第5話 拠点作製


 さて。城を造ると決めたわけだが。


 いきなり天守を建ててしまうと当面の生活に使うD.P.が足りなくなってしまう。まずは簡単な住居を建てて、しばらく生活。D.P.を使わずに生きていけるだけの生活基盤が整ってから天守を建てるべきだろう。


 というわけで、D.P.で『居館』を建てて、魔物の侵入を防ぐため周りを堀や土塁、柵で囲うことにする。


 この辺の大地は『神に見放された土地アゥフ・ギーブン』と呼ばれ、魔物が数多く出現するらしいからな。普通に生活するだけでも防御施設は必須なのだとか。


 岩山の上に柵を建てたりするのは難しいので、まずは山の麓に居館を造ることに決めたのだが……。


「この岩山をもう一度降りるのか……」


 かつての城主が天守閣に住まなかった理由がよく分かる。高いところに上り下りするのって超面倒くさい。


「おっ、そうだ。ここは異世界。何か便利な魔法があるんじゃないのか?」


「……なに独り言つぶやいていますの?」


 さきほどから『ここにお風呂、ここに寝室……』と間取りを妄想していたエリザがふよふよと近づいてきた。


 そういえば彼女は智慧の一端ソピアのことを知っていたな。他の魔法も詳しいかもしれない。


「いや、ここから麓へ降りる便利な魔法でも無いかなと思ってな」


「? 銀髪持ちなのに知りませんの? ……あ、そういえば、ラークは別の世界から来たのでしたわよね」


「あぁ、こっちの世界の魔法には詳しくないんだ」


 元の世界には魔法自体がないのだが、どうにもエリザの認識だと俺はすごい魔法使いみたいなので、それっぽく誤魔化す発言を心がけているのだ。


 エリザは悩むように視線を上にあげた。


「そうですわねぇ……。近距離の移動なら風魔法に乗って飛ぶのが一般的ですわね。他には変身魔法で翼を生やす人もいますが、効率が悪いので趣味の範囲かしら。あとは最上級魔法になりますが、長距離を一瞬で移動できる転移魔法もありますわ」


「ほぅ、転移魔法か。いかにも異世界って感じだな」


 試しに『智慧の一端ソピア』を起動し画面を確認。『魔法』のメニューバーがあったので指で触れる。すると、各種属性魔法の項目が表示された。


「転移魔法ってのは何属性なんだ?」


「時空系ですわね」


「ほぅほぅ」


 時空系で絞り込み検索して……あった。M.P.(マジック・ポイント)消費は1,500か。多いか少ないか分からないな。


 ちなみに画面右上の表示によると俺の総M.P.は85,235らしい。

 多い方なのかどうか一応エリザに確認してみると『分かりませんわ、普通は保持魔力を数値化なんてできませんし』というごもっともな解答が返ってきた。


 ま、いいや。とりあえず転移魔法の項目に触れると、説明文がポップアップしてきた。どうやらいちいち智慧の一端ソピアを起動しなくても、口で言えば魔法を発動できるらしい。


「どれどれ? 転移した場所を思い浮かべながら――転移魔法テレポート


 視界が歪んだ。

 と、思った次の瞬間には別の場所に立っていた。


 正面には先ほどまで頂上にいたはずの岩山。どうやらエリザに出会った場所まで移動できたらしい。


「ちょっと! 置いて行かないでくださいまし!」


 岩山の上から結構な速度でエリザが追いかけてきた。浮いているおかげか速い速い。ものの数分で俺の足下に到着してしまった。


 なぜ足下に到着なのかというと、ぜぇぜぇと息を切らして地面に両手を突いているから。幽霊でも疲れるんだな。さすがは異世界だ。


「ひ、ひどいですわ、置いて行くだなんて……」


「あー、すまん。まさか初めてでうまくいくとは思わなかったんでな」


「無詠唱――ではありませんが、呪文詠唱無しで転移魔法を成功させるなんて。さすがは銀髪持ちですわね」


 なぜか誇らしげに胸を張るエリザだった。


「さて。あまりのんびりしていると夜になるからな。さっそく住居を建てるとするか」


 築城の項目から居館を選択。……三種類に分かれているな。大、中、小か。D.P.は大だと5,000程度。しばらく使うと考えても高い消費だ。


「エリザはやっぱりデカい方がいいか?」


 公爵家って名前からしてデカい家に住んでいそうだものな。


「いえ、小さくても構いませんわ。……二人しかいないのに、あまり大きな家ですと寂しいですし」


 なにやら可愛いことを口走っていた。なら一番小さいのでいいか。D.P.消費は3,000と。


「――居館作成」


 まるで早送りのように。

 基礎ができあがり、柱が立ち、棟、梁、屋根が組み上がり壁ができる。そしておそらくは内装を作り上げ……瞬く間に平屋の住居が完成してしまった。外見はいかにもな日本家屋。錦鯉とか鹿威ししおどしが似合いそう。


 あれ? 俺、居館の小を選択したよな? ずいぶんと大きいんだが。前世的に言えばコンビニ二つ分くらいありそうな。


 まぁ、エリザが目を輝かせているからいいか。


 続いて柵を作る。

 柵と言っても杭を一本ずつ作る形らしい。D.P.は杭1本につき10ポイント。相場がよく分からないままだが、木を切り倒して枝を落とし、穴を掘って杭を立てると考えれば安いのだと思う。


「――杭作成」


 一本。先が尖った木製の杭が地面から突き出てきた。高さは2メートルほど。かなりの勢いで――なぜかエリザの足下を狙うかのように。


「にょわ!?」


 完全なる奇襲。だというのにエリザは華麗な空中ステップで突き出た杭を避けてみせた。


「あ、危ないですわね! わたくしにスキル『危機察知エラィテン』がなければ突き刺さっていましたわよ!?」


「す、すまん。別に狙ったわけじゃないんだが……」


 幽霊に突き刺さるのか? とか、そのスキルがあれば追放されなかったんじゃ? という疑問はとりあえず置いておいて謝罪した。幽霊とはいえ触れるのだから刺さってもおかしくはないしな。


 今度はエリザに迷惑を掛けないように。エリザに背を向け、何もない地面に意識を集中させる。ここに出ろ、ここに出ろと念じながら杭作成。


「にゃわー!?」


 またエリザの悲鳴が響いてきた。振り返ると、ちょっと涙目のエリザが睨み付けてくる。


 どうやら二本目は完全には避けきれなかったようで、杭の先にスカートが引っかかり白いショーツとガーターベルトが見えていた。眼福。……じゃなかった。


「わざとですの!? わざとですわよね!?」


「いや、これはおかしい。俺は地面に集中して杭を出したのだから……杭に自動察知の機能がある? 生き物とか、邪悪なものを自動で狙うんじゃないのか?」


「わたくしは死んでいますし、邪悪でもありませんわよ!」


「悪霊だろう?」


「むぐっ、――ならば!」


 エリザがぐわっ、と俺に襲いかかって(?)きて、なぜか背中に抱きついてきた。


 おんぶ。


 なんで?


「くくく、さすがの杭も術者を狙いはしないはず! そして、もしわたくしを狙ってきてもラークが串刺しになるという算段ですわ!」


「……やっぱり邪悪だよなぁ」


 まぁ、背中に胸の柔らかい感触が押しつけられているので俺としては文句はない。


 エリザのもくろみが正しかったのかどうかは分からないが、その後は杭もエリザを狙うことなく、総計100本ほどの杭を使ってぐるりと居館の周りを取り囲んだ。


 思った以上にD.P.を消費してしまったが、これでも杭と杭の間を30cmほど開けたので節約できた方なのだ。これ以上隙間を空けると小型の動物がすり抜けてしまう。



 居館と柵の作成でD.P.を2,250ポイント消費か。

 とりあえず、D.P.節約のために堀と土塁はまた後日にしよう。





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