第7話 夜逃げ


「僕らが今向かってるのは王都イザヴェルだ」

「え?麓の都市リューベルクじゃないんですか?」


俺たちは馬車の中、プライムさんに向き合う形で俺とサキは隣り合って座っていた。


「うん、少なくとも僕の責任をもってルイ君を学園に通わせる判断をした分、騎士団の管理が行き届く場所に通って欲しいんだよね」

「あれ?でも確か王都の学園ってめちゃくちゃ難しいはずじゃ…」

「この国で最難関よ。正直私も受かる自信は…」

「うん、そこについては大丈夫だよ。サキさんに関してはグールイーグル討伐の功績を踏まえて僕の名前で推薦を出しておくから、唯一推薦とかを受け付けていない王都の試験に落ちたとしてもリューベルクの学園が拾ってくれると思うよ」

「え?それって大丈夫なんですか?私なんてほとんど何も…」

「僕の見た限り君の身体能力強化魔法はスキルを踏まえたとしても騎士団基準からしてだいぶレベルが高いからね、そこは僕が保証するよ」

「あ、ありがとうございます!」


プライムさんから直々に太鼓判を押されたサキは冷静を装いながらもやはり夢の魔法騎士団から褒められた嬉しさを隠しきれずに下唇を噛み締めながらしながら頭を下げていた。


その様子を一通り見届けた俺はプライムさんへ聞く。


「えっと、それじゃあ俺も推薦を貰えるんですか?」

「いいや、君に関しては王都の学園以外認めないけど」


何を言ってるんだという表情で、きょとんとプライムさんは答える。

俺は同じくきょとんとした顔を浮かべて聞く。


「えーっと、これはつまり俺はこの国最難関の試験に合格できなかったら死ぬって事ですか?」

「ちょうどいいプレッシャーだろ?」

「すいません、これって夜逃げしてもいいやつでしたっけ?」

「もしそれをしたら僕が責任をもって君を殺すだけだよ。それに君自身本当に試験に対して不安には思ってるわけじゃないだろ?」

「……………」


俺は否定できなかった。

確かに試験そのものはそんなに怖くない。

小さい頃から勉強だけはできた、それに加え魔法を使う事ができるとなれば魔術についてもサキと共に魔法の練習に付き合ってきただけの経験はある。


とは言えどれほどの学力があろうと試験の対策をこれまで一回もやってこなかった俺がスラスラと問題を解く事ができるのかは不安に思うところはある。


「ちなみに試験はいつなんですか?」

「明後日だ」

「……俺は今日ほど遅生まれの自分を憎んだ事はありません」


こうして俺達3人は馬車に揺られながら、王都イザヴェルを目指す旅路が始まったのであった。



*******



「ん?」


馬車が村を発ってから1日が経過した時、俺とサキが同じ過去問集を隣同士一緒に睨めっこしていたら、正面に座るプライムさんが何かに気が付いて馬車から顔を出す。


「……何だろうな、あれ」

「何か見つけたんですか?」

「うん、少しここで待っててね」


すると突然、走っている最中の馬車から飛び降りたプライムさんは騎士団のマントをたなびかせながら俺達のから消える。

そしてしばらくと経たないうちに馬車も止まり、俺とサキは顔を見合わせる。


「見に行くのか?」

「ええ、どうせ暇だし。あなたは?」

「俺はこの命をかけてこの馬車の警備員という役目を果たして……」

「めんどくさいだけでしょ?それじゃ、ちょっと待ってなさい」


いつものサキならば面倒くさがる俺なんか強引に引き連れていた所であったが、流石に命のかかった受験戦争(マジ)に挑む俺を無理矢理動かすのは気が引けたのか、素直に一人で立ち上がって馬車から降りていく。







「…………静かだ」


一人になった俺はしばらくして、サキと一緒に睨んでいた過去問集をそっと閉じる。

大丈夫、だいたいの傾向は掴めた、最低でも9割くらいは取れるはずだ。


俺は腕を組んで目を瞑ると、頭の中でスキル発動、と唱えてみた。


「………やっぱ口に出さなくても出てくるか」


俺は右手に現れた例のタブレットを足の間に置くと、胡坐を組みながらガイド機能をオンにする。


「……出てよろしいのですか?」

「あぁ、少しだけ確認したい事があるんだ」


俺は念の為馬車の入り口からは見えないように体の姿勢を変えて、足の間に現れた小人フリルへ顔を近づけて小声で尋ねる。

現れたフリルは白いドレスを纏い、礼儀正しく背筋をピッシリと伸ばしたまま正座をしていた。


「……お前の姿だけを他の奴から見えなくする機能はあるのか?」

「透明化の性能はございません。ただ、昨日行ったように姿を現さずとも脳へ直接語りかける事は可能ですので、そちらで代替的に使っていただけると……」

「分かった、それじゃあ次の質問だ。お前は俺のスキルのガイド役、つまり俺からは切り離すことができない存在と考えてもいいんだな?それとこのスキルに関係しない命令はする事ができない、そうだな?」

「さようでございます。私とルイ様は一心同体であり、スキルのガイド以外の目的の命令には私は拒否権を持っているもの、と考えていただいて差し支えありませんが……それが何か?」

「いいや、それが分かればいいんだ。俺一人で何とかする覚悟ができた」

「…………?」

「消えて大丈夫だ、悪いな」


俺は軽く頭を下げてタブレットのガイド機能をオフにすると、目の前のフリルは煙と共に消えて俺は再び一人、馬車の中で静寂の時を過ごす。

しかし俺はおもむろに立ち上がると、馬車を降りて周りを見渡す。


「…………うーん」


俺はゆっくり歩いて馬車の御者の方を見てみる。


そこにはプライムさんの部下として馬車の御者をやっていた人がいない……というよりも、プライムさん、サキ、そして御者。

俺を除く全員が消えて、既に30分が経過していた。


そして俺は呟く。



「これもしかして千載一遇の夜逃げのチャンスなのでは?」

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剣と魔法の世界で俺の借金がとどまる事を知りません!ー俺はスキル『金融魔力取引』で成り上がるー 雪本 弥生 @YukimotoYayoi

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