望も。すべてが洗い流されていく気がする。
あぁ、これなら。
こんなにも幸せなら。
芽を出してもいいかもしれない。
たとえすぐに枯れてしまったとしても。
私は、きっと後悔しない。
どうせ苦しい未来しかない身だ。
それならば。
最後に、もう一度だけ葉を伸ばしたい。
この幸せな気持ちのまま。
もう一度……。
そうして私は芽を出して。
再びあの神聖な水――御神酒を注がれて。
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