第7話 ゴブリン襲来?


「……うん?」


 食後。

 お茶を飲んでエリザとまったりしていた俺は顔を上げた。


「どうしましたの?」


「いや、殺気を感じてな。人間のものというよりは野生動物に近いか」


「……探知系の魔法は設置していませんでしたわよね? どうやって殺気とやらを感知しましたの?」


「ふふん、知らないのか? 元日本人としては必須のスキルなんだぞ?」


「ニッポンとは修羅の国ですの?」


 この世界にも『修羅』っているのか……? あ、いや、自動翻訳ヴァーセットが翻訳してくれたのかな? 勉強していないのに異世界人と意思疎通ができるのだから、これだけは創造神に感謝しないとな。


 俺は神様への感謝を早々に投げ捨てて立ち上がり、玄関から外に出た。


 つんと鼻につくような、野生動物特有のニオイがする。視線を向けると、その先にいたのは……餓鬼?


 もちろん子供の俗称ではない。昔話によく出てくるような、手足が痩せ細り腹部が丸く膨らんだ人間――の、ようなものが杭の隙間から中に入ろうとしていた。


 二本足で立っているので人間に似ているような気もするが、よく見ると肌は暗い緑色だし、頭部が異常に大きい。目玉の大きさも人間の数倍はあるだろう。耳の先も尖っていて、明らかに人類とは別系統の生物だった。


 植物で作った腰みので股間を隠しているから、最低限の知識はあるのかもしれない。……いや、どう見ても胴体より狭い杭の隙間を通ろうとしているのだから、最低限の知識もないのか?


「ご、ゴブリンですわ! 弱いですけど群れてくるので厄介な魔物なのです!」


 俺の背後に隠れながらエリザが叫んだ。そのゴブリンとやらはどう見ても一匹なのだが。群れからはぐれたのか、それとも斥候だろうか?


 ……まだ杭の隙間を通ろうと頑張っている姿を見ると、『斥候』の意味も理解できるか疑問だな。


 なにやらおバカなペットを見ているような気分になってきたが、このまま放置するわけにもいかないだろう。

 ……話を聞くに、エリザは追放され荒野に投げ出されてからは魔物と戦ったらしいからな。魔物であるゴブリンは憎き敵。見逃すという選択肢はない。


 たしかD.P.の交換所で武器があったよなぁと俺が智慧の一端(ソピア)を起動させると、空間収納ストレージの項目に『!』マークが浮かんでいた。


 指で触れてみると空間収納ストレージが開き、中には『名もなき使い古された槍』が入っていた。


「…………」


 以前エリザがしていたように空中へ手を突っ込む。すると、思ったより簡単に『それ』は手中に収まった。


 長さ1m程度の、無銘の槍。


 この身体では初めて握ったはずなのに、それでも懐かしい・・・・感触と重さを感じることができた。


 準備運動するかのように二、三回振り回し、穂先をゴブリンに向ける。


「――――っ」


 一突き。

 生物としての急所は人間とさほど変わらなかったらしく、胸を突かれたゴブリンは数分で絶命した。


 純情なガキというわけでもないので、敵となり得る存在を殺すことについては別段思うことなどない。ないのだが……。


「……うむ、ダメだな」


 槍を抜きながら独りごちる俺。


「だ、ダメではありませんわ! すごいではありませんか! 目にもとまらぬ速さの突き! まるで騎士団長のような鋭さ! ざまぁないですわねゴブリンめ!」


 ひとしきりシャドーボクシング(?)をしたエリザは、満足したのか可愛らしく小首をかしげてきた。


「それで、何がダメですの?」


「あ~、そうだな。エリザには少し言いにくいが、やはり前世とは腕や足の長さとか身長が違うからな。前世の感覚で踏み込んでも『ズレ』があるんだ」


 あと、胸がでかいから身体の重心が上にある。口にしたら殴られそうだから言わないが。


「わたくしの身体を使っているのに贅沢ですわねぇ」


「だから言いにくいと……」


 まぁ、けらけらと笑うエリザは怒ってなさそうなので別にいいか。


「ラークは不満みたいですけれど――」


 エリザは少しだけ頬を赤らめながら、言った。



「――槍を振るうラーク、ちょっと格好よかったですわよ」



「…………」


 俺の頬もついつい赤くなってしまったのは言うまでもない。







 ちなみに。

 ゴブリンはそのまま放置すると腐臭が凄そうだし、他の魔物をおびき寄せるというので炎系の魔法で焼き払った。


 もちろんその前に『魔石』を回収したのだが、別生物とはいえ二足歩行の動物を解剖したのはあまりいい気分ではなかったのは言うまでもない。


 エリザはもちろん途中で逃げ出した。




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